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日本経済を再生するには? by 野口悠紀雄

2012年05月23日 | 意見
製造業が日本を滅ぼす
野口悠紀雄
ダイヤモンド社

5/17(木)、内閣府は2012年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値を発表した。同日の日本経済新聞(夕刊)によると、《GDP実質4.1%増 1~3月年率 3期連続プラス 個人消費が堅調 景気判断引き上げへ》《内閣府が17日発表した2012年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.0%増、年率換算で4.1%増となった。季節調整で昨年10~12月の伸びがプラスに改定され、3四半期連続のプラス成長になった。自動車販売を中心に個人消費が堅調だったほか、東日本大震災からの復興需要も景気をけん引している》。

この数字には、手放しで喜ぶわけにはいかない。政府の支出に支えられているからだ。翌日(5/18)の同紙の社説は《成長力強化へやることは多い》《2012年1~3月期の実質経済成長率が前期比年率で4.1%となった。予想を上回る数字である。日本経済が昨秋以降の停滞局面を抜け出し、着実に持ち直しているのは確かだろう。だが、エコカー補助金の復活や東日本大震災の復興支出という政策効果に支えられたのは否めない。景気の持ち直しを本格的な回復につなげるため、官民が成長基盤の強化に取り組むべきだ》としている。

5/18の日経新聞には、もう1つ《フェイスブック上場と新産業創出の道筋》という社説も出ていた。《交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックが週内にもナスダック市場に上場する。利用者は世界で9億人を突破し、知名度は抜群。弱冠28歳の創業者、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は映画スターのような人気で、投資家広報に訪れた米国の各都市では一目姿を見ようと、ファンが押し寄せたという。上場時の株式時価総額は1000億ドルを突破する可能性もあり、米グーグルを抜いてインターネット関連企業として史上最大の上場案件になるのは確実だ》。

《日本でも「新たな産業、新たな企業の創出が課題」と長年言われながら、なかなか果たせない。(中略) フェイスブックのような大型新人を生み出し続ける米国と日本の違いは何だろう。一つは新奇なものをいたずらに排除せず、懐深く受け入れる社会の厚みではないか。ベンチャー企業はそもそも未熟な存在であり、また従来にないサービスや技術に挑戦することから失敗も多く、行き過ぎもある。フェイスブックの場合も、出発点は女子学生の美人コンテストといういささか問題の多いサービスだった。近年も個人情報の管理をめぐって、米当局の調査対象になったこともある。だが、誤りを是正すれば、企業として命脈が断たれることはない。新人の失敗に寛容な米国の社会風土が、有力ベンチャー企業が次々に台頭する背景にある》。

《二つ目は豊富な投資資金だ。日本の昨年のベンチャーキャピタルの総投資額は294億円だったが、フェイスブックは1社で昨年1月に15億ドル(1200億円)を調達した。新企業に流れ込むカネの厚みに歴然とした差がある。そして最後に人材の流動性。成長する企業には優秀な人材が集まり、それが成長を加速する。(中略) 先進国経済が足踏みする中で、それを突破する有力な道筋が新企業や新産業の創出だ。フェイスブックの軌跡は日本にとっても示唆に富む》。

確かに日本では、「新産業の創出」が焦眉の急である。野口悠紀雄氏(一橋大学名誉教授、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問)は、インタビュー記事「日本経済を再生するには?」(週刊ダイヤモンド2012.4.14号)で同趣旨の持論を展開されていた。リード文は「日本経済のあり方に対し、一貫して警告を発し続けてきた野口悠紀雄教授。そして今、日本は野口教授が危惧していた通りの事態を迎えている。問題の根本と、再生への方策を聞く」だ。野口氏は最近『製造業が日本を滅ぼす』(ダイヤモンド社刊)1,575円という本も出されている。以下、記事をピックアップして紹介する。少し長いが、ぜひお読みいただきたい。なお太字は私がつけた。

日本経済の問題点は、どこにあるのでしょうか。
世界経済の大きな変化に、産業構造が対応していないことです。それが日本経済の不調の基本的な原因と言っていい。変化とは、新興国、特に中国の工業化ですね。それまで日本をはじめとする先進国の製造業が作っていたのと同じモノを、非常に安価な大量の労働力を使って、安く製造できるようになった。同じ分野で競合しても、勝てるはずはない。他の、新しい分野を見いだす必要がある。重要なのは、それが生産性の高いサービス産業であるということです。
 
これらの変化は1990年代半ばから起こっています。ところが日本は、産業構造を変えるのではなく、従来の製造業の生き残りを図った。金融緩和と円安誘導の経済政策を行い、特に2003~07年ごろには、異常とも言える円安が進みました。その結果、日本の製造業の価格競争力が上昇し、乗用車の対米輸出を中心にして、輸出が増加した。輸出主導の経済成長が実現したわけですね。

それが、09年の世界経済危機で、一挙に問題が明らかになったということです。特に今年の春には、家電産業を中心にして大幅な赤字の決算が生じ、公的資金を注入して政府が後押ししてきたエルピーダメモリが破綻しました。

デフレが日本経済不調の原因だという意見もあります。
日本で下落しているのは工業製品、特に大企業の大量生産製品です。テレビやカメラの価格は10年間で10分の1になっている。他方でサービスの価格は上昇している。起きているのは相対価格の変化であって、デフレではないのです。
 
日本だけでなく、米国でも工業製品の価格は下落しています。ただし、米国ではそれ以上にサービス価格の上昇が大きいので、差し引きで物価はプラスになっている。ここから言えるのは、いかに金融緩和したところで、物価上昇が起きるはずはないということです。

08年には消費者物価指数(前年同月比)が1%を超えました。原油価格が上昇したからで、金融危機の影響で08年第1四半期以降に輸出が減少したにもかかわらず物価が上昇した。09年にはリーマンショックで需要は激減しましたが、それによって消費者物価が下落したわけではない。物価を動かしているのは国際的な要因であって、国内の需給で決まっているわけではないということです。

この状態は、一時的なものではないのでしょうか。
私はいまや「日本の製造業は農業化した」と考えています。高度成長期、農業は生産性を高めることができず、政府からの補助に依存する産業になってしまった。その結果、ますます生産性が低くなっていった。今、製造業はそういう状況に陥っています。

まず世界経済危機後、一つには雇用調整助成金という形で、大量の過剰労働力を企業の中に維持し、失業率を見かけ上、低くした。もう一つが、エコカー補助金やエコポイントなどで、自動車産業や電機産業の需要を一時的に膨らませた。エコカー補助金はいったん停止されたものがまた復活しましたね。これは日本国内での自動車産業が、補助なしには立ち行かなくなったことを意味していると思います。そうやって製造業を支援したにもかかわらず、日本経済全体として見れば、11年の貿易収支が赤字になったわけです。

貿易立国がもはや成り立たなくなったのです。
外国から燃料や原料を輸入し、加工して輸出する、というモデルの採算性が取れなくなった。ですから、個々の企業のレベルで従来のビジネスモデルからの脱却を図ることが必要であり、さらに今、日本経済全体で“輸出立国モデル”からの転換が必要になっているのです。

転換のためには、どうしたらよいのでしょうか。
まず第1に、政府が古いものを助けようと思わないことです。

今まで政府が行ってきたのは、雇用調整助成金にしてもエコポイントにしても、今までのものを残そうということでした。為替介入や金融緩和もそうです。それらをやめる、要するに政府が変化を阻止しないこと、それがまず必要条件です。

米国のIT産業も、別に政府が後押ししてグーグルやアップルを育てたわけではありません。新しい企業や産業が生まれてくるのは、市場での競争と淘汰の過程にしかない、ということがこれを見ればはっきりわかります。だから、さまざまな面で規制緩和を進めることによって、経済が持っている活力を使うべきです。それが第2点です。

日本でも、新しい企業・産業は生まれるでしょうか。
まだ可能だと思います。時間はあまり残されていませんが、その活力は十分にあると言ってよい。「はやぶさ」が帰ってきたときの感動を、産業面で実現できないか、ということですね。そのために必要な第3点は、「人材開国」です。

米国のシリコンバレーも、「IC」と呼ばれるインド人と中国人の寄与か非常に大きい。シリコンバレーの専門的な技術者のうち、外国人が60%を占めるといいます。それに対して日本の場合、労働力全体に占める外国人労働力の比率が0.3%で、他の国と比較にならないほど低い。この状態を変えることが重要です。

日本人の雇用が奪われる危惧はありませんか。
それはパイの大きさが一定で、それを奪い合うという発想ですが、実際には、英国の場合も米国の場合も、人材開国によって経済のパイが大きくなり、1人当たりの所得が上昇するということが起きたのです。

とりわけ重要なのは、中国人だと思います。中国が大学生を過剰生産しているからです。過剰生産の結果、彼らの賃金は低い。日本の10分の1以下の賃金で、日本の学生の上位10%と同じレベルの労働力をいくらでも使える。ただしこれも、タイムリミットがあります。中国人の所得が上がってきたら、もう不可能です。円高の追い風もある今こそ、まさにチャンスなのです。

新興国で作り新興国で売るのが、製造業が生き残る策ですか。

今、一般に考えられているのは、新興国の中間層にモノを売るということですが、私はこれには疑問を持っています。新興国に売るよりは、先進国に売ったほうが稼げる。例えばアップルは、製造の部分は台湾のEMS(受託生産企業)の中国子会社フォックスコンに任せて、その製品を先進国で売っています。開発・設計、そしてブランドカを使って売るという、付加価値が一番高いところだけをやっている。これが正しいモデルです。

ましてや、高賃金国が国内でモノを作って低賃全国に売って利益が出るはずがない。日本の電機メーカーは、液晶パネルで国内に大きな工場を造り失敗しました。全く逆なのです。そもそも“作る”部分をやっているから駄目なのであって、製造は、中国などのEMSに任せればよいのです。ただし、製造過程を捨てるだけでビジネスが成立するわけではありません。開発・設計とブランドの両方が強いことが重要です。

そのとき、今まで製造過程に雇用されていた人たちは吸収できるでしょうか。
新しいサービス産業が生まれることが必要です。製造業を国内にとどめることによって、雇用を維持するという考えは間違いだということです。これまでも、製造業の雇用は減り続けてきているのです。90年代初めには、製造業の雇用者数は1400万人あった。それが今、1000万人。実に400万人減です。しかも、03~07年の輸出主導経済のとき、製造業の利益が非常に増加した過程でも、雇用は減っている。今でも、雇用調整助成金申請数が80万人ほどあります。つまり、まだ過剰雇用がある。製造業が国内に残ったところで労働者は放出されます。答えは、新しい産業をつくるしかないということですね。


「製造業は農業化した」「人材開国」「新しい産業を作るしかない」と、発言はカゲキだが説得力がある。『製造業が日本を滅ぼす』の紹介文にも《自動車や電機など製造業の輸出が落ち込み、日本を支えてきた輸出主導の成長モデルが崩れている。これから製造業は復活できるのか、円高は是正されるのか。日本経済論の第一人者が日本の貿易構造や為替の先行きをつぶさに分析し、人材開国、高度サービス業の育成など、貿易赤字時代を生き抜く処方箋を示す》とある。新しい産業(高度サービス業)は政府が後押しして作るのではなく「市場での競争と淘汰の過程にしかない」。出でよ、イノベーター!
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TPP世論調査、賛否が拮抗!

2011年11月08日 | 意見
TPPが日本を壊す (扶桑社新書)
廣宮 孝信 (著) 青木 文鷹 (監修)
扶桑社

共同通信社が行った全国世論調査によると、TPPに関する賛否が拮抗した! 日経新聞Web刊(11/7 20:59配信)によると《TPP、賛否拮抗 共同通信世論調査、内閣支持率47%に下落》《共同通信が5、6両日に実施した全国電話世論調査で、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題をめぐり「参加した方がよい」は38.7%、「参加しない方がよい」は36.1%と賛否が拮抗していることが分かった》。

《参加した場合の影響を政府が「説明していない」との回答は計78.2%に達し、「説明している」の計17.1%を大きく上回り、政府の姿勢に強い不満をうかがわせた。野田内閣の支持率は47.1%で、前回10月調査より7.5ポイント減。50%を割ったのは9月の政権発足後初めて。不支持率は34.3%で6.5ポイント増。野田佳彦首相は10日にTPP交渉参加を正式表明する方向で調整しているが、一層の説明責任が課された格好だ。民主党の支持率は25.1%、自民党は20.5%だった》。

先月の日経新聞(10/30付)に、日経電子版の読者に対して「TPP交渉への参加は日本経済にどう影響するか」と聞いた調査結果が出ていた。それは「プラスが大きい」66%、「マイナスが大きい」22%と、圧倒的に肯定的な結果だったから、この1週間での世論の変化が、よく見て取れる。折しも、弁護士で衆議院議員(自民党)の稲田朋美氏が産経新聞(11/7付)「正論」欄に、ズバリ「普天間のツケをTPPで払うな」という胸のすくような直言を書いておられたので、紹介する。《TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)議論が沸騰している。TPPは全てのモノの関税を原則即時撤廃し、サービス、貿易、投資、労働などを自由化することを目標とし、現在9カ国が交渉中だ。当然ながら、交渉参加国それぞれに思惑がある。例えば、米国は、アジア太平洋地域への輸出と国内雇用の拡大、地域でのリーダーシップの強化を狙っている》。

《TPPが、将来の日本の国柄に重大な影響を及ぼすことは明らかで、交渉に参加するなら、国会での十分な議論が不可欠だ。だが、どうやら衆院予算委員会で1日だけ集中審議し、12日からのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合で野田佳彦首相が交渉参加を表明するらしい。外務委員会で玄葉光一郎外相に質(ただ)したが、参加決定手続きは未定、最終的には首相判断という曖昧答弁だった》《もともと、民主党は、昨年の参院選のマニフェスト(政権公約)でも全くTPPに言及せず、菅直人前首相の昨年10月の所信表明で突如浮上してきた。しかも、今に至るまで、交渉参加の原則的な方針すら決まっていない。コメにかける関税をどうするのか。輸入食品、医薬品、化粧品の安全基準はどうなるのか。海外の弁護士や外国人労働者の規制なくして、国民の生活や雇用は大丈夫なのか》。

《正確な情報も発信されず、交渉に参加すべしとか、ルールを作るとか、途中で脱退できるのできないの、と抽象的な議論に終始しているようでは、全てをなし崩し的に譲歩することになるのがオチである。民主党は小泉構造改革による格差拡大を批判して政権を取った。それがなぜTPP推進なのか》《民主党政権の最大の失政は普天間と尖閣だ。普天間飛行場の県外移転というできもしない公約で日米関係をがたがたにし、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件での弱腰外交で世界中から足元を見られている。閣僚は竹島も北方領土も「不法占拠」と言えなくなった。韓国は竹島に次々に構造物を造り、ロシアは大統領が北方領土を訪問したが、日本はまともに抗議すらできない。こんな民主党に国益がかかる外交を任せておけようか》。

《TPPは米国の輸出拡大と雇用創出のためにある。普天間で怒らせた米国のご機嫌を取るために交渉に入るとすれば、政権維持のために国を売る暴挙だ。これ以上の失政の上塗りはやめるべきだ》《日本は「儲(もう)けたもの勝ち」「何でもあり」を是正し、カジノ資本主義を正す責務がある。TPP参加は、そういう役割を自ら放棄することになる。なぜなら、TPPは米国の基準を日本が受け入れ、日本における米国の利益を守ることにつながるからだ。それは、日本が日本でなくなること、日本が目指すべき理想を放棄することにほかならない。TPPバスの終着駅は、日本文明の墓場なのだ》。ここまでズバリ書いていただくと、もう何も付け加えることがない。

TPPを「農業と製造業の利害の対立」ととらえる人が多いが、それは違う。例えば農産物の「過激な自由貿易」(=TPP)と円高により、安全基準の曖昧な農産品・食品がどんどんわが国に輸入される。これは全国民の「食」の安全・安心を脅かすのであり、単なる「事業者の問題」にはとどまらないのである。野田首相は11/10にも記者会見を開いて政府方針を示す見通しであるが、このような状況では、それも覚束ない状況だ。今週がヤマ場である、動向を注視したい。
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TPP賛成に大義なし!

2011年11月06日 | 意見

間違いだらけのTPP 日本は食い物にされる (朝日新書)
東谷暁
朝日新聞出版

TPPに関する理解も少しずつ深まってきたようで、ここへきて、やっと反対意見が目立つようになってきた。昨夜のNHKニュースによると《自民党の谷垣総裁は仙台市での集会で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について、野田総理大臣がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)までに交渉参加を表明することに反対し、国会決議も検討する考えを示しました》《TPPについて「政府の情報開示が不十分で、農業などへの対策が十分ではないまま交渉に参加するのは乱暴だ」と述べました。そのうえで出席者からTPPに対する自民党の見解を問われたのに対し、谷垣総裁は「ここ数日で交渉参加を決めるのは反対で、場合によっては国会で決議しなければならない」と述べ、野田総理大臣が今月12日からのAPECまでに交渉参加を表明することに反対し、国会決議も検討する考えを示しました》。

もっとカゲキなのが田中真紀子である。産経新聞(11/5付)の見出しは《真紀子節”炸裂 「TPPは飛び込んだら入水自殺」「小泉改革の二の舞だ」 首相も「野田なんとか」呼ばわり》だった。《「TPPに日本が飛び込んだら入水自殺だ」-。民主党の田中真紀子元外相は4日、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を慎重に考える会」(会長・山田正彦元農水相)で講演し、歯に衣(きぬ)着せぬ“真紀子節”を久々に炸裂させた》。

《田中氏は「TPP参加で公的医療保険制度が根本から崩れる。小泉純一郎元首相の郵政民営化の二の舞いになる」と強調。「野田佳彦首相は『国論が二分して決められない』とはっきり言うべきだ。米国は大人だから日本がノーと言っても圧力をかけない」と断じた。首相についても「党員資格停止中だったので野田なんとかさんに投票せずに済んだ」と酷評。返す刀で慎重派議員も「頭は良いが、知恵がない。議論ばかりしてどうするのかが分からない。地元や支持団体の意向で賛成、反対を決めるなら県議や市議だ」と切り捨てた》。田中真紀子のような人が、このようにハッキリとTTPのデメリットをズバリ言い切ってくれると、国民にもストレートに伝わるで、とても有り難いことである。

先日私は、当ブログに「TTPなんて、とんでもない!」という記事を書いたが、その後、藤村清彦さんから《中野剛志氏の著作を紹介されてTPPの恐ろしさを啓蒙された勇気に感動しました。中野氏と共にTPPの本質を訴え続けておられる三橋貴明氏のブログの10月31日版をお目通しください》というコメントをいただいた。

「TPP開国論」のウソ 平成の黒船は泥舟だった
東谷暁, 三橋貴明, 中野剛志
飛鳥新社

この三橋氏のブログは、とても興味深く拝読した。三橋氏は「TPP交渉参加に反対する街頭演説会&デモ行進」というブログ記事で《最近、経済産業省のTPP推進派に目の敵にされているトップスリーが、東谷暁氏、中野剛志氏、三橋貴明の3名だそうです。これは、これは、大変光栄なことで》。さらにTPP推進派で、内閣府でTPPによる経済効果を算定した野村証券金融経済研究所・主席研究員の川崎研一氏が《関税撤廃による経済効果は10年間で2・4~3・2兆円で、1年間なら国内総生産(GDP)の0.1%に満たない》(10/19付産経新聞)と発言していたことも紹介している。さまざまなリスクを覚悟でTPPに参加し、しかも推進派の試算でも、1年間に2700億円の経済効果ならGDPの0.054%に過ぎないのだ、やれやれ。

「週刊金融財政事情」(発行所:一般社団法人 金融財政事情研究会)という金融専門誌に、ボストンコンサルティンググループ シニア・アドバイザーのM氏(元日銀理事、クレディ・スイス証券 元会長)が、「TPP反対に大義なし」という巻頭言を書かれていた。この文章には、推進派がよく口にする「理論」が整然と現れている。あまりにも分かりやすい話なので、要所を抜粋しておく。

TPPは、わが国の進路を規定する最も重要な戦略の1つである。それは、アメリカを含め環太平洋諸国の間で、ヒト、モノ、カネの自由な移動を目標にするTPPは、当該地域の先行きを制するからである。

「環太平洋諸国」などというのはとんでもない誤解で、これは単なる「日米」の自由貿易協定なのである。中野剛志氏が指摘するとおり《「TPPに入ってアジアの成長を取り込む」と言いますが、そこにアジアはほとんどありません。環太平洋というのはただの名前に過ぎません。仮に日本をTPP交渉参加国に入れてGDPのシェアを見てみると、米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%です。これは実質、日米の自由貿易協定(FTA)です》。

幕末から明治維新にかけ、開国を巡って国論は揺れに揺れた。列強の圧力もあったが、最終的にたどりついた選択は開国だった。不満・不平はあっても、鎖国という異例の体制を改めなければ、世界の大勢に遅れ、文明開化も殖産興業も叶わないと当時の為政者は肚を括ったのである。(中略) 深層では、少子・高齢化、新興国の急速な追い上げと産業の空洞化、巨額の公的債務など激震の予兆が生じている。こうした厳しい認識に立てば、わが国の将来にとって、発展性に富む地域と絆を強めることが不可欠である。そのためには、まず、国を開かなければならない。

これも、推進派がよく使う屁理屈である。「まず、国を開かなければならない」というが今、日本は鎖国しているというのか。これはとんでもない誤解である。中野氏によれば《推進派の人たちが国を開けとか、外を向けとか言っていますが、本当に外を向けば、TPPでは何のメリットもないことがわかるんです》《日本はWTO加盟国でAPECもあり、11の国や地域とFTAを結び、平均関税率は米国や欧州、もちろん韓国よりも低い部類に入ります》《TPPに入る気がない韓国は世界の孤児なのでしょうか》。

そもそも、TPPという「過激な対米貿易協定」に入れば、松島氏の指摘する「少子・高齢化、新興国の急速な追い上げと産業の空洞化、巨額の公的債務」が解決するというのか。そんなはずはないのである。具体的な道筋を示すのではなく、「当時の為政者は肚を括った」「激震の予兆が生じている」「発展性に富む地域と絆を強める」という情緒的な言葉しか出てこないところが、推進派の特徴である。

TPPいかんにかかわらず、真の構造転換を行わない限り、農業に明日はないのが実情である。そういう意味では、いまこのときが農業再生のチャンスではないか。関税撤廃と見合いに導入される所得補償といったバラマキ補償ではなく、品種改良や品質改善、生産性向上やマーケティングのためであれば、財政支援にも反対はあるまい。いまようやく芽ばえ始めた企業的農業の動きを積極的に後押しすることが望ましい。

野球は9人対9人、サッカーは11人対11人で勝負するから、努力によって相手に勝つ算段もできよう。アメリカの農地面積は3,655,000k㎡、日本は45,000k㎡、81対1である。どんな「カイゼン」で、これに太刀打ちできるというのか。また、これ以上の「品種改良」「生産性向上」のためには遺伝子組み換えなどが推進されていくことになろうが、そうなると食品としての安全性、生態系などへの影響、倫理問題などが新たに浮上してくる。そんなリスクを冒しても、メリットは「GDPの0.054%」なのだ。

中野氏は《関税が100%撤廃されれば日本の農業は勝てません。関税の下駄がはずれ、米国の大規模生産的農業と戦わざるを得なくなったところでドル安が追い打ちをかけます。さらに米国は不景気でデフレしかかっており、賃金が下がっていて競争力が増しています。関税撤廃、大規模農業の効率性、ドル安、賃金下落という4つの要素を乗り越えられる農業構造改革が思いつく頭脳があるなら、関税があっても韓国に勝てる製造業を考えろと言いたい》と指摘している。

遠い将来を見据えて、いま何をすべきか見極める必要がある。新しい体制の構築には、生みの苦しみがあって当然である。そこを突き抜けていく聡明さ、勇気、希望こそ求められる政治原理である。

アメリカの国家戦略に踊らされない「聡明さ」、NOと言える「勇気」が肝心である。私は、いくら何でもTPPなんかには参加しないだろうという「希望」に支えられて、政府の動きに注目している。どうか、木材の二の舞になりませんように。
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TPPなんて、とんでもない!

2011年10月24日 | 意見
TPP亡国論 (集英社新書)
中野剛志
集英社

政府・民主党は、TPPの交渉参加を巡る党内論議を、11月2日までに終えたいとしている。要は、翌3日~4日にフランスで開かれるG20までに間に合わせたいという魂胆である。そのためこの土日にも、いろんな動きがあった。J-CASTニュース(10/23 17:00配信)《TPP交渉参加めぐって民主大もめ 反対派「徹底抗戦」で野田首相ピンチ》によると、《環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加問題で、民主党内が賛成、反対に分かれての攻防が続いている。2011年11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに党として結論を出す見込みだが、反対派は「妥協の余地なし」と徹底抗戦の構えで、解決の糸口は見えてこない》。

《TPPをめぐっては、既に米国をはじめ9か国が交渉を始めている。加盟した場合、農産物をはじめ工業品、さらには医療分野でも関税が撤廃されて貿易自由化が進む。野田佳彦首相はTPPへの交渉参加について、「高いレベルでの経済連携は日本にとってプラス」と、前向きな姿勢を見せている。この動きに反対する衆参議員110人が10月21日、「TPPを慎重に考える会」を立ち上げ、決起集会を開いた。参加メンバーは超党派で、民主党からも鳩山由紀夫元首相をはじめ多くの議員が名を連ねた》。

《会長を務める山田正彦前農水相は、10月23日に放送されたフジテレビの番組で、自身の考えを改めて示した。コメなど国内の農業全体を考えた時、ニュージーランドや豪州の農産物と対抗するうえで「規模を拡大すればもうかる、というわけではない」と説明。賛成派の議員は「交渉に参加したうえで、日本の国益に反する場合は異を唱えればいい」と主張したが、山田前農水相は「一度参加したら簡単には抜けられない」として、必ずしも参加各国が日本の立場を理解して主張を「丸のみ」してくれるわけではない点をにおわせた》。

《番組の終わりに司会者から「妥協案はあるか」と問われた山田前農水相は、「ありません」とひと言。党が交渉参加を強行する場合は徹底抗戦に入る構えを明らかにした。そのうえで、反対が認められない場合に「離党もありうるか」との質問には「『慎重に考える会』の議員の皆さんとよく相談したい」として、その可能性を否定しなかった》。

《一方、民主党の前原誠司政調会長は、10月23日にNHKの番組に出演。TPPについては「党内の議論を通じて、国民にも問題の所在、メリット、デメリットを理解してもらうよう努力したい」と話す一方、交渉に参加したうえで日本の利益にそぐわなければ「撤退もありうる」との考えを示した》。

野田首相はTPPの交渉参加にずいぶんとご執心のようだが、私は菅首相(当時)が昨年10月所信表明演説でいきなりTPPを持ち出したときから、「絶対反対」を唱えてきた。しかし不思議なことに、これは少数意見だった。私は9/13(火)、奈良ホテルで佐藤優氏(ライター、元外交官)の講演を聴いた。佐藤氏は「TPPは自由貿易協定ではない(自由貿易はWTO=世界貿易機関)。TPPとは、要するにアメリカのブロック経済圏に入れ、ということである」と喝破した。「環太平洋(Trans Pacific)」という枕詞にダマされてはいけない、実態は「汎アメリカ」なのである。

国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策 (講談社現代新書)
中野剛志
講談社

10/11(火)、「SNSけいはんな」という地域SNSで、ichiroさん(奈良女子大学名誉教授)が中野剛志氏(京都大学大学院助教授)のインタビュー記事(1/19付)を紹介されていた。「TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる」というタイトルで、これは論旨明快、目からウロコの話であった。少し長くなるが、以下にピックアップして紹介したい。

なおトロイの木馬とは《トロイア戦争において、トロイアを陥落させる決め手となった。木でできており、中に人が隠れることができるようになっていた。 転じて、巧妙に相手を陥れる罠を指して「トロイの木馬」と呼ぶことがある》(Wikipedia)という意味である。またFTA(自由貿易協定)とは《2国間または地域間(多国間)の協定により、モノの関税や数量制限など貿易の障害となる壁を相互に撤廃し、自由貿易を行なうことによって利益を享受することを目的とした協定》(keizai report.com)のことである。では、中野氏の話に耳を傾けよう。

TPPの議論はメチャクチャです。経団連会長は「TPPに参加しないと世界の孤児になる」と言っていますが、そもそも日本は本当に鎖国しているのでしょうか。日本はWTO加盟国でAPECもあり、11の国や地域とFTAを結び、平均関税率は米国や欧州、もちろん韓国よりも低い部類に入ります。これでどうして世界の孤児になるのでしょうか。ではTPPに入る気がない韓国は世界の孤児なのでしょうか。

「TPPに入ってアジアの成長を取り込む」と言いますが、そこにアジアはほとんどありません。環太平洋というのはただの名前に過ぎません。仮に日本をTPP交渉参加国に入れてGDPのシェアを見てみると、米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%です。これは実質、日米の自由貿易協定(FTA)です。

中国漁船の船長を解放したのは、日本の法律で外国人を裁けないという治外法権を指します。次にTPPで関税自主権を放棄するつもりであることを各国首脳の前で宣言したのです。

米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っています。米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、輸出をすることはあっても輸入を増やすつもりはありません。

(オバマ大統領は)「巨額の貿易黒字がある国は輸出への不健全な異存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」とも言っています。巨額の貿易黒字がある国というのは、中国もですけど日本も指しています。そして「いかなる国も米国に輸出さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない」と続けています。TPPでの日本の輸出先は米国しかなく、米国の輸出先は日本しかない、米国は輸出は増やすけれど輸入はしたくないと言っています。米国と日本の両国が関税を引き下げたら、自由貿易の結果、日本は米国への輸出を増やせるかもしれないというのは大間違いです。米国の主要品目の関税率はトラックは25%ですが、乗用車は2.5%、ベアリングが9%とトラック以外はそれほど高くありません。

中国は米国との間で人民元問題を抱えています。為替操作国として名指しで批判されています。為替を操作するということは貿易自由化以前の話ですから、中国はおそらく入りません。韓国はというと、調整交渉の余地がある二国間の米韓FTAを選択しています。なぜTPPではなくFTAを選んだかというと、TPPの方が過激な自由貿易である上に、加盟国を見ると工業製品輸出国がなく、農業製品をはじめとする一次産品輸出国、低賃金労働輸出国ばかりです。韓国はTPPに参加しても利害関係が一致する国がなく、不利になるから米韓FTAを選んでいるのです。日本は米国とFTAすら結べていないのに、もっとハードルが高く不利な条件でTPPという自由貿易を結ぼうとしています。戦略性の無さが恐ろしいです。

日米間で関税を引き下げた後、ドル安に持って行くことで米国は日本企業にまったく雇用を奪われることがなくなります。他方、ドル安で競争力が増した米国の農産品が日本に襲いかかります。日本の農業は関税が嫌だからといって外国に立地はできず、一網打尽にされるでしょう。グローバルな世界で関税は自国を守る手段ではありません。通貨なんです。

米国の関税は自国を守るためのディフェンスではなく、日本の農業関税という固いディフェンスを突破するためのフェイントです。彼らはフェイントなどの手段をとれるから日本をTPPに巻き込もうとしているということです。

みなさんはTPPに入れば製造業は得して農業が損をすると思っているため、農業対策をすればTPPに入れると思うようになります。農業も効率性を上げればTPPに参加しても米国と競争して生き残れる、生き残れないのであれば企業努力が足りない、だから農業構造改革を進めよと言われます。

それは根本的に間違いだと思います。関税が100%撤廃されれば日本の農業は勝てません。関税の下駄がはずれ、米国の大規模生産的農業と戦わざるを得なくなったところでドル安が追い打ちをかけます。さらに米国は不景気でデフレしかかっており、賃金が下がっていて競争力が増しています。関税撤廃、大規模農業の効率性、ドル安、賃金下落という4つの要素を乗り越えられる農業構造改革が思いつく頭脳があるなら、関税があっても韓国に勝てる製造業を考えろと言いたいです。

自由貿易は常に良いものとは限りません。経済が効率化して安い製品が輸入されて消費者が利益を得ることは、全員が認めます。しかし安い製品が入ってきて物価が下がることは、デフレの状況においては不幸なことなのです。デフレというものは経済政策担当者にとって、経済運営上もっともかかってはいけない病だというのが戦後のコンセンサスです。物価が下がって困っている現状で、安い製品が輸入されてくるとデフレが加速します。安い製品が増えて物価が下落して影響を受けるのは農業だけではありません。デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられるというのがこのTPP、自由貿易の問題です。

農業構造改革を進めて効率性があがった日には、日本の農家も安い農産物を出荷してしまうことになり、さらにデフレが悪化します。デフレが問題だということを理解していれば、構造改革を進めればいいなんて議論は出てきません。

こういう議論をすると「農業はこのままでいいのか」ということを言い出す人がいます。しかし、デフレの時はデフレの脱却が先なのです。インフレ気味になり、食料の価格が上がるのは嫌なので農業構造改革をするということはアリだと思います。日本は10年以上もデフレです。デフレを脱却することが先に来なければ農業構造改革は手をつけられません。

例えばタクシー業界が競争原理といって規制緩和の構造改革をしました。デフレなのに。その結果、供給過剰でタクシーでは暮らせない人が増えて悲惨なことになりました。今回は同じ事が起ころうとしています。

米国が輸出を伸ばし日本が輸入を増やして貿易不均衡を直すこと自体は、賛成です。ところが、関税を引き下げて輸入をすると物価が下がるので、日本はデフレが悪化します。経済が縮小するので、結局輸入は増えません。農産品が増えれば米国の農業はハッピーですが、トータルで輸入は増えません。

なぜこんなにTPPが盛り上がってしまうのでしょうか。TPPは安全保障のためだという人がいますが、根本的な間違いです。まずTPPは過激な自由貿易協定に過ぎません。軍事協定とは何の関係もありません。

尖閣や北方領土の問題を抱え、軍事力強化は嫌だなと思っているときにTPPが浮かび上がってきて、まさに「溺れる者は藁をもつかむ」ようにTPPにしがみつきました。でもこれにしがみついたって何の関係もないです。もし米国が日米同盟を重視していないのであれば、TPPに入ったって日本を守ってくれません。

議論が複雑でやっかいかもしれませんが、せめてGDP比を見て「TPPは日米貿易に過ぎない」とか、米国が輸出拡大戦略をとろうとして輸入しないようにしているということぐらい知ってもらわないと、戦略を立てようがありません。推進派の人たちが国を開けとか、外を向けとか言っていますが、本当に外を向けば、TPPでは何のメリットもないことがわかるんです。

欧州では「トロイの木馬」の教訓があります。それは「外国からの贈り物には気をつけよう」という言い伝えです。外国から贈り物を受け取るときはまず警戒するものですが、日本はTPPという関税障壁を崩すための「トロイの木馬」を嬉々として受け入れようとしているのです。

米国の庇護の下で経済的な豊かさだけを追って、何をしても成功し、ちょっとバカをしても大した損はしなかった世代の人々が90年代以降に企業や政府のトップになり、それ以降日本のGDPが伸びなくなりました。この世代の人たちが「日本の改革のためには外圧が必要だ」「閉塞感を突破するためには刺激が必要だ」という不用意な判断をするので、ものすごい被害を及ぼすことになるのです。

先日朝日新聞社から団塊の世代の方がインタビューに来た時に、彼らの世代の口癖を指摘しました。このままでは日本が危ないという話をすると必ず「そんなことでは日本は壊れない」という口癖です。しかし、日本はもうすでに壊れているんです。政界はもちろん、私も含めた官僚、財界そして知識人は、毎年3万人の自殺者の霊がとりついていると思うぐらいの責任感をもって、もっと真剣に国の行く末を考えないといけません。


国力論 経済ナショナリズムの系譜
中野剛志
以文社

奈良県民は、かつての木材輸入自由化により、県を代表する地場産業であった林業・製材業が壊滅的な打撃を受け、ひいては放置人工林問題を引き起こしている事実を忘れてはならない。放置人工林は花粉症の元凶であるばかりか、先頃の台風12号では、深層崩壊を招いたとまでいわれているのだ。

HP「森林・林業学習館」によると《昭和30年代、木材の需要を賄うべく、木材輸入の自由化が段階的にスタートし、昭和39年に木材輸入は全面自由化となりました。国産材の価格が高騰する一方で外材(外国産の木材)の輸入が本格的に始まったのです。外材は国産材と比べて安く、かつ大量のロットで安定的に供給(一度にまとまった量を)供給できるというメリットがあるため、需要が高まり、輸入量が年々増大していきました。しかも、昭和50年代には、変動相場制になり、1ドル=360円の時代は終わました。その後、円高が進み、海外の製品がますます入手しやすくなったのです》。

《これらの影響で、昭和55年頃をピークに国産材の価格は落ち続け、日本の林業経営は苦しくなっていきました。昭和30年には木材の自給率が9割以上であったものが、今では2割まで落ち込んでいます。日本は国土面積の67%を森林が占める世界有数の森林大国です。しかしながら供給されている木材の8割は外国からの輸入に頼っているといういびつな現状になっています。一方、国内の拡大造林政策は見直されることなく続けられていました。平成8年にようやく終止符が打たれましたが、木材輸入の自由化、そして外材需要の増大の影響で、膨大な人工林と借金が残りました》。

「グローバルな世界で関税は自国を守る手段ではありません。通貨なんです」「デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられる」「TPPは過激な自由貿易協定に過ぎません。軍事協定とは何の関係もありません」という中野氏の話に、もっと耳を傾けていただきたい。

タイミング良く昨日、日経電子版は創論・時論 読者アンケート「TPP参加、日本経済への影響は」 をスタートさせた(10/27まで)。電子版にパソコンからアクセスできる方は、ぜひ率直なご意見をお寄せいただきたい。政治家が頼りにならないのだから、良識ある国民は、もっと声を上げなければならない。
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新聞見出し、歯切れ悪く…

2011年10月13日 | 意見
日本経済新聞の読み方 2011-2012年版
日本経済新聞出版社 編
日本経済新聞出版社

新聞の見出しは、読者を引きつけるため、整理部の記者が様々な工夫を凝らしてつけている。これはブログではマネができないことであるし、そもそもブログのタイトルは凝ってはいけない。検索エンジンは主にタイトルを拾うので、具体的でストレートなタイトルの方が検索に引っかかりやすいのである。たとえば「天平の美仏に感動した!」という抽象的なタイトルはダメで、内容を具体的に表現して「東大寺ミュージアムで不空羂索観音を拝観」などとしなければ、検索に引っかからない、つまりは読んでもらえないのである(そのためかどうか、新聞のネット版では、紙面と違うタイトルをつけるケースが多い)。

さて、新聞の見出しであるが、時々歯切れの悪い見出しが目につく。特に日本経済新聞は、扱う対象が経済中心なので慎重になるのか、靴の外から足を掻(か)くようなもどかしさがある。先週の日経新聞(大阪本社版)から拾うと、

●エネ政策方針 集約難しく(10/4付朝刊 経済1面)
●LED街灯、電気代安く(10/4付朝刊 経済1面)
●関西景況 改善鈍く(10/4付朝刊 近畿経済面)
●伝統産業親しみやすく 奈良・桜井 そうめん体験館(10/4付朝刊 近畿経済面)
●原子力安全庁、設立まで半年 信頼回復の道 険しく (10/5付朝刊 経済2面)
●世界の株 値動き荒く(10/5付夕刊 総合2面)

上の4つは、同じ日の同じ面に2つずつ並ぶという惨状である。私なら「エネ政策方針 集約難航」「LED街灯で電気代割安」「関西景況 改善鈍い」「伝統産業に親しみを」「原子力安全庁、設立まで半年 険しい信頼回復の道」「世界の株 値動き荒い」などとつけるところだ。私案の方が、よほど収まりが良くてスッキリする。「日経新聞はジャーナリズムではない、データベースだ」と何代か前の同紙社長がおっしゃっていたが、それなら尚更スカッとした見出しで、読者の頭にストレートに伝えてほしいものである。
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