
先週(2025.3.4付)の毎日新聞経済面「私の推(お)シゴト」欄に〈原酒160万の味、この舌に サントリー「山崎」「白州」生むブレンダー〉という記事が出ていた。
※トップ写真は、毎日新聞の記事サイトから拝借した
サントリーの主席ブレンダー・輿石太(こしいし・ふとし)さんは、毎朝午前4時半に起床。朝食はバナナ1本。午前7時に出社、早いときは30分後にテイスティングを始めることもあるという。テイスティングには繊細な嗅覚と味覚が求められるので、平日は唐辛子やニンニクは摂らず、コーヒーも飲まないという。
このような人が、ジャパニーズウイスキーを支えているのだと、この記事で初めて知った。以下、全文を抜粋しておく。
海外でも人気のジャパニーズウイスキー。その味を守るのが「ブレンダー」といわれる職業の人々だ。サントリー山崎蒸溜所(大阪府)には、同社が保有する約160万に及ぶ原酒のたる一つひとつの味が「すべて頭に入っている」というすご腕がいる。その仕事に密着した。
刺激物ご法度
サントリーの主席ブレンダー、輿石太さん(61)の朝は早い。午前4時半に起床し、朝食はバナナ1本。午前7時には山崎蒸溜所に出社し、30分後にウイスキーのテイスティングを始めることもある。毎日、このルーティンを繰り返す。
ウイスキーのテイスティングには繊細な嗅覚と味覚が欠かせない。規則正しい生活リズムがそれを支えている。平日は唐辛子やニンニクなど、刺激のある食材を使った食事はとらないという徹底ぶりだ。「週末は刺激のある食べ物がほしくなる。土曜の朝は、我慢していたコーヒーを何杯も飲んでしまう」と笑う。
輿石さんが所属するブレンダー室のブレンダーは約10人。担当するのは、山崎蒸溜所だけではない。白州蒸溜所(山梨県)や近江エージングセラー(滋賀県)など全国に貯蔵している原酒を管理し、そのブレンドを検討。定番商品や新商品などサントリーのウイスキーとして自信をもって世に送り出すのが仕事だ。
例えば、シングルモルトウイスキー「山崎」。山崎蒸溜所の複数の原酒を配合して、いつもの「山崎」の味や香りを作り出す。「レシピを守るだけでなく、流行などを踏まえて細かい調整を常にしている」。妥協を許さない職人技だ。
山梨県で育った輿石さんは同県内にワイナリーがあるサントリーに親近感を持ち、1982年に入社した。最初は白州蒸溜所で、原酒をたるに詰めて貯蔵する仕事に携わった。
ウイスキーにとって、たるは重要な役割を持つ。蒸留したばかりのウイスキーの原液「ニューポット」は無色透明。たるの中で長時間、貯蔵するうちに、バニラやキャラメルの香りがする琥珀(こはく)色のウイスキーへと変化していく。
ミズナラやホワイトオークといった、たるの素材や大きさ、貯蔵場所の環境によっても原酒の質は異なる。「白州だけでなく、山崎や近江の原酒も見てみたい」。ブレンダー室への異動を希望したのは、そんな思いからだ。
ブレンダーに必要なテイスティングには経験が必要で、一人前になるには時間がかかる。99年に念願のブレンダー室に配属された当初、先輩たちのコメントを必死に聞き、自身のテイスティングの能力を磨き続けた。「僕の場合はストレートでテイスティングする。味よりも香りの方が判断できる」と話す。
「角瓶」に感動
サントリーの過去の製品をテイスティングした際、37(昭和12)年に誕生して間もないころの「角瓶」と向き合ったことがある。当時と今の「角瓶」では原酒の種類や、組み合わせがまるで違う。
それなのに口にすると、現在の「角瓶」と同じ香りと味わいを感じた。「これがサントリーウイスキーなんだ」。先人が積み重ねてきた努力に感動した。
今では、サントリーが持つすべての原酒の基礎情報が脳裏に刻まれている。商品開発の企画書を見た瞬間、「あの原酒と、この原酒だな」と構想が浮かぶほどだ。「香りを嗅いで『これ、しぶいな』『まろやかだな』とか。そうやって原酒を使い分けている」
「しぶい」というのもマイナス評価ではない。「まろやかな原酒は、華やかな香りが特徴のウイスキー『響』などに使う。『山崎』の力強くも繊細な味わいには、しぶい原酒も必要になる。それらを調整して一定の味に調整するのがブレンダーの役割」という。
2003年以降、「山崎12年」や「響30年」などが国際的なウイスキーのコンクールで最高賞や金賞を受賞。特にここ数年は国内外で人気に火がつき、「山崎」や「白州」を店頭で手に入れるのは難しくなった。
そんな中、サントリーが23年に発売したのが、山崎蒸溜所、白州蒸溜所それぞれの原酒を使用したハイボール缶だ。輿石さんも開発に携わった。「初めて『山崎』や『白州』を飲む人でも、おいしく飲めるハイボールを目指した。
かといって『角ハイボール』のようなスッキリではいけない。モルトの厚みがあって、すっと消えていくような後味にこだわった」
理想の味に仕上げるのは困難の連続だった。ハイボール缶は原酒をブレンドした後、さらに炭酸水を混ぜるという工程が加わる。そのうえ瓶詰めではなく、缶詰めだ。「プシュッ」と開けた瞬間、山崎や白州の香りがするかにこだわった。
香りの強い原酒を多く使ったからといって、ブレンド後のウイスキーの香りが華やかになるわけではない。「本当に微妙な差が香りを決める」。1カ月近く何度も試作を繰り返した。ようやく納得できる味にたどりつき、350ミリリットルで税込み660円で売り出すと、売り切れるコンビニやスーパーが相次いだ。
創業者・鳥井信治郎氏がウイスキーづくりを始めてから1世紀以上。ブレンダー室にも若い世代が次々と配属されている。「我々がつくっているのは、サントリーウイスキー。香りの華やかさや柔らかさを大事にしていこう」。後輩たちにこう伝えるつもりだ。【小坂剛志】
※トップ写真は、毎日新聞の記事サイトから拝借した
サントリーの主席ブレンダー・輿石太(こしいし・ふとし)さんは、毎朝午前4時半に起床。朝食はバナナ1本。午前7時に出社、早いときは30分後にテイスティングを始めることもあるという。テイスティングには繊細な嗅覚と味覚が求められるので、平日は唐辛子やニンニクは摂らず、コーヒーも飲まないという。
このような人が、ジャパニーズウイスキーを支えているのだと、この記事で初めて知った。以下、全文を抜粋しておく。
海外でも人気のジャパニーズウイスキー。その味を守るのが「ブレンダー」といわれる職業の人々だ。サントリー山崎蒸溜所(大阪府)には、同社が保有する約160万に及ぶ原酒のたる一つひとつの味が「すべて頭に入っている」というすご腕がいる。その仕事に密着した。
刺激物ご法度
サントリーの主席ブレンダー、輿石太さん(61)の朝は早い。午前4時半に起床し、朝食はバナナ1本。午前7時には山崎蒸溜所に出社し、30分後にウイスキーのテイスティングを始めることもある。毎日、このルーティンを繰り返す。
ウイスキーのテイスティングには繊細な嗅覚と味覚が欠かせない。規則正しい生活リズムがそれを支えている。平日は唐辛子やニンニクなど、刺激のある食材を使った食事はとらないという徹底ぶりだ。「週末は刺激のある食べ物がほしくなる。土曜の朝は、我慢していたコーヒーを何杯も飲んでしまう」と笑う。
輿石さんが所属するブレンダー室のブレンダーは約10人。担当するのは、山崎蒸溜所だけではない。白州蒸溜所(山梨県)や近江エージングセラー(滋賀県)など全国に貯蔵している原酒を管理し、そのブレンドを検討。定番商品や新商品などサントリーのウイスキーとして自信をもって世に送り出すのが仕事だ。
例えば、シングルモルトウイスキー「山崎」。山崎蒸溜所の複数の原酒を配合して、いつもの「山崎」の味や香りを作り出す。「レシピを守るだけでなく、流行などを踏まえて細かい調整を常にしている」。妥協を許さない職人技だ。
山梨県で育った輿石さんは同県内にワイナリーがあるサントリーに親近感を持ち、1982年に入社した。最初は白州蒸溜所で、原酒をたるに詰めて貯蔵する仕事に携わった。
ウイスキーにとって、たるは重要な役割を持つ。蒸留したばかりのウイスキーの原液「ニューポット」は無色透明。たるの中で長時間、貯蔵するうちに、バニラやキャラメルの香りがする琥珀(こはく)色のウイスキーへと変化していく。
ミズナラやホワイトオークといった、たるの素材や大きさ、貯蔵場所の環境によっても原酒の質は異なる。「白州だけでなく、山崎や近江の原酒も見てみたい」。ブレンダー室への異動を希望したのは、そんな思いからだ。
ブレンダーに必要なテイスティングには経験が必要で、一人前になるには時間がかかる。99年に念願のブレンダー室に配属された当初、先輩たちのコメントを必死に聞き、自身のテイスティングの能力を磨き続けた。「僕の場合はストレートでテイスティングする。味よりも香りの方が判断できる」と話す。
「角瓶」に感動
サントリーの過去の製品をテイスティングした際、37(昭和12)年に誕生して間もないころの「角瓶」と向き合ったことがある。当時と今の「角瓶」では原酒の種類や、組み合わせがまるで違う。
それなのに口にすると、現在の「角瓶」と同じ香りと味わいを感じた。「これがサントリーウイスキーなんだ」。先人が積み重ねてきた努力に感動した。
今では、サントリーが持つすべての原酒の基礎情報が脳裏に刻まれている。商品開発の企画書を見た瞬間、「あの原酒と、この原酒だな」と構想が浮かぶほどだ。「香りを嗅いで『これ、しぶいな』『まろやかだな』とか。そうやって原酒を使い分けている」
「しぶい」というのもマイナス評価ではない。「まろやかな原酒は、華やかな香りが特徴のウイスキー『響』などに使う。『山崎』の力強くも繊細な味わいには、しぶい原酒も必要になる。それらを調整して一定の味に調整するのがブレンダーの役割」という。
2003年以降、「山崎12年」や「響30年」などが国際的なウイスキーのコンクールで最高賞や金賞を受賞。特にここ数年は国内外で人気に火がつき、「山崎」や「白州」を店頭で手に入れるのは難しくなった。
そんな中、サントリーが23年に発売したのが、山崎蒸溜所、白州蒸溜所それぞれの原酒を使用したハイボール缶だ。輿石さんも開発に携わった。「初めて『山崎』や『白州』を飲む人でも、おいしく飲めるハイボールを目指した。
かといって『角ハイボール』のようなスッキリではいけない。モルトの厚みがあって、すっと消えていくような後味にこだわった」
理想の味に仕上げるのは困難の連続だった。ハイボール缶は原酒をブレンドした後、さらに炭酸水を混ぜるという工程が加わる。そのうえ瓶詰めではなく、缶詰めだ。「プシュッ」と開けた瞬間、山崎や白州の香りがするかにこだわった。
香りの強い原酒を多く使ったからといって、ブレンド後のウイスキーの香りが華やかになるわけではない。「本当に微妙な差が香りを決める」。1カ月近く何度も試作を繰り返した。ようやく納得できる味にたどりつき、350ミリリットルで税込み660円で売り出すと、売り切れるコンビニやスーパーが相次いだ。
創業者・鳥井信治郎氏がウイスキーづくりを始めてから1世紀以上。ブレンダー室にも若い世代が次々と配属されている。「我々がつくっているのは、サントリーウイスキー。香りの華やかさや柔らかさを大事にしていこう」。後輩たちにこう伝えるつもりだ。【小坂剛志】

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