青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

既に「ブーム」ではないLRT。

2023年11月16日 22時00分00秒 | 宇都宮ライトレール

(商売繁盛、開業ブーム?@宇都宮駅東口電停)

開業してから一ヶ月半、そろそろ開業ブームも落ち着いて・・・?なんて思って訪れた秋の宇都宮行ではありますが、土曜日の午前中で12分間隔の列車を待つ宇都宮駅東口電停の乗客たち。思った以上の数の乗客は、我々みたいな記念乗車の物見遊山のマニア多めかと思いきや、普通に部活のジャージ姿の中学生やお使い姿のエコバッグのご婦人方も混じっており、早くも宇都宮の街の重要な交通インフラとなっているようです。開業直後は発着する電車の乗降に手間取り、現金客が捌けなくて大混乱に陥ったそうで、ホームには混雑対策であろう常駐の係員さんが配置されて、乗降客の整理を行っていました。

到着する列車から乗客を降ろし、一度扉を閉めて運転士氏が車内巡回とエンド交換。改めて開扉を行って乗客を迎え入れるスタイルの乗降整理。おそらく、開業当時はこの乗り降りの整理がごっちゃごちゃで、降車客と我先に乗り込む客で車内が混乱してしまったのだろうな。乗降分離と整列乗車大事。宇都宮ライトレールの車両、当然ながら超低床型の車両なので、ホームと車内の段差はほぼなく、年配者多めの乗客に優しい交通手段が提供されているのだな、と。

宇都宮駅東口から出発したライトレールは、鬼怒通りを東へ。通りの右左には新しいマンションや店舗・商業ビルも目立ち、改めて再開発された地区なのだなあという雰囲気。西側の旧市街に比べ、ライトレールの開業によって、不動産価値なんかも相当に上昇したのではないか?と。新幹線停車駅から直結する交通機関の沿線でもあり、新幹線通勤が可能な会社ならば、東京からの通勤圏と見做すことが出来なくもない。宇都宮へ向かう東京発の最終新幹線は22:44発で、宇都宮到着が23:38。ライトレールは新幹線の始発と終発に合わせて運転されており、最終の宇都宮駅東口発は23:46の平石行き。鬼怒川右岸の居住者であれば、十分に利用可能なダイヤである。

宇都宮ライトレールの沿線概要をさらっと。まずは宇都宮駅周辺地区。駅東口電停からはしばらく鬼怒通りの併用軌道を進み、平石駅の手前で併用軌道を立体交差で離れ、専用軌道で田園地帯を抜けて鬼怒川橋梁を渡って行きます。宇都宮大学陽東キャンパス電停の南側には映画館やスーパー銭湯を併設する「ベルモール」という大きなショッピングモールがあって、大学の学生とお買い物客の利用が目立ちましたね。車庫のある平石あたりまでが宇都宮駅から続く商業・住宅地区と言う感じで、ひとまずはこの区間の短距離利用が多いのかなと。

あ、そうそう。この区間で驚いたのは、峰電停の手前で4号国道をLRTがオーバークロスする事ね。最初っから道路と一緒に立体交差で国道との交差点をクリアすることが前提で建設されているのが新設のLRTらしい。今までの路面電車だったら、ここは信号待ちで結構時間を取られるシチュエーションだと思うのだが。新型のLRTは国道の上の立体交差をスイーっと上り下りして越えて行くのだが、宇都宮ライトレールの車両は、建設計画の中でこのような「都市に現れる人工的な急勾配」みたいなものを越えられるような出力の車両設計を求められたのだとか。こういうのも、これからの新設LRT車両には大事なスペックになるのだろうねえ。ちなみにこのような「併用軌道の立体交差」と言うのはこれまであったのかなあ。私の乏しい路面電車経験では記憶にないのだが・・・

 

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光よ届け、希望の轍。

2023年11月12日 22時00分00秒 | 宇都宮ライトレール

(久しぶりの二人会@JR上野東京ライン車内)

小学生までは結構月イチくらいでやっていた長男の息子との日帰り電車旅。ご多分に漏れず、中学に入ってからは部活だ友達付き合いだ塾だと休みの日でも忙しく、暫く休日だけの親子の関係もご無沙汰でいた。そんな10月のある日曜日、金曜日で中間試験も終わり、翌日の塾も夜の7時からだということで「テストも終わったし、久し振りにどこかへ行きたい。なんかいいとこないの?」なんて言い出した。夜7時から塾となると、夕飯の時間も考えて帰宅は夕方6時がリミット。そうなると大したところには行けないでなあ・・・とも思ったのだけど、「早く起きれるか?」と聞いたらそこは部活の朝練で鍛えている頼もしさ、どうとでもなるという。「あんまり朝早くから出掛けてって塾の途中で寝ないでよ!?」なんていう嫁さんのクギ差しを華麗に交わしつつ、朝6時半に家を出発。朝の上野東京ライン・快速ラビットの人になるのであった。膝を詰めてのボックスシートで、時刻表を繰りながら到着時刻を調べる息子。上野東京ラインの時刻が探せず、「乗り換え案内の方が簡単だよ」とポケットからスマホを出した。Z世代のさらに向こう側、当然ながらのデジタルネイティブである。

横浜の駅から2時間半、宇都宮の街にやって来た親子二人。最近、東武電車が好みなので北関東方面に行く機会は前より増えたのだけど、日光方面ばかりに行ってしまって宇都宮に来るのはだいぶ久し振りになる。宇都宮は休日お出かけパスのさらに向こう側(適用は自治医大まで)なので、乗り越し運賃を330円払って改札を出る。駅を跨ぐ東西通路から眺めれば、手前のホームに止まっているのは、宇都宮から先の黒磯方面や日光線で使われているE131系。このゾーン、東北本線筋はE231の補助編成の5両で運転されていたのだけど、日光線と運用をまとめてE131へ置き換えを行ったことで5両→3両と2両分の減車。合理化により、日光線の朝ラッシュなどは減便と相まって乗り切れない乗客が出たりしており、すこぶる不評なのだとか。コロナ明けの乗客が戻り切らないことと、そもそもの少子高齢化の進行により輸送需要の先細りが否定出来ない現在の人口動向。どちらも鉄道会社の新規投資に抑制的にならざるを得ない要因ですけど、何とも世知辛い話ではある。

だいたいにおいて、コロナ禍、災害による鉄路の寸断、少子高齢化、過疎化、乗客減、燃料費高騰、乗務員不足、減便、値上げ・・・と鉄道に対してよろしくないニュースが多すぎるこのご時世。どのみち国は道路にはふんだんに予算を付ける割には鉄道に及び腰だし、まあそれは「国鉄」と言う結局は債務のカタマリみたいな終わり方をしたものに対する徹底的な忌避感なのかもしれませんが・・・(国鉄に関しては一応独立採算制であったことは申し添えておきますが)。そんな未来に対してどうしても希望を持ちづらい「鉄道」と言う産業に、おそらく近年では稀に見る明るい話題がこの宇都宮の街から発信されたのは今年の8月のこと。鉄道に興味のない一般の方でもテレビのニュースでも見たと思うのですが、宇都宮市とお隣の芳賀町を結ぶ「宇都宮ライトレール(LRT=Light rail transit ・愛称:宇都宮ライトライン)」の開業です。例えて言うなら鉄道業界と言う砂塵渦巻く荒野に咲いた白いユリのような希望の轍も、8月の開業から一ヶ月半。そろそろ開業フィーバーも一段落したかな?と言うことで訪れた今回の二人会。息子と新規開業のLRT路線で遊んで来ようという趣向。

LRTの出発点は、宇都宮駅東口電停より。宇都宮の街っていうのは、JR駅から少し西側に離れた東武宇都宮駅との間に繁華街があるイメージがある。当然駅ビルなんかも駅の西側(東武側)に向いて建っていて、そもそも、駅の東側って何があった?と言われると何も思い出せない。もう20年前くらいのオーダーになるけど、あれは確か宇都宮競馬に年末の大一番であるとちぎ大賞典を見に行った大晦日の話。クルマで行ったら大雪に降られちゃいましてね。クルマが全く動かせなくなって、捨てて帰る訳にもいかないから大学時代の友人とか先輩とか電車でみんな帰って貰って、自分ともう一人の後輩だけが宇都宮駅の東口にあったビジネスホテルに泊ったんだよなあ・・・ということが思い出。あん時の宇都宮駅東口、特に何もなかった気がするのだけど、ウン十年ぶりの宇都宮駅東口は小ぎれいな駅前広場が作られており、新しい商業施設と病院、そしてJRの線路と並行する形でLRTの乗り場が整備されていました。

宇都宮ライトラインが結ぶのは、宇都宮駅東口から、鬼怒川を渡って芳賀町の芳賀・高根沢工業団地までの14.6km。起終点を合わせて停留所は19ヶ所。終点まで約45分で450円は、いわゆる路面電車の規模としてはそれなりに大きい。これより小さい規模の路面電車なんていくらだってありますからねえ。基本的には現金か車内のカードリーダーにICカードを読み込ませての運賃収受方式。私たちが行った際はまだ一日乗車券が発売されていませんでしたけど、現在は一日1,000円のフリー乗車券が発売されています。ただ、残念ながら宇都宮駅東口電停の定期券売り場でAM9:00~19:00までの発売と微妙に使い勝手が悪い。朝早めから乗りたい私のような人種が使えないのだが、フリー乗車券の出番は通勤時間が終わってから、と言うことなのだろうか。一日券はICタイプではなく紙券らしいので、全国の地方私鉄なんかだと運転士に常時携帯させて希望者には手売り対応してますけど、わざわざ運転士に金券と現金(釣銭用)を持たせるのは非効率って考え方なんですかね。

少し色付いた広場の街路樹を横目に、宇都宮ライトラインの車両がゆっくりとカーブを曲がって入線してくる。黄色と黒の斬新なデザイン。このカラーリングとデザインを最初見た時に、「なんか家庭用の高圧洗浄機みたいだな」って思った記憶がある(笑)。ケルヒャー感がすごい。宇都宮ライトレールの車両HU300形は、もちろんケルヒャー製ではなく新潟トランシス製造で、全部で17編成が開業時に準備されました。それにしても、何から何まで新しい宇都宮ライトレール。本邦において、既存路線の転換ではなくこのような完全に新しい形で路面電車が開業するのは、1948年(昭和23年)の加越能鉄道高岡市内線(現在の万葉線)にまで遡らねばならないというのだから、このLRTの敷設がどれだけ日本国内の鉄道の歴史においてエポックメイキングであるかが分かろうというものだ。「なんだか近未来的!すげえね!」と最近ぶっきらぼうになって愛想の悪くなってきた息子も興奮を隠さない、宇都宮ライトレールの旅が始まります。

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