青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

何よりも、走り続ける意味ありて。

2024年07月15日 10時00分00秒 | 弘南鉄道

(お岩木朧ろ@義塾高校前駅)

朝は何とかその姿を確認できた岩木山も、日が昇るにつれてその姿は梅雨らしいガスっぽい空気に覆われて霞み、モヤり、朧ろになってゆく。リンゴ畑の中の義塾高校前駅、弘前方面からやって来た電車には土曜日ながら何人かの学生の降車客がありました。部活なのかな。東奥義塾中学校・高校は沿線最大の中高一貫校で、合わせて1,000人程度の生徒数が在学しており、大鰐線の最大の顧客ともなっています。ただし、最近は同校も少子化による生徒数の減少が目立っており、また生徒の利便性を鑑みて学校側がスクールバスを走らせたりしていて、沿線から鉄道を使った学生の流動は漸減傾向。東奥義塾のスクールバスは、弘前中心部や近郷市街地だけでなく、遠くは五所川原駅前や黒石駅、浪岡駅前などからも走るのだから大したものである。特に黒石市方面とか、弘南線+大鰐線両方の利用流動に関わって来そうだ。まあ、弘前駅から中央弘前駅までの乗換を考えると、電車で通うのはあまり現実的なルートではないのかもしれないが。

弘南線には「弘前東高校前・柏農高校前・尾上高校前」と三つの学校駅があり、かたや大鰐線には「弘高下・弘前学院大前・聖愛中高前・義塾高校前」と四つの学校駅があることからも、通学需要というのは、弘南鉄道全体に課された重要なタスクと言えます。そもそも、弘前という街は現在でも青森県の国立大学(弘前大学)が置かれている文教都市で、それは弘前藩の時代から藩校が置かれたことからも分かります(ちなみにその藩校が現在の東奥義塾)。市内の高校数なども、周辺の市町村に比べると明らかに多く、その多くは弘前城周辺の旧市街や市南部の大鰐線沿いに集中しているのも特徴です。勿論、現在の通学事情は弘前駅からのバスだったり、親の送迎などが主力なのでしょうが、雨の日も風の日も雪の日も、沿線の学校群に生徒たちを安全安心に送り届けるための公共交通機関として、弘南線と大鰐線の存在を無視するわけには行きません。単純に「収支が悪いから」と一律に廃止やバス転換に進めないのは、この辺りの「公共性の強さ」が要因の一つなのでしょう。というか、赤字で廃線にしてたら日本中の地方のローカル私鉄が廃線になってしまいますよね。もちろん、通学のような一時に大量の流動が発生する需要に対応することについては、2024年問題に端を発したバスのドライバー不足も影響することは論を待たないと思いますが。

紫陽花が色づき始めた弘前学院大前駅。草生した線路をゆるゆると、中央弘前行きの電車がやって来る。どうしても、収益面の厳しい地方のローカル私鉄を見ると、遠くの人々から「乗って残そう」だとか、「クラウドファンディングしましょう」だとか、どっかで聞いたような対処療法的な話が出て来る。そもそも、地元の人が乗ってないから苦しいわけでして、地元の人が大して乗っていないものを「乗って残そう」なんて話に意味があるのか?というねえ。そして「乗って残そう」以外の知恵が出せないローカル線は、過去の事例を見ても存続はなかなか厳しいのでは?という思いはある。結局は、残るも残らないも「利用者は少なく収支は赤字だが、地域の公共交通として存続を希望する」という地元の明確な意思と、地元自治体から金額の大小にかかわらず「支援の旗」が明確に上がっているかどうかだよな。ただ、財政の厳しい地方の市町村単位の支援は、どうしても「あっちが出せ」「こっちは出さん」と行政同士の利害の対立を招いてまとまらない場合もあるので、そこは県や国が率先して調整に出てかないといけないのかなと。設備産業である鉄道会社は、日々の軌道修繕や車両の保守、大鰐線であれば石川高架橋を始めとする大型の土木構造物の保守問題、今後想定される車両更新だったり、一企業ではどうにもならない規模の金額が必要となる時期が絶対に来ます。そこの費用と便益を考えて今から準備するか、それとも「民事不介入」を決め込んでサドンデスを待つかも行政手腕でしょう。先日、高松の「ことでん」に対し「鉄道事業再構築実施計画」に基づいて香川県と地元自治体から5年間で約97億円の支援が実施されることが発表されていますが、規模の違いこそあれ、本気でどうにかしたいのなら、それだけの長期の支援と金額がかかるのが鉄道事業ではあります。

スーパーが併設された弘前学院大前駅から、電車に乗って街へ出て行く住民たち。単純に「赤字を容認する」ということではないけれど、バスを含めた公共交通体系を維持するための支出を、「クルマがあるからいいよ!いらないよ電車なんて!」という人たちを含め、社会生活の「必要経費」として最低限は負担して行くという地域の合意形成。もちろん、すべてを「鉄道ありき」でそのまま残す訳には行かないのでしょうが、収益状況によって単純に存廃の見極めを行うことはせず、周辺自治体と都道府県が二人三脚で公共交通への支援を応分に負担するという「割り切り」。そしてそのための利害調整を促進する国の関与。北陸地方なんかでは、並行三セクを中心に危険水域に至る前にこの手の取り組みが積極的に行われているのですが、そろそろ定着してもいいんじゃないかなあ。

コメント (1)
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