雪が消え、膨らんだサクラのつぼみはやがて開き、そして今、つかの間に散り始めている。
農作業が始まった山里を眺めると、小鳥のさえずりが心地よく、ときおりのそよ風に桜の花びらが舞い落ちていた。
そんな光景に、寮歌「春寂寥」が浮かび、しばし感懐にふけった。
「木の花蔭にさすらえば ああ吾かなし逝く春の 一片毎に散る涙」と。
また、”あわれ花びら流れ おみなごに花びら流れ ・・・”と達治の青春の詩を口ずさみ寂寥感に浸った。
この感動のひとときに、このままこの穏やかな美しい季節が止まって欲しいと思った。
書斎の色紙には「時よ止まれ 君は美しい そして 美しいときはいつもすぐに過ぎて行く」とある。
「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき」いま散り急ぐ花びらを眺めながら、ふと、現実に戻され、心を失いそうな多忙な日々を送る小さき者を重ねた。