青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

最後の王国

2015年02月01日 11時55分05秒 | 秩父鉄道

(副本線進入…@永田駅)

秩父鉄道は、単線の割には1時間あたり約上下2本の旅客列車に貨物列車が絡む意外に過密なダイヤが組まれております。貨物列車は、上下列車を一括で退避したり、後続の電車に追い越されたり、貨物列車同士の交換をするのに長時間停車を含め実にのんびりと寝たスジで走ってるので、電車にて追っかける事も出来るのが嬉しいところ。旅客列車に比べると圧倒的に長大な編成の貨物列車は、交換や追い越されの長時間停車をする場合には本屋から一番遠く有効長の長い副本線に入り、進路の開通を待ちます。上下列車の交換待ちのために永田駅の副本線に入線するデキ501牽引の7005列車。

 

波久礼の駅から国道に出て北上、国道沿いのインカーブへ。この辺りの並走する国道140号ってのは秩父方面へのメインルートなんで、アングル的にはクルマの被りは避けられないところ。イチかバチかのギャンブル構図になってしまうので避けたかったんだが、他にこれと言って撮りたい構図もなかったんでやってみる事に。カーブの向こうにデキ(7304列車)の姿が見えた頃に奇跡的に車の流れが切れ、「っしゃあ来たか!」と思ったのだが、べスポジの切り位置ではガッツリとトラックに入り込まれるのでありました(笑)。

 

何とも中途半端な結果を抱えて波久礼の駅に戻ると、今度は返空の7105列車が副本線に進入して来ました。デキ300シリーズは、正面窓が細いのが特徴。田舎ヤンキーがかけている細いレンズのメガネのような(笑)。貨物列車は小さな波久礼駅のホームを大きく通り過ぎ、出発信号機の前まで行って停車。ブレーキ管の中をエアーが伝わる空気音が聞こえてきます。ヤマから降りて来る積載の鉱石列車は総重量1000tですが、荷卸しをして空っぽになった空車でも総重量は300tあるとか。


波久礼から上長瀞へ。この駅に初めて来た時にも思ったんだけど、ホームの上屋を支える古レールのカーブが優美な駅です。土休日は長瀞周辺の散策をする観光客も目立つ駅ですが、この日は人っ子一人おらずひっそりと静まり返っておりましたねえ。


駅の北側に続く小道から先ほど波久礼の駅に止まっていた7105列車を。ちなみにこの列車、波久礼で15分止まった後、長瀞で上り貨物、上り列車、下り列車の退避のため35分くらいの長時間停車をこなしております。そんな長時間停車の間機関士の方は何をやっておるのでありましょうか(笑)。この駅横の小道は長瀞名物の桜並木になっておりまして、開花時はSL狙いの陣取り合戦が尋常じゃない場所でもあります。あと2ヶ月もすれば、再び激戦の火ぶたは切って落とされるのでありましょう(笑)。


定番。定番。ど定番。なんか意識はしてなかったんだけど定番の親鼻鉄橋に来てしまった。午後順光なんで狙ってもいいかなと思ったのだが、西の空は雲に覆われてしまってこれでパッとしない写真になるのは確定か。荒川の流れに洗われた変成岩の河原に陣取りつつ、橋を渡って行く積載貨物の盃のような形を眺めていると、ライン下りの船頭さんも船を止めて秩父の貨物を見送ります。


親鼻の陸橋から返空の7205列車を。牽引機は松尾鉱業鉄道出身のデキ107ですが、岩手県は八幡平にあった「天空の鉱山」こと松尾鉱山からやって来たデキ107は、前面ガラス上のヒサシ(つらら切り)が特徴。松尾鉱山は、ピーク時は八幡平の山奥に1万人を超える鉱山都市を形成し、「東洋一の硫黄鉱山」と言われた天然硫黄の鉱山でした。今はワンダーJAPANとかそっち方面に有名な鉱山廃墟群となっているそうだが、いやー、産業遺産マニアとしてはこれはそそりますなあ。


太陽は西に傾き、先ほどのデキ301に牽かれた貨物列車が遠くに秩父の山並みを望む親鼻駅の副本線に入って来ました。ちなみに、秩父鉄道では電機は冬場だけパンタ2丁上げになるのです。架線の凍結などによる集電不足を予防するためなのですが、やはり片パンより2丁上げのほうが圧倒的にサマになるんで、秩父のデキを撮るには冬場に来た方がいいと思う。


親鼻を出る7106列車。秩父の石灰石列車に積まれる財源は、影森にある三輪鉱山と、武州原谷で積まれる群馬の叶山鉱山から産出された石灰石ですが、その産出量は三輪が年間70万トン、叶山が年間200万トンと大きな開きがあります。新しく開発された叶山鉱山は、群馬と埼玉の県境付近にある採掘現場から、地下に埋設された20km以上のベルトコンベアーで武州原谷の工場まで石灰石を送り込むと言う大掛かりなシステムが構築されているそうな。今は石灰石のみを運ぶ秩父鉄道ですが、以前は秩父地区に点在する工場から原石だけでなくセメント含めあまたの派生製品の出荷があり、色々な私有貨車が混成されて秩父路を走りまくっていた時代がありました。


夕暮れの武甲山をバックに、和銅黒谷駅で交換する7305列車と7206列車。デキ107は鉱山鉄道向けに投入された車両だけあって、同じデキ100シリーズに比べて出力が高いのが特徴。荷を積み、ヤマを下り、荷を降ろし、ヤマへ戻り。毎日の風景の中で、秩父の産業の動脈として黙々と続けられる営みにマニアとして感謝せねばなりません(笑)。


通常スジでは20時、臨時スジでは22時まで貨物列車の設定があるので、撮ろうと思えばまだまだ行けるのですがそろそろ帰り支度と言う事で武川の駅に戻って来ました。日もとっぷり暮れ、武川の駅で三ヶ尻線の進路開通を待つ積載の貨物列車をバルブ。三脚持ってないからきっついわー。

青いナッパ服を着た機関士が運転台に乗り込むと、機関車のコンプレッサの音。
そしてブレーキ管を抜けて行くブレーキのエアー音。
発車の一瞬20両のヲキ車が奏でる連結器の衝撃音が乾いた夜空に響けば、貨物はゆっくりと消えて行くのであります。
ああ、ここはまさしく私鉄貨物最後の王国。
コメント
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