tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

近鉄・山口昌紀氏が奈良を大いに語る! 観光地奈良の勝ち残り戦略(106)

2016年03月23日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
3連休最後の休日(3/21)、奈良県立図書情報館でトークイベントがあったので、聞きに行ってきた。会場(同館のメインエントランス=ロビー)には約250人の参加者がびっしりだった。開会挨拶で千田稔館長は「開館以来10年で、おそらく最高の集客」と話していた。同館のHPによると、

奈良県立図書情報館開館10周年記念トークイベント
経営者トーク「奈良と人生を大いに語ろう! 奈良に残したいこと、期待したいこと。」
平成28年3月21日(月・祝)

奈良県立図書情報館では、開館10周年を記念し、経営者トーク「奈良と人生を大いに語ろう!奈良に残したいこと、期待したいこと。」を開催します。 昭和・平成の荒波を乗り越えてきた産業界の重鎮に、これまでの経験や想いを通した目で、産業、文化、観光、教育などにおける “奈良に残したいこと・期待すること” を語っていただくトークイベントです。


出席者を着席順(年齢順)に紹介すると、

講 師
 山口昌紀氏(近鉄グループホールディングス株式会社取締役相談役 昭和11年生) 
 西口廣宗氏(株式会社南都銀行取締役相談役 昭和11年生)
 小山新造氏(小山株式会社代表取締役社長 昭和17年生)
 菊池 攻氏(奈良トヨタ株式会社取締役社長 昭和34年生)
司 会
 栗山道義氏(元三井住友銀行副頭取/前奈良県人事委員会委員長 昭和18年生)

昨日(3/22)の奈良新聞が「奈良観光で熱い議論」の見出しで概要を掲載していた。一部を抜粋すると、

約250人の市民らが、県内4人の経営者の提言に熱心に耳を傾けた。三井住友カードの栗山道義特別顧問の司会で、4人が奈良らしい観光や活性化について持論を展開した。奈良トヨタ自動車の菊池攻(きくち・おさむ)社長は「地元を語れるガイドを作ることが大切。物語性がないとリピーターが来ない」と強調。小山の小山新造社長は「インフラ整備が不十分で、観光シーズンは車であふれかえる。5千~1万台収容の駐車場を作るべきだ」と提案した。

また、南都銀行の西口廣宗相談役は「ホテル建設では奈良商工会議所でも総論賛成、各論反対。高級ホテルだけでなく、庶民が泊まれるホテルが欲しい」と主張。近鉄ホールディングスの山口昌紀相談役は「奈良らしさを残すには文化遺産の保存も大事だが、工芸技術の伝承こそ大事」と訴えた。

4人の中では終始、山口昌紀氏のユニークな提言が光っていた。手元のメモから拾うと、

 奈良に育まれ 電車にのって 青山をみる
 山口昌紀
 廣済堂出版

近鉄と阪神の相互乗り入れの話が出ていた頃、日曜日になるたびに神戸へ出向いた。神戸では、いつも違和感を感じた。原因は社寺が少ないから。奈良はもちろんだが大阪でも、辻辻に祠がある。神戸にはそれがない。

大阪は食いだおれの街と言われるがデパ地下へ行っても、和菓子は京都、洋菓子は神戸だ。奈良には春日大社の火打焼(火打餅)のような伝統菓子がある。「芝居」の語源は、おん祭のお旅所祭だ(芝の舞台で芸能が行われるから)。「お仕舞い」という言葉も、おん祭の最後に後宴能が舞われることに由来する。今、日本刀が作れる地域は金沢、京都と奈良だけだ。刀鍛冶がいて、組紐を作れる工芸士がいる。

先ほど「物語性がないとリピーターが来ない」という話が(菊池社長から)出ていた。奈良には「闇雲に観光客を呼び込む」というのではなく「本当に奈良を理解できる人だけを呼ぶ」ということで良いのではないか。奈良県には宿泊施設が少ないと言うが、京都―奈良間は30分。京都・大阪・奈良は同一の観光圏内だ(県境にこだわる必要はない)。

奈良にはたくさんの文化財があり、その多くが信仰の対象になっている。村民(地域住民)で守られてるものも多いが、予算はなく、補助金もわずかだ。文化・教育には公的な予算がつきにくい。ぜひ皆さんの応援をお願いしたい。


司会の栗山氏からも《デービッド アトキンソン氏の『国宝消滅』(東洋経済新報社)によると、国宝への補助金は日本では年間70~80億円。しかしイギリスでは500億円で、これでも少ないと言われているそうだ》というコメントがあった。

 国宝消滅―イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

「漫才師には補助金が出ないのに、なぜ文楽を補助するのか」という話もあった。芸妓(げいこ)さんは、おそらくこのままでは京都と東京だけにしか残らないのではないか。今や大阪の宴会では(大阪だけでは足りないので)京都から芸妓さんを呼んでいる状態だ。「元林院花街復興プロジェクト」に協力しているが、全国的に花街(かがい)の文化が廃れつつある。

今、興福寺の中金堂を建てているが、心(しん)の柱はアフリカから調達している。日本では取れないからだ。宮大工によると「木造建築は材料で制限される。良い材が取れなくなったので、技術継承が困難になっている」。アイスキャンデーが(1本につき10円)値上がりするという話があって、理由は「棒」が値上がりしているからとか。「中国産の棒が高いので、ロシアから調達する」という話も聞く。


最後にそれぞれ「好きな言葉」を披露する時間があった。山口氏の好きな言葉は「男児志を立てて郷関を出づ 学若(も)し成る無くんば復た還らず 骨を埋むる何ぞ墳墓の地を期せん 人間(じんかん)至る処青山あり」だそうだ。簡単にいうと「男が志を立てて故郷を出るならば、学問が成就しないうちは死んでも還らない。骨を埋めるのは故郷の墓地だけではない。この人の世、どこにでも墓となる場所はある」ということだ。

長らく鉄道会社のトップだった方が「奈良には闇雲に観光客を呼び込んではいけない」という発言をされたのには驚いたが、私も同感だ。最近はよく「京都を卒業したので奈良に来ました」という嬉しい声も聞く。

『国宝消滅』は、早速読むことにしたい。それにしても参考になる話が満載の「記念トーク」だった。奈良県立図書情報館は検索システムがよく出来ていて、いつもちょっとした調べ物に大いに助かっている。

図書情報館さん、このたびは開館10周年おめでとうございます。これからもお世話になります!


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする