青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

鬼怒の川風、男体遥か。

2023年11月22日 17時00分00秒 | 宇都宮ライトレール

(撮る人・二態@芳賀・高根沢工業団地電停)

工業地帯の大通りにある、芳賀・高根沢工業団地の電停を折り返して行くLRT。お試し乗車なのだろうか、出発する車両をバックにスマホで記念撮影する妙齢のご夫婦たち。そして、通りから狙うスーツ姿の男性。撮る人二態。この辺りまで来ると土休日では車通りは薄く、存分に併用軌道を走行するLRT車両を撮影することが出来ます。バックの森は「かしの森公園」の里山の森。大きく開発された工業団地も、もとは雑木林の広がる農村地帯であったのだろうと思われ、森の向こうにアーチ形の本田技研工業の栃木体育館が見える。福利厚生施設でこの規模なのだから、さすがは世界的自動車メーカーである。研究所の周辺は、ホンダ関連の従業員が使用する駐車場が谷を越えて丘の向こうまで続いている。従業員のクルマだけでなく、日中に部品や資材を納入するトラックの出入りとかもあるのだろうし、平日のクルマの流れは相当なもんなんだろうな。芳賀・高根沢工業団地に勤務する企業の従業者数は、平成25年時点というやや古い数字ながら約1万2千人というデータが芳賀町の資料にあるのですが、その全てがホンダ関連企業のものだったりします。この中からどのくらいの従業員がLRT利用に遷移するのかは不明ですけど、1割だとしても1,200人/日だし、それなりのインパクトはあります。

かしの森公園付近を往くLRT。宇都宮ライトレールの軌道は、中央にポールを挟んで相合い傘のように架線が吊架されているのが特徴的である。四車線道路の真ん中にゆったりした間隔で敷設された軌道は、高度経済成長期に「モータリゼーションの荒波に飲まれて消えて行った」全国各地の路面電車の苦い歴史を反省点としているようにも見受けられる。というか、新設軌道だから当たり前なのかもしれないのだけど、一部の宇都宮市街の区間を除けば、路面電車らしい街の雑踏の中の情景とか猥雑さみたいなものとは無縁なんですよね。そして撮影時にクルマとの神経をすり減らすような戦い・・・いわゆる「被った/被られた」みたいな話とも全く無縁。国土交通省のHPには、「LRTとは、Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する軌道系交通システムのことです。」とあるのだが、これが定義だとすると、宇都宮ライトレールは「定時性・速達性」の面でどうしてもクルマと戦うような構図になってしまう既存の路面電車とは異なる、真の意味でのLRTなんでしょうね。

再び宇都宮駅東口方面行きのLRTに乗り込み、芳賀の街を通り抜けて行く。シューンとした軽やかな電子音を奏でながら、インバーター制御の車両がスイスイと軽やかに、まるでダンスを踊るように街を往く姿は、まさに「街の遊撃手」。街の遊撃手って言えば我々世代には「いすゞジェミニ」のキャッチフレーズとしてつとに有名だったので、ホンダの街にはそぐわないかもしれないが(笑)。ジェミニ、ピアッツァ、アスカとか、いすゞの生産していた乗用車の時代を知る人も既に相当なおっさんではないかとは思うが。

帰りも一ヶ所くらいどこかで・・・と思い、飛山城跡電停で途中下車してみる。鬼怒川橋梁の上り口にある電停で、田園地帯のど真ん中にある。周辺はおそらく市街化調整区域と見え、田園地帯の中に昔からの農家が屋敷森に囲まれながらぽつりぽつりとあるような雰囲気。徒歩圏内の周辺住民はそこまでいなさそうなのだけど、その駅前の広さを生かして大きめの駅前ロータリーと利用者向けのパークアンドライド用の駐車場があって、鬼怒川左岸地区のパークアンドライド需要を幅広く拾い上げているようだ。ここにクルマを置いてLRTで宇都宮の中心市街に出れば、川を渡らない分渋滞を避けられる効果はありそう。市内に出かければ場所によっては駐車場代もかかるだろうし、交通の結節点としてそれなりのニーズはあるのではないですかね。宇都宮駅東口電停までは片道250円・23分。ベルモールのある宇都宮大学陽東キャンパス電停までは片道200円・10分のアクセス。

電停は鬼怒川橋梁に向かって大きく登って行く急勾配の手前に位置していて、坂を登り切ったレールの先には日光連山と高原山の連なりが霞んで見える。もう少し季節が進んで冬になれば、澄み渡った空気の向こうにくっきりとその山容が望めるのではないでしょうか。おそらくこの駆け上がりの坂道も60パーミル前後の勾配だと思うのだが、標識がないのでよく分からないですね。軌道法に準拠した形で建設されたLRTなので、こんな立派な高架の専用軌道の部分でも速度は法令の関係上40km/hに制限されていて、ちょっとスペック的には持て余し気味の感もしますねえ。将来的には制限速度も70km/hまでの引き上げを行う予定と聞きますが、法令的にはどうクリアするのだろうか。特例扱いなのかな。

鬼怒川の川風を突いて急勾配を駆け下りて来たLRT。
真ん中に架線柱が立っているので交わしようがないのですが、それでも駅(電停)撮りで仕留めるのはこの電停が一番いいかな。

コメント
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