(在りし日の120号@仏生山車庫)
さて、今回ラストランを迎える、いわゆる「ことでんレトロ」と呼ばれていた旧車両群。京急・京王・名古屋市交の車両が投入され、通常の営業から外れた後も4両が大事に保存され、イベント列車として都度運行が続けられてきました。どの車両も大正時代に製造された車両ですが、国の産業遺産に認定されたのもあって、90年経てもなお動態で(稼働出来る状態で)保存されていたというのが特筆すべき事ですよね。これは去年の1月末に訪問した際、仏生山の工場で普通に道路脇の側線に置かれてた120号。貴重な車両なのにこんなところに置いておくの?って驚くような扱いだったのだけど、そういうものらしい(笑)。
さて、そんなことでんレトロラストランの撮影場所に選んだのは、平木~学園通り間にあるストレート(赤丸位置)。長尾線をレトロが往復するのは朝8時~9時台。長尾線は平木の駅の手前辺りから南東~東南東へ進路を変えるため、朝の順光で列車を捉えるにはこの辺りが好都合と踏んだからです。そして、この駅の間には常満寺と妙徳寺という比較的大きなお寺がありましてね、この寺町的な風景を入れ込んで写真を撮りたかったってのもある。
これは個人的なお話になっちゃうんですけど、ことでんの三路線をパッとイメージすると、琴平線は讃岐平野に聳える甘食型の山だし、志度線はそれこそ塩屋あたりの海の碧さで、そして長尾線は寺町を往くイメージがあったんですよ。なので、レトロを長尾線らしく撮るには、ここでお寺の大伽藍を入れての一枚ってのがいいんじゃないかなあって。惜しむらくは、山門の前に立つ大銀杏の木がまだ色付きが早かった事かな。これが染まってたらまたひとしお風情があったと思うのですが。
本命機とサブ機のセッティングを済ませ、とりあえず前走りの電車で練習を何本か。ハローブリッジ号が一生懸命走って高松に早着してくれたおかげで、本番までに十分なピント合わせと構図の確認が出来たのはありがたかった。長尾線の電車は基本的に京急の旧1000形と700形で運用されていますが、行き交うどの電車を見ても撮影地へ向かう撮り鉄の皆様で盛況な模様・・・この日のフリーきっぷの売上高はどんなもんだったかいな。それこそコロナ不況を吹き飛ばす景気のいい売り上げである事を望みますが。
私が陣取った場所の後ろに、これまた長尾線の名撮影地の一つである新川の鉄橋があります。こちらにも川沿いにカメラを持ったファンがズラリと集まっておりまして、目算ざっと40人程度。最終的にはこの平木~学園通りで約100人程度が集まりました。おそらく長尾線で一番人が出たのがこっからもう少し先の白山バックだろうけど、ここも相当な人出だった事が分かります。ホント最近自分以外はいても2~3人の撮影地にしか行かないので、壮観ですわなあ。
列車の通過する時間が近付くに連れて、何とはなしに高まって来る緊張感。賑やかに喋っていた隣のおじさんたちも、急に黙って各々の配置に着きます。平木の駅に進入するレトロのタイフォンが「フォォン!」と聞こえると、誰からともなく「来たぞ~!」の声がかかる。新川の鉄橋のたもとの踏切が鳴ると、全員臨戦態勢に。こちらもファインダーを覗く目とレリーズを握る手に力が籠ります。
ことでんレトロのラストを飾るに相応しい、素晴らしい讃州の秋の青空。満員の乗客を乗せて、平木のストレートに現れた120号+300号の特別編成。ツリカケ音も高らかに、艶めくブラウンとアイボリーの車体を光らせて走り去って行く古豪コンビ。迎えた撮影者たちも、長年の労いの拍手の代わりに、嵐のようなシャッター音でその功労を称えました。