長い入院中、いろいろなことに思いを巡らせた。
痛々しい何本もの点滴管の刺さる細腕に、いつも秒針の歩みを追っていた。
この有り余る辛い時間を救ってくれた本があった。
見舞う妻に頼んだのは、いつも書斎の座右にある中野孝次著「風の良寛」や田淵行男著「山の季節」など。
先ず浮かんだのは、かつて心動かされた良寛だ。
病床ノートのメモには ”頬こけて 良寛の如 生きんとす”とか、”癒えし後 訪ねてみたし 五合庵”とある。
久々に、頬こけた良寛像を眺め、良寛が五合庵で何を思いどう生きたのかを同じ空間で考えたかった。
あらためて良寛の豊かな生き方を思い、日常、如何に雑事に紛れ自分を失っていたかを痛感せざるを得なかった。
これまで数え切れないほど入退院を繰り返してきたが、もう若くはない。
命救われた15年前と今回の奇跡も、3度目はない。
病床での心の整理から貰ったこの思いを胸に、健康を第一に、日々を穏やかに過ごしていきたい。