幻冬舎、2006年8月25日第1刷発行、定価(本体1800円+税)
青酸性毒物による連続無差別殺人事件にひょんなことでかかわってしまった杉村三郎。彼はかつての部下(原田という反社会性人格障害の女性)から恨まれ、職場で睡眠薬をもられて倒れる。それからも彼女から執拗ないやがらせを受け、ついに最愛の家族を人質にとられ驚愕する。「暗さ」が全体に漂う重いテーマの小説だ。
財閥企業の総帥である義父(今多嘉親)は杉村に向かってぼやく。
‥究極の権力は人を殺すことだ。他人の命を奪う。それは人として極北の権力の行使だ。しかも、その気になれば誰にでもできる。だから昨今多いじゃないか‥たとえばあれが青酸カリだったなら、君らはみんな死んでいた‥あの局面では原田いずみは、君らにとって、抗いようのない権力者だった。死ななかった、殺さなかったんだから違うという言い訳は通用しない。他人を意のままにしたという点では同じなのだから‥だから私は腹が立つ。そういう形で行使される権力には誰も勝てん。禁忌を犯してふるわれる権力には、対抗する策がないんだ‥
生まれ育った環境は人間を大きく、そして幸せにもするが、その一方で人格を破綻させて悪党を生み出す場合もある。身勝手な性悪女(原田)はやり場のない怒りを幸福な善人にぶつけて傷つけるが、冷え切った心が満たされることはない。虚しさを打ち消すために、また犯行を重ねていく。そこには絶望にも似た悲しみが存在する。
杉村はこう考える。
‥家のなかは清浄だった。清浄であり続けると、私は勝手に思い込んでいた。信じ込んでいた。だがそんなことは不可能なのだ。人が住まう限り、そこには毒が入り込む。なぜなら、我々人間が毒なのだから‥
更に義父は意味深なことを呟く。
‥どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。完全に遮断することはできん‥それが生きるということだ‥
今年読んだ本の中で、これが最も強く、胸に突き刺さった。
青酸性毒物による連続無差別殺人事件にひょんなことでかかわってしまった杉村三郎。彼はかつての部下(原田という反社会性人格障害の女性)から恨まれ、職場で睡眠薬をもられて倒れる。それからも彼女から執拗ないやがらせを受け、ついに最愛の家族を人質にとられ驚愕する。「暗さ」が全体に漂う重いテーマの小説だ。
財閥企業の総帥である義父(今多嘉親)は杉村に向かってぼやく。
‥究極の権力は人を殺すことだ。他人の命を奪う。それは人として極北の権力の行使だ。しかも、その気になれば誰にでもできる。だから昨今多いじゃないか‥たとえばあれが青酸カリだったなら、君らはみんな死んでいた‥あの局面では原田いずみは、君らにとって、抗いようのない権力者だった。死ななかった、殺さなかったんだから違うという言い訳は通用しない。他人を意のままにしたという点では同じなのだから‥だから私は腹が立つ。そういう形で行使される権力には誰も勝てん。禁忌を犯してふるわれる権力には、対抗する策がないんだ‥
生まれ育った環境は人間を大きく、そして幸せにもするが、その一方で人格を破綻させて悪党を生み出す場合もある。身勝手な性悪女(原田)はやり場のない怒りを幸福な善人にぶつけて傷つけるが、冷え切った心が満たされることはない。虚しさを打ち消すために、また犯行を重ねていく。そこには絶望にも似た悲しみが存在する。
杉村はこう考える。
‥家のなかは清浄だった。清浄であり続けると、私は勝手に思い込んでいた。信じ込んでいた。だがそんなことは不可能なのだ。人が住まう限り、そこには毒が入り込む。なぜなら、我々人間が毒なのだから‥
更に義父は意味深なことを呟く。
‥どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。完全に遮断することはできん‥それが生きるということだ‥
今年読んだ本の中で、これが最も強く、胸に突き刺さった。
