tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

関西から見た日本のインバウンド市場 by 田中義次氏/ 観光地奈良の勝ち残り戦略(111)

2016年11月15日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
11月10日(木)、関西日本香港協会(「日本香港協会」の関西支部という位置づけ)文化部のセミナーを拝聴してきた。ウチ(南都銀行 公務・地域活力創造部)の部長がここの会員なので、聴講を勧めていただいたのだ。お話しになったのは田中義次さん(関西日本香港協会 副会長)で、タイトルは「関西から見た日本のインバウンド市場」。
※開会の挨拶をされる木全千裕さん(同会会長)、後方が田中さん

とても興味深いお話だった。説明に使われたPower Point画面は、なんと162枚!メモが全く追いつかなかったので、あとで画面のプリントを頂戴した。このプリントを参照しつつ、私の印象に残った部分をかいつまんで紹介する。田中さん、ポイントを外していたらごめんなさい!

1.DBJ(日本政策投資銀行)の調査(2016年10月6日発表)によると、アジアおよび欧米豪の人々に「今後、旅行したい国・地域はどこですか?」という質問を投げかけたところ、全体の過半数の回答者が「日本」と答えており、世界でトップである。最も「日本に行きたい」との回答が多かったのは台湾の人々で、7割超がそのように回答している。また韓国人の訪日希望の割合も、前回調査に比べて7ポイント上昇している。

2.しかし同調査によると、「外国人旅行者受入数ランキング」では日本は22位に過ぎない。ベスト3は、フランス、米国、スペイン。

3.観光庁の「訪日外国人の消費動向報告書」(2015年10~12月)によると、訪日旅行客の主な旅行目的は、1位が日本食(70.1%)、2位がショッピング(53.6%)、あとは自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、温泉入浴と続く。

4.読売新聞(2016.10.14付)によると、中国人の旅行形態は
従来)車で眠り、降りて写真を撮り、店に入れば、買って買って買いまくる。
現在)食べる、遊ぶ、泊まる、土地の生活体験に金を使いたがる。

5.JTBによると、訪日中国人の日本国内での消費行動は、円高や中国政府の内需拡大政策の影響、そしてリピーターの増加で大きく変化している。中国人にとって海外旅行が身近になるにつれ、1人あたりの滞在中の支出額は年々下がり、さらに今年4月以降は中国政府による海外購入品に課す関税引き上げの影響で買い物代が大きく減少している。

6.読売新聞(2016.4.7付)によると、金沢で「アジア圏観光客は四季の景観、欧米は文化に関心」が高い。

7.第一生命経済研究所の調べによると、2014年、ついに訪日外国人の消費額が、日本人の海外での旅行消費額を上回った(低迷アウトバウンド、急増インバウンド)。

8.観光は輸出産業である。日本でなぜ観光分野が軽視されてきたのかというと、
・勤勉で均質的な国民性を背景に、もの作り中心の加工貿易国としして経済発展してきた。
・休みや遊びにかかわる観光は劣後的に扱われてきた。
・貿易収支が大幅黒字だったので、国際観光で外貨を稼ぐ必要性に乏しかった。
・観光の経済波及効果を、直接的な宿泊業や運輸業などに狭く限定し、過小評価していた。
しかし最近ようやく「観光は裾野の広い産業で、その経済波及効果や地域活性化効果が大きい」と広く認識されるようになってきた。観光はいわば「見えざる貿易」であり「21世紀の有力な成長産業」である。

9.国内旅行消費額は23.6兆円(2013年度)で、これは「一般機械製造業」より大きく、「輸送用機械製造業」や「食料品製造業」とほぼ互角。観光業は、多様な産業業種の有機的結合で成り立つ総合産業である。

10.国内旅行消費額は23.6兆円の経済波及効果は49.4兆円でGDPの5.5%に相当。雇用創出効果も424万人で、総就業者数の約6.6%にのぼる。

11.政府は訪日外国人客を一段と増やすため、観光の規制緩和やインフラ整備を急いでいる(2016.9.8付 日本経済新聞)。訪日客に日本での楽しみ方を増やす狙いで、2017年に集中的に実施する。
・訪日客向けの有償(外国語)ガイドを無資格でできるようにする。
・ホテルや旅館が地域を周遊するツアーを販売しやすくする。
・大型クルーズ船が寄港できる港湾の整備や、道路や鉄道の行き先表示の多言語化などにも対応。

12.関空の利用者、外国人が初めて日本人を上回る(2015年)。
・国際線旅客数は前年比24%増の1625万人(過去最高)
・日本人旅客は607万人(6%減)
・外国人旅客数は1,001万人(59%増)

13.橿原市今井町が頑張っている(後述)。今後、外国人留学生などを受け入れるのも面白いだろう。



14.「モノ」に依存した観光振興には限界がある。特定の目的を持った滞在型旅行を増やすべき。→モノからコト、地方の掘り起こし、欧米人客の開拓
・超高齢社会・人口減少を迎えた日本において、観光立国の実現は今後の成長戦略の重要な柱の1つ(自動車産業に匹敵、優位性の高い産業)。
・地方への分散化の傾向が明確に。これをさらに拡大し、日本文化への同化を求めるリピーターや個人客をいかに満足させるか(体験・学習)。
・地域住民による多様な関係者間でのネットワーク形成と訪日外国人市場の持続的な拡大のための仕組みづくりが必要(中長期の広域連携)。
・外国人から見た魅力、観光客の持つ「俯瞰する目」「地域の歴史的価値」「地域のストーリー作り」「地域ブランドの強化」がカギになる。

15.外国との風俗・習慣、宗教、文化の違い(特徴)に注意。
・ターゲットの国や層を明確に。
・日本人の目から見たものが必ずしもおススメではない。
・継続性が大切。
・情報発信・PRを(アジア人にはSNSや口コミが効果的
・地域内や自治体、他業種との連携を。

16.アジア人客の特徴:目的は食、買い物はお菓子、8割がリピーター、滞在期間は1週間、消費額は17.6万円(中国人は28万円)

17.欧米人客の特徴:目的は文化・歴史、買い物は日本的なもの(米国・フランスは和服)、ほとんどがFIT(個人、家族、友人)、滞在期間は3週間、消費額は20万円弱(米国・フランス)

18.高野山観光が大変な人気。宗教都市から国際観光地へ。
・日本の神秘を知りたい外国人が高野山に押し寄せている。宿泊客のほとんどが外国人という宿坊も。
・ヨーロッパの観光客は「巡礼の文化」が根付いており、異文化に対する関心が高い。密教の奥義を伝えてきた聖地ならではの荘厳で謎めいた雰囲気と高い精神性が外国人を魅了する。

19.これからの関西の戦略
・東京を見ずに「アジアの目線」で「共生・協働」を。
・関西が輝いてこそ東京も輝く。徹底して東京都は違う「異質な関西の創造」をめざす。
・関西の各地域が同質でない「異質なもの」を研磨しよう。

「13」のところで若林稔さん(今井町町並み保存会会長)のお写真が出てきて、ビックリした。お話の内容は日経新聞記事(2013.10.8)の紹介が中心だったが、大阪にお住まいの田中さんが今井に目をつけてくれたところが、とても嬉しい。この記事は若林さんのブログでも紹介されている。記事全文を引用すると、


若林さん。この写真は日経新聞電子版から拝借

「陸の今井」再興のもてなし 街のどてらいヤツ(6)
奈良県橿原市の今井町は近鉄八木西口駅の近くに位置し、古い町家が約500軒残る。織田信長から自治権を与えられたのを契機に商業都市として栄え「海の堺、陸の今井」ともいわれた。町の保存会会長、若林稔(72)の夢は大手企業の本社誘致だ。街づくりに協力する名目で登記上の本社を移してもらい、増えた税収で町並みを保存する。

まだメドは立たないが、まず観光客への「もてなし」をキーワードに活動を続けている。今井町出身の若林は近畿日本鉄道で運転士や広報などを担当し、2000年に定年退職した。その後、保存会の活動に本格的に関わるようになり、04年に会長に就任した。

■着物で出迎え
観光イベントがあれば、保存会や地元住民が着物姿で出迎える。「古い町の雰囲気を楽しんでもらいたい」というもてなしの精神だ。十数年前、若林の発案で始まったものだ。

イベントの際、予約した観光客に提供する茶がゆにもこだわる。無農薬栽培の大和茶、天日干しの奈良県産米、奈良県内の銘水を使用する。吉野の和紙の箸袋には書道家でもある若林が1枚ずつ歓迎の言葉をしたためる。町を案内するボランティアは、茶がゆの出来上がる時間に合わせて案内を終える徹底ぶりだ。

今井は安土桃山時代の豪商で茶人として知られる今井宗久の出身地。茶道は「もてなし」の原点ともいえる。「商業都市として発展した背景にももてなしの心があった」と考えるからだ。

■若者をファンに
数年前から町を応援する若者の受け入れを始めた。地域振興に関心を持つ県内外の大学の学生を自宅に招いて、イベントの手伝いにも参加させる。若い支援者を獲得することで、町の知名度向上に貢献する。

当初は町並み保存を通じて知り合った大学教員のゼミに参加する学生が中心だったが、若林の活動に興味を持つ学生が集まるようになった。学生のために自宅を改築して寝る場所を確保、食事も提供している。学生たちは久しぶりに若林の家を訪れると、「ただいま」と言う。学生はいずれは就職する。ただ、今井町のファンであり支援者であることは変わらない。

「登記上の本社誘致こそ開発を防ぎ、経済と町の保全を両立させる最良の策」と信じる若林。町の知名度と信用の醸成へ向け一歩ずつ歩み続けている。定年後のシニアがまちづくりを担う動きは大阪・寝屋川でもある。(敬称略)


とにかく内容豊富な講演会だった。私が見落としていた話もたくさん登場し、とてもいい勉強になった。田中さん、有り難うございました!
コメント (2)
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