キリンビール編、昭和63年5月2日初版発行、河出書房新社、定価580円
生協の書籍部で購入した時には二回生になっていた。盲牌名人のO野が下宿に来て、本棚にあったこの本を手に取りニヤッとした。そして「妙な音楽ばかり聴いていると思ってたが、本も読むんだな」と失礼なことを言った。彼の父親はキリンビールに勤めていた。
さて思い出はこのあたりで切り上げて本題に入ろう。明治時代には実に多くのビール会社があった。キリンの前身であるジャパン・ブルワリー・カンパニーが「麒麟ビール」というブランドを製造したのは1888(明治21)年5月。これが国産ドイツ風ビールの誕生とされる。当時は国産イギリス風ビールも売られていたのだが、主流にはなれず急速に衰退する。その理由はぜひ本書を読んで確かめて欲しい。
戦争中、戦後の流れも丁寧に描かれており、資料的価値は非常に高い。自社の製品だけでなく、他社のものも紹介するキリンビールの懐の深さにはおそれいる。現在絶版なのが残念だが、古書購入は容易である。
1987(昭和62)年にアサヒビールが「スーパードライ」を販売して、その後キリンは出荷量ベースで首位から陥落し、冬の時代に突入する。この劇的な変化をしっかりと頭に刻んで読むと、なお一層面白くなるだろう。
