原題:『Destroyer』
監督:カリン・クサマ
脚本:フィル・ヘイ/マット・マンフレディ
撮影:ジュリー・カークウッド
出演:ニコール・キッドマン/セバスチャン・スタン/トビー・ケベル/タチアナ・マスラニー
2018年/アメリカ
女性が主人公の「アメリカン・ニューシネマ」について
「ストレイ・ドッグ(迷い犬、はぐれ犬)」という邦題では本作に誤解が生じるように思う。本作は2017年に主人公でロサンゼルス市警の警察官であるエリン・ベルが17年前に相方のクリスと共に犯罪組織の潜入捜査をした際に、自分の人生を変えたいとクリスに告白し、サイラスが率いる犯罪組織が企んだ銀行強盗に加担する振りをしながら奪ったお金をそのまま持ち逃げしようとしたのだが、土壇場で予期せぬことが起こり捜査官として銀行に入って行ったクリスは殺され、エリンは事故に遭ったように見せかけることで市警に悪だくみはバレなかったものの、盗んだお金とクリスとの間に生まれた16歳になる娘のシェルビーだけが残されていた。
しかし上記の出来事はエリンのわがままが起こした事件であり、結果的に誰も得をしていないのだから、本作は原題通りに「デストロイヤー(破壊者)」の物語なのである。だからと言って本作の出来が悪いと言うのではない。冒頭のエリンの両目のアップから始まり、ラストも同じ場面で7歳だった娘を背負いながら冬の山道を歩いたという娘との唯一の思い出を思い浮かべながら意識を失くしていくエリンを観ながら、これはシングルマザーが主人公としては初めての「アメリカン・ニューシネマ」ではないかと思うからである。
挿入歌であるダイア―・ストレイツの「ザ・マンズ・トゥー・ストロング」を和訳しておきたい。タイトルの「ザ・マン」とは神を指していると思う。
「The Man's Too Strong」 Dire Straits 日本語訳
俺はただの年季の入ったドラム少年で
戦争中はよくプレイしたものだ
俺は大勢に向かって演奏する曲を
(ジャムセッションならぬ)「拷問のセッション」と呼んでいる
今の俺は戦争犯罪人と呼ばれ
俺自身消え去ろうとしている
教父よ
どうか俺の懺悔を聞いて欲しい
俺の略奪は(戦争時は)合法的なもので
俺はそれを「信念」と呼んでいる
俺は金を持って逃げて
泥棒のように隠れ
俺自身の軍隊と悪党の力で
歴史を書き換え
記憶をでっちあげているんだ
俺は全ての書物を燃やしてしまった
俺にはまだ彼の笑い声を聞くことができるし
まだ彼の歌を聞くことができる
その男はとても偉大で
とても強いから
俺は従順になろうと努力したし
おとなしくなろうと努力したけれど
俺は女のように悪口を言い
子供のようにすねたんだ
俺は孤独でいられるように作られた壁の背後で
生きている
俺は自分が決して知りようがない平和のために
努力してきたんだ
俺にはまだ彼の笑い声を聞くことができるし
まだ彼の歌を聞くことができる
その男はとても偉大で
とても強いから
中庭から太陽が昇り
誰もが彼の言葉に耳を傾けていた
「あなたはいつも裏切っていたが
私はいつだってあなたを受け入れた
あなたは裕福なのかもしれないが
私は自分の人生に誓う
あなたのお姉さんが私にくれたダイアモンドを
あなたの妻に譲る」
教父よ
どうか間違いを犯した私を助けて欲しい
その男はとても偉大で
とても強いから
Dire Straits - The Man's too strong