原題:『Nabarvené ptáče』 英題:『The Painted Bird』
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
脚本:ヴァーツラフ・マルホウル
撮影:ウラジミール・スムットニー
出演:ペトル・コトラール/ステラン・スカルスガルド/ハーヴェイ・カルテル/ジュリアン・サンズ
2019年/チェコ・スロバキア・ウクライナ
悪夢のビルドゥングス・ロマンについて
最初に英題に関して説明してみたい。4番目の章である「レッフとルドミラ」においてさ迷っている主人公の少年はレッフという名の鳥を売る男の世話になる。レッフにはルドミラという女性と交際しているのだが、レッフがルドミラが小さな籠にいれて持ってきた鳥がルドミラから贈られたものだと分かるように鳥の羽根に白いペンキを塗って野外に放つ。その鳥は他の鳥の群れの中に入っていくのであるが、その「白さ」が仇となって他の鳥たちに攻撃されて死体となって落ちてくるのである。愛情の印であると同時に敵愾心を煽るその「白さ」はユダヤ人の少年も抱えたものであり、少年は安住の地を求めてさまよい続けているのである。
しかし作品の冒頭から少年が抱えていたフェレットは追いかけてきた子供たちに奪われて燃やされてしまい、その後も右前足を怪我していた馬を助けるために少年は馬を村に連れてきたのだが、回復が見込めないその馬は無惨に殺されてしまうのである。
もちろん動物のみならず少年は列車から飛び降りて逃走を目論むユダヤ人たちが次々と銃殺されていく場面や、3番目の章である「ミレル」において、少年の世話をしてくれていたミレルが自分の妻と使用人の浮気を疑い、激怒した勢いで使用人の両目をくり抜いてしまったり、レッフが首つり自殺をしている悲惨な現場を目撃したりしている。
6番目の章である「司祭とガルボス」において体調が思わしくなかった司祭が信者の一人であるガルボスに少年を託すのであるが、ガルボスは小児性愛者で、少年は毎晩強姦されることになる。7番目の章である「ラビーナ」において凍死寸前で助けてくれたラビーナと老人と一緒に暮らすことになるのだが、老人が亡くなった後、ラビーナの性的対象が少年に移る。しかしまだセックスを理解していない少年にラビーナの不満は募り、ついには少年の見ている前でラビーナはヤギと獣姦してみせるのだが、少年は自分がガルボスにされていた凌辱をラビーナが喜んで受け入れているところを見て激怒し、そのヤギの首を切ってラビーナの家に投げ込むのである。
そこで少年が気がついたことは司祭にしても5番目の章である「ハンス」において少年の銃殺を志願しながらも少年を逃がしたドイツ兵のハンスにしても老人であり、老人は暴力を振るわないということで少年は老人を襲って身包みを剥ぐのである。
さらに8番目の章である「ミートカ」において寡黙なロシア兵士のミートカに「目には目を歯には歯を」という精神を学び、貰った拳銃で自分をユダヤ人だとバカにしたオモチャ売りの香具師を銃殺するのである。つまり「ペインテッド・バード」を攻撃する者になることで自分が「ペインテッド・バード」になることを免れる術を身に付けたのである。
本作は悪夢のビルドゥングス・ロマン(成長物語)である。