原題:『ばるぼら』
監督:手塚眞
脚本:黒沢久子
撮影:クリストファー・ドイル/蔡高比
出演:稲垣吾郎/二階堂ふみ/渋川清彦/石橋静河/美波/大谷亮介/片山萌美/渡辺えり
2020年/日本・ドイツ・イギリス
父親の名作を「私小説」として描く息子について
手塚治虫の名作を息子が映像化するというのだからかなり期待して観に行ったのだが、クリストファー・ドイルの撮影も橋本一子の音楽も悪くはないのだが何とも微妙な仕上がりだった。
メインキャラクターを除いてオリジナルストーリーはほぼ無視したような感じで、主人公の美倉洋介がスランプに陥って小説が書けない時に、新宿駅の地下でヴェルレーヌの『秋の歌』を諳んじるホームレスのばるぼらと遭遇し自宅に連れ帰ったのだが、美倉にとってばるぼらはインスピレーションの源泉ではなく、寧ろ美倉に憑りつき他人を寄せ付けなくする「耽溺」と化し、美倉の心を占拠するのだが、だからといって美倉が傑作をものにするわけでもなく、美倉が自滅するまでが描かれているように思う。そんな「観念の物語」が面白いのかどうかが微妙なのである。