原題:『さくら』
監督:矢崎仁司
脚本:朝西真砂
撮影:石井勲
出演:北村匠海/小松菜奈/吉沢亮/小林由依/水谷果穂/山谷花純/寺島しのぶ/永瀬正敏
2020年/日本
理想の家族を崩壊させる見えない「狂気」について
主人公で語りてである長谷川薫の家族は「オープン」といった感じで、薫の妹の美貴が両親に疑問を呈した、前夜に聞いた母親の喘ぎ声に対してセックスに関して丁寧に答えている。いつか薫にも好きな人ができたらそうなると言うのだが、まさか薫が好きになる相手が長男の長谷川一(ハジメ)になるとは想像もしていなかったであろう。
確かに一は理想的な男性で野球部でもピッチャーを務め、一に矢嶋優子という恋人ができると美貴は拗ねてしまい決して優子に会おうとせず、優子が九州の福岡に引っ越してから2人は遠距離恋愛をするのだが、美貴が一宛ての優子の手紙を隠してしまったことで2人の関係は壊れてしまうのである。
セックスを伴わない一に対する美樹の愛情は本物であろうが、その愛情が一の人生を狂わせ一を自死に導いてしまうことは皮肉なのだが、その美樹のブラザー・コンプレックスとも呼ばれる「狂気」に家族の誰もが気がついていないところに深刻さがあると思う。例えば、幼い頃に兄弟たちの遊び場所に現れた「フェラーリ」と名づけられた男ならば、その常軌を逸した言動で狂気を抱えているということは分かるが、美貴の「静寂」な狂気には誰も気がつかないのである。
ところで本作の見所はさくらと呼ばれる犬の「ちえ」の演技力ではないだろうか。例えば、浮気を疑われた父親の長谷川昭夫が家族で卒業アルバムを見て相手を確認するシーンにおいてさくらがアルバムを覗き込むように見るところなど完璧だと思う。