青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

晩夏往く 旅は大河を 渡りおり。

2022年09月20日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(タンゴブルー ボディは朝日に輝いて@由良川橋梁)

朝の下り列車二本目の615D・豊岡行き。普通列車なのに「丹後の海」の4連運行でやって来ました。てっきり単行のKTR700形かと思っていたのでビックリ。まあ時刻表をよく見れば、豊岡から始発のはしだて2号で折り返す送り込み運用なのは簡単に想像が付くのだけど、そこまで運用を読み込んでなかったから分からんかったわ。一昔前は、京都から舞鶴経由でスイッチバックを繰り返しながらキハ82の特急あさしおが6連で渡っていた長大な由良川の鉄橋。はしだて号は宮津から宮福線に入ってしまうので、丹後の海の4連がこの鉄橋を渡るのはおそらく送り込みのこの615Dと、最終のたんごリレー網野行きが西舞鶴に戻る612Dの2本くらいなものじゃないのかなあ。

由良の岸辺に寄する波を眺めながら、優雅に川を渡って行く鮮やかなタンゴブルー。夜半の雨で打ち上げられた流木一つ、砂浜に刺さったように打ち上げられて何だか趣あるオブジェ。由良川の鉄橋とは言うものの、極めて海に近い河口部分に架橋されていて、ほぼ海の上を走っているような趣すらある。当然、海と川の水が混ざった汽水域になるのでしょう。列車の音に驚いたのか、大きなボラがボシャリと水面で跳ねた。

丹後由良の駅方面からタイフォンが聞こえて、先ほどの615Dと交換した312D。網野発の上り普通列車は今度こそ単行DCでした。いや、丹後の海もいい車両だけど、どちらかと言うと大きな景色の中では車両は小さい方がサマになるように思う。個人的な好みではあるのだけど。流木が流れ着く岸辺に舫われた小舟を横目に、由良川の鉄橋を渡って行きます。

この「大きな景色の中に小さく列車を入れ込む」構図というのが昔っから好きだ。イメージとしては、毎年撮影されている「青春18きっぷ」のポスター的なカットが自分なりの理想だったりする。毎シーズン毎シーズン、駅に旅情満ち満ちた新作が刷られたパンフレットが並ぶのを楽しみにしてるんだけど、この18きっぷのパンフレットを飾るイメージ写真ってのは、ローカル線や地方鉄道をメインフィールドにするものの一つのメルクマールじゃないかなって思っているんだよな。ここ由良川鉄橋で目指したのはそういう「18きっぷのポスター的」な一枚。大きな景色の中に小さく列車を入れ込むのと同時に、小さくても列車の印象は引き立ってなければ意味がなくて、その両立の匙加減がなかなか難しいのですが・・・

このワンカットに、18きっぷのポスター的なキャッチコピーを付けるとしたらどんなのになるだろうか。
「6時53分 海を渡る列車に乗って 私の晩夏が始まった」
いかがでしょうか(笑)。

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由良の朝 天気晴朗 波高し。

2022年09月18日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(朝の若狭の凪の海@奈具海岸より)

昨日は、宿に戻ってからテレビを見るのもつまらぬことなので、コンビニで買った缶チューハイを片手にフリーきっぷを駆使して終列車に乗り、網野まで往復したりしてみた。都会の電車では、このご時世酒を片手に鉄道に乗るなんて憚られる事ではあるけれど、丹鉄の終列車には自分含めて乗客は二人。これなら何をか言われまいという目論見ではあった。ほろ酔い加減の体で熟睡し、目覚めはきっちり朝の5時。そっと部屋を抜け出してクルマのエンジンを掛ければ、奈具海岸から若狭湾越しに昇る朝陽が見えました。

結局また、ここにきてしまった由良川橋梁。今度は朝の陣。前の日の朝まで由良川流域に降り続いた強い雨が、山から川に流れ込んで、あたかもアジアの国の大河の様に澱んで波打っています。早朝の由良川を通り抜ける風と雲の流れは強く速く、由良川の谷に向かって吹く風に山霧がどんどんとダウンバーストで流れ込んでくるという不思議な天気でした。

軽い三脚なんかは吹き飛ばされてしまいそうな由良川河口の強風。江戸川競艇だったら余裕で中止になってしまいそうな波高だ。川岸の消波ブロックの上で慎重に機材をセッティングし、そこら辺に転がっている石を拾ってアンカー代わりに。東の空は吹っ飛んで行く千切れ雲で太陽が照ったり隠れたり・・・ヤキモキしながら始発の列車を待っていると、丁度雲が切れた頃合いで由良川橋梁に姿を現したのは始発列車の3603D・快速宮津行き。「丹後の海」車両での運行でした。朝陽に輝くメタリックブルーの車体、早起きは三文の徳と思える、眼福の光景にございます。

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但馬にて 歴史伝える 老駅舎。

2022年09月16日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(威風堂々@久美浜駅駅舎)

宵闇に仄かに明るさ残る頃、久美浜駅まで来てみました。何とも威風堂々とした立派な駅舎は、1868年の明治維新により時の江戸幕府の領地から明治政府に管理を移行するため、丹後・丹波・但馬・播磨・美作国を移行させて統括した「久美浜県」の本庁舎を模して作られたものらしい。不勉強ながら、久美浜県などというものがあった事すら知らなかったのですが、成立翌年に生野県を分離し、1871年の豊岡県の成立とともに僅か三年で消滅した行政区分だったようです。そりゃあ知らなくてもむべなるかな。

夜の久美浜駅前にクルマをパークアンドライド。時刻は夜の7時を過ぎ、車内も閑散とした時間。豊岡行きがホームに滑り込んで来ました。ちなみにこの2連、先ほど京丹後大宮の付近で撮影した2連(239D)ですが、ここ久美浜で乗客の半数くらいが降りて行きました。舞鶴から走って来ると久美浜が京都府最後の駅なので、乗客流動の分岐点になっているようですね。そんな豊岡行きの列車に乗り込んで、京都府と兵庫県の境にある馬地峠をゆっくりと越えて行きます。

外は真っ暗、漆黒の闇の中、住居の灯りもかすかにすら見えない峠道をヘッドライト頼りにゆっくりと登って行くディーゼルカー。やたらと運転士氏がタイフォンを鳴らすのは、シカやイノシシのような害獣の衝突を防ぐためなのだろうか。久美浜から約8km強、宮津線で兵庫県最初の駅、コウノトリの郷駅に到着しました。久美浜からたったひと駅なのだけど、所要時間は約11分とだいぶかかりますね。

コウノトリの郷駅。国の天然記念物(かつ兵庫県の鳥)にもなっているコウノトリの保護地域がこの辺りにあるんだとかで、そういう由来から駅名を改称したようです。んで、何で久美浜からわざわざ山越えて列車乗ってここまで来たかってーと、ここが丹鉄の中で旧宮津線時代からの駅舎を残している最後の駅だからなのです。宮津線の駅は、KTRに移管された際にほぼ全てに手が入れられてしまって、いわゆる「国鉄時代からの駅舎」ってここしかないんですね。駅前に植えられたヒノキかアスナロか、大きな一本の木が非常に目立ちます。昭和40年代に無人化されて久しかったのですが、最近は駅舎を使ったカフェなどで活用されているそうです(この時間は当然閉まってましたけどね)。

闇に浮かぶ木造駅舎。白熱球の灯りが柔らかく良い雰囲気。この駅は元々は交換駅で、駅舎から少し高い位置にあった待合室のある島式ホームで上下列車が行き違う作りになっていました。ちなみにこのコウノトリの郷駅、改称される前までは「但馬三江(たじまみえ)駅」という素敵な名前が付いておりまして、日本で唯一旧国名である「但馬」を冠する駅だったのですよね。観光振興も地方創世のアピールもいいけど、伝統ある駅名を消してはならなかったのではないかと。コウノトリの郷、一応最寄り駅らしいけど駅から歩いて30分以上かかるって言うしね。

かつての上り方面行きのレールが敷かれていたと思われる路盤から、ホームの待合室を見やる。待合室の中には、夏にも関わらずスノーダンプやスコップなどの除雪道具が置かれていました。待合室部分に屋根掛けの上屋がセットされた作りも、兵庫県の日本海側らしく冬場の降雪に配慮したような作りになっているのかな。兵庫県の豊岡、冬場になればそれなりの積雪がある街ではあります。

夜のホームに一人佇む私。星でも見えるかと思ったら、空が曇って絵にならんかった。駅前通りに民家はあるし、豊岡市街へ向かう県道にも近いし、全く人気がない場所ではないんですけど、一番集落の外れの山手を線路が走っているせいで妙に山深い感じの雰囲気。中国山地のローカル線の駅に放り出されたような感覚がある。ここから約3km走って円山川の鉄橋を渡ると終点の豊岡の駅なんですが、この時間から豊岡まで行ってしまうとそれこそ帰る列車が終列車になってしまうんだよな・・・なんて思いながら、短い滞在時間を終えて、豊岡で折り返して来たDCに乗り込むのでありました。

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宵の口 風は秋色 丹後路。

2022年09月14日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(一夜の宿に@宮津市内某旅館にて)

今回の宿は、宮津市内の外れにある商人宿っぽい駅前旅館に一泊朝食付きで。観光とビジネスを併用といった雰囲気の旅館でしたが、最近は車中泊かビジネスホテルに宿泊するのが多かったので、畳のお部屋は久し振り。この日は自分一人しか宿泊客がいなかったこともあり、静かに貸切で利用させていただきました。温泉宿ではないのがちょいと残念でしたが、丹後半島は温泉地が少ないのでそれも致し方なし。タイル貼りの小ぢんまりとしたお風呂でお湯を使い、少し日焼けしてヒリヒリとした肌の汗を流せば、窓の外から蜩の声が聞こえて・・・

丹後半島の街々にもそろそろ夕方が迫り、古い家並みが並ぶ集落からぽつりぽつりと人の姿が消えて行く。昼間は観光客の姿がちらほらと目立った宮津市街や天橋立周辺も、旅館のチェックインの時間以降はめっきりと人影が少なくなりますね。丹鉄の列車も、地元の学生や仕事利用の顧客が中心になる頃合い。線路に沿って植えられた立派な桜並木が印象的な岩滝口の駅、豊岡行きのKTR802号が発車して行きます。

日が落ちて、やや涼やかな風が吹き抜ける丹後半島に、ひたひたと宵闇迫る頃。水戸谷の峠を抜けて、峰山盆地のとば口に降りて来た普通列車。18時台の豊岡行きは、2両編成でした。家路を急ぐ人たちを乗せて、ヘッドライトがレールを照らす瞬間をワンショット。

深く深く草生した築堤を行く。周りの田んぼは既にやや色付いて、夕暮れという事も相まってすでに初秋のような雰囲気を漂わせています。遠くに連なる丹後の山並みの上の積乱雲だけが夏の名残りだなあ・・・。虫の集きと纏わって来る蚊に難儀しながら、去って行く列車を見送りました。

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エネルギー 暮らし支えて 50年。

2022年09月12日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(午後、穏やかな奈具の海@栗田~丹後由良間)

栗田から丹後由良にかけて、風光明媚な奈具海岸を行く丹鉄の線路。並行する国道から少し高い場所を走っているので、なかなか海と鉄道をシンプルに絡め撮れる場所はないのですが、路側帯にクルマを止めて半ば強引に海と丹鉄を合わせてみました。うーん、強引なのもあるけどベージュのコミューター車輛なんで余計に列車が目立たなくなってしまったか。午後の日射しを受けて輝く奈具海岸の波打ち際。夏の穏やかな海ですが、由良ヶ岳が栗田湾に落ち込む要害の地。人が降りて行って遊べるような道はなく、磯釣り師がバッカン抱えて降りて行くような踏み跡が崖に残されている程度でした。

午後の太陽は緩やかに西に傾き、栗田湾を望む高台から黒く重々しい瓦屋根の並ぶ漁村を眺める。稲田を渡る風に乗って、遠くから聞こえて来る気動車のタイフォン。田園地帯に現れた西舞鶴行きは、何やらけったいなデザインを身に纏っていた。青く輝く入江の向こうに見えるのは栗田湾と宮津湾を分かつ黒崎半島ですが、大きな煙突と研究所のような建物は関西電力の宮津エネルギー研究所。現在は稼働していないようですが、2基合計で80万KWの発電能力を持つ火力発電所を備えています。美浜・大飯・高浜と関電原発銀座の若狭湾沿岸から続く丹後半島も、舞鶴・宮津の火力発電所を中心に電力施設の設置は多く、関電施設の周辺に来るといきなり基礎的なインフラ(道路・港湾)が高規格になるというのが電力マネーの力を感じてしまいますねえ・・・以前は、久美浜町でも関電の原発の建設計画があったそうで、約40年に亘って調査や交渉が進められていたようですが、色々な反対があり計画が立ち消えになっているそうです。

福島第一の事故から、ほぼ棚上げとなった原発再稼働問題。どこで決着がつくのかは不透明なまま。再エネを太陽光に偏重した不安定な電力供給、ロシアの侵攻によって追い打ちを掛ける世界的なエネルギー高騰など、エネルギー環境の厳しさが増すばかりの昨今。福島の相双地区同様、日本の電力を支えて来た若狭・丹後の街を結んで、今日も丹鉄が走ります。

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