帆立岩に乗る直前に、平戸から来ているお客さんから声を掛けられた。
「今日はお兄さんと一緒ではないの?…」
話を聞けば磯釣りスペシャルの読者であるらしく、以前に書いていたボクの記事をよく読んでいたということだ。そして最後に「頑張ってください」と、励ましの言葉をもらった。ボクがレポートの連載を書かなくなって久しいが、意外なところで声を掛けられるのは嬉しいものだ。だが、逆の見方をすれば「アイツ、帆立岩に上がったのにその程度の釣果かよ?」と言われて恥をかくわけにはいかず、プレッシャーが掛かる。ハテさてこの後の展開はどうなるのだろうか…?。
■夕マズメの帆立岩■
渡礁の2時間ほど前に潮が変わっており、満潮へと向かう満ち潮がゴウゴウと音を立てるが如く流れていた。この帆立岩は満ち潮が本命で、正にこれから午後9時の潮止まりまでの間がゴールデンタイムになる。
●満ち潮が走る花栗島向きの水道●
仕掛は前回の立神で説明したように、ボク流?の本流釣りだ。まずは杓で多目のマキエサを打つ。効き始めるまでは、しばらくマキエサのみを続けていたが、この磯名物である70cm近い特大サンノジが動き出すのを確認して、仕掛の投入を開始する。
流すこと数回、いつものようにエサが取られるまで、道糸との結び目を最上部にしてハリスを等分した3ヶ所のオモリを徐々に重くしてゆく。そのオモリが上から4B、3B、3Bになった頃に、スプールを押さえていた指をハジキ飛ばす待望のアタリがボクのロッドを襲った。
●激流の中、尾長の引きを味わう●
●まずは43cm●
決して大型の引きではないが、待望だった尾長グレの引きを味わいつつ、難なくソレを取り込んだ後は、連発が始まった。
●続いて40cm台後半●
何匹か連続ゲットの後、気付けば夕闇が迫るのと同時に徐々に水勢が衰え始める。それに合わせて今度はオモリを軽くして仕掛が深く入りすぎないように注意してゆく。
この磯にはこれまでトータル48時間以上乗っているが、潮がゆるみ始めた本流ではアタリが遠退き始める傾向にあるようだ。そしてこの日も例外ではなかった。
食いが落ちているので、更に神経を集中しつつ仕掛を流していると、「コンコンッ」という小アタリが竿先を通じて伝わった。
すかさず竿先を送り込んだ後に大アワセをお見舞いしてやると、相手はそれまでにないスピードで海中深くに突っ込んでいった。
「リールを逆転させて糸は絶対に出さない」との決意の元、これまで魚を取り込んできたが、その決意が揺らぐほどの引きだ。「切られるかも知れない?」という迷いに負けて何度かレバーブレーキを押さえる指を解放しようとするが、その度に「糸を出して獲れた試しはない!」と、心に言い聞かせて踏ん張ってみる。腰を落として耐えてはいるが、竿先が海中に突っ込むほどの勢いだ。
何度か耐えていると主導権がこちらに移った手応えを感じ始める。そうなればこっちの物で、相手の動きを察知し、先回りをして頭を引っ張り上げてゆく。
少しこちらに余裕が出来たのを機に、一気に勝負に出るとようやく水面から頭を出した。そして充分に空気を吸わせて弱らせた後、玉網に誘導する。
何とか無事にゲットできたのは今回の最低目標でもあった50cm級の尾長グレだ。
●54cm!●
この魚を最後に夕マズメの時間が終わった。続いて残りの満ち潮を夜釣り用のタックルで攻め始めるが、ここで、中出君も参戦する。ボクのタックルは4号竿に8号ハリスといった夜釣りでは標準的なモノだが、彼はイシダイ釣りの専門家であるので、尾長グレ専用のタックルを持ち合わせていない。そこで道糸の20号を始め、イシダイ釣りのタックルをそのままに、電気ウキを無理矢理通してハリスは12号という極太タックルでのチャレンジだ。
そして1時間が経った頃、彼から「来ました~!」との声が掛かる。極太仕掛特有の有無を言わせないやり取りの後、「ドサッ」という音と共に磯上にゴボー抜きされた魚体は紛れもない尾長グレだった。聞けば夜釣りでグレを狙って釣ったのは初めてらしく、「よう~引きますね~」と上機嫌だ。
●「初尾長オメデトウ!」●
対するボクに釣果はなく、やがて潮が止まりの時間を経て引き潮の時間帯を突入する。同時に魚の気配が無くなったのを確認して一旦竿を置くことにする。
■ビッグ・ワン■
疲労困憊の中、4時間ほど仮眠をとるが、3時には起床して次の満ち潮に向けての準備を始めた。まだゆっくりと引き潮が流れいたが、待ってても仕方がないので、3時半には夜釣りタックルのままで釣りを再開していた。
「マキエサが効き始めたかな?」と思った頃、釣り座から20mほど先を流れていたウキが静止し、ゆっくりと海中に入って行く。夜釣りでは早アワセをすると失敗することが多いのは経験済みだ。そこで魚が走ってその引きが竿を曲げ込むまで待ってみると、数秒後「ズドンッ」という衝撃が竿を持つ手に伝わった。
以後は8号ハリスというタックルの強度を信じて竿尻を腰に付けて耐えてゆく。何度かの強い締め込みも両手で竿を押さえ込み、腰を落として耐えていると、意外に早く浮いてくる。しかし相手が大きいうえ、暗くて自分で掬えそうにもない。そこで中出君に助太刀を頼むことにした。
それでもなかなか網の中に誘導できずに何度かのヒヤヒヤを味わっていた。
しばらく後、ようやく彼から「入りました~」との声が掛かったので玉網に収まったことは確認できたが、今度は重くてなかなか引き上げられないようだ。上には持ち上げられずに磯際に何度も引っかかるという苦労の末に磯上に引きずり上げたのは60cmあるかどうか、ギリギリサイズの尾長グレだ。
「ヤッタ~」と叫びつつ、持参していたメジャーで検寸を開始する。
●大型の尾長グレだ!●
「う~ん…残念!」どう計っても59cmで、自己記録更新には1cmと数mm足りない…。
気を取り直して、その後は更なるサイズアップを目指して仕掛を投入を繰り返すが、夜釣りの仕掛にアタる魚はもう無くて、気付けば辺りが白み始めていた。
■朝マズメ■
続いて朝マズメ用の5号ハリスを用いたタックルを準備するが、用意の完了と共に満ち潮が走り始めていた。そうなると、大好きな本流釣りが始まる。
前日の夕マズメ同様、オモリの重さが潮と合えば、アタリが出て、順調にゲット数を伸ばしてゆくが、しばらくすると潮の角度が北寄りに変わり始める。
これもこの磯のクセなのだろうか?真西から北西方向に流れている間は好調であっても、流れが北寄りに変わるとアタリの数が激減するのだ。その影響で、その後はポツリポツリと極タマにアタる程度に変わってゆく。
やや潮が緩んだこともあって、隣では、中出君が本業のイシダイ釣りで順調にアタリを捉え始めていた。
●男女群島でのイシダイ釣りは竿を手持ちで釣るスタイルが標準だ。●
●50cm近いイシダイをゲット●
やがて潮が更に緩んでゆく。と言っても紀伊半島などの近場よりも早いのだが、そんな流れになると帆立岩では口太グレの闊歩が始まる。
●口太は、ほとんどが45cm前後のサイズ●
■夢の時間は短くて…■
やがて、9時に潮止まりの時間を迎える。そして午前10時、最終的な撤収のために日之出丸がやって来た。ここまで、潮の緩んでいる間には尾長グレの登場はとうとう皆無であった。
帆立岩に乗ってから撤収までは約16時間。内、引き潮がマトモにぶつかって釣果が望めない時間帯以外の約10時間は、興奮してアドレナリンが出っぱなしの状態だから、アッという間に過ぎ去っていった。
「精根尽き果てる」とはこんなことを言うのだろうか、渡船内へと、へたり込むように乗り込んだ後は、深い眠りの世界をさまよいつつ九州本土へと向かうのであった。
●戦いが済み、それぞれの釣果に合った表情で帰りの航海に臨む●
●本土では幻のクエだが、ここでは幻ではない●
■男女群島への思い■
実は今回、前半の辛い釣果から、ヤル気が失せて「今回で男女群島釣行は最後にしようか?」と考えるほどに気分は落ち込んでいたが、さすがは帆立岩だ。惜しくも自己記録更新は実らなかったが、59cmを頭に50cmオーバーが3枚、それ以下である40cm級の尾長グレの数は13枚、そして退屈なく釣れ続く口太グレが多数という結果に…。この磯だけがボクの要求には充分過ぎるほどに応えてくれた。
その結果、現金なもので今は再びフツフツと闘志が湧き上がり、もう来年のことを考えている始末だ。
「『最後の大逆転』これがあるから釣りはヤメられないのだ。」と、釣りの中毒性?を痛切に感じている今日この頃なのである。
「今日はお兄さんと一緒ではないの?…」
話を聞けば磯釣りスペシャルの読者であるらしく、以前に書いていたボクの記事をよく読んでいたということだ。そして最後に「頑張ってください」と、励ましの言葉をもらった。ボクがレポートの連載を書かなくなって久しいが、意外なところで声を掛けられるのは嬉しいものだ。だが、逆の見方をすれば「アイツ、帆立岩に上がったのにその程度の釣果かよ?」と言われて恥をかくわけにはいかず、プレッシャーが掛かる。ハテさてこの後の展開はどうなるのだろうか…?。
■夕マズメの帆立岩■
渡礁の2時間ほど前に潮が変わっており、満潮へと向かう満ち潮がゴウゴウと音を立てるが如く流れていた。この帆立岩は満ち潮が本命で、正にこれから午後9時の潮止まりまでの間がゴールデンタイムになる。
●満ち潮が走る花栗島向きの水道●
仕掛は前回の立神で説明したように、ボク流?の本流釣りだ。まずは杓で多目のマキエサを打つ。効き始めるまでは、しばらくマキエサのみを続けていたが、この磯名物である70cm近い特大サンノジが動き出すのを確認して、仕掛の投入を開始する。
流すこと数回、いつものようにエサが取られるまで、道糸との結び目を最上部にしてハリスを等分した3ヶ所のオモリを徐々に重くしてゆく。そのオモリが上から4B、3B、3Bになった頃に、スプールを押さえていた指をハジキ飛ばす待望のアタリがボクのロッドを襲った。
●激流の中、尾長の引きを味わう●
●まずは43cm●
決して大型の引きではないが、待望だった尾長グレの引きを味わいつつ、難なくソレを取り込んだ後は、連発が始まった。
●続いて40cm台後半●
何匹か連続ゲットの後、気付けば夕闇が迫るのと同時に徐々に水勢が衰え始める。それに合わせて今度はオモリを軽くして仕掛が深く入りすぎないように注意してゆく。
この磯にはこれまでトータル48時間以上乗っているが、潮がゆるみ始めた本流ではアタリが遠退き始める傾向にあるようだ。そしてこの日も例外ではなかった。
食いが落ちているので、更に神経を集中しつつ仕掛を流していると、「コンコンッ」という小アタリが竿先を通じて伝わった。
すかさず竿先を送り込んだ後に大アワセをお見舞いしてやると、相手はそれまでにないスピードで海中深くに突っ込んでいった。
「リールを逆転させて糸は絶対に出さない」との決意の元、これまで魚を取り込んできたが、その決意が揺らぐほどの引きだ。「切られるかも知れない?」という迷いに負けて何度かレバーブレーキを押さえる指を解放しようとするが、その度に「糸を出して獲れた試しはない!」と、心に言い聞かせて踏ん張ってみる。腰を落として耐えてはいるが、竿先が海中に突っ込むほどの勢いだ。
何度か耐えていると主導権がこちらに移った手応えを感じ始める。そうなればこっちの物で、相手の動きを察知し、先回りをして頭を引っ張り上げてゆく。
少しこちらに余裕が出来たのを機に、一気に勝負に出るとようやく水面から頭を出した。そして充分に空気を吸わせて弱らせた後、玉網に誘導する。
何とか無事にゲットできたのは今回の最低目標でもあった50cm級の尾長グレだ。
●54cm!●
この魚を最後に夕マズメの時間が終わった。続いて残りの満ち潮を夜釣り用のタックルで攻め始めるが、ここで、中出君も参戦する。ボクのタックルは4号竿に8号ハリスといった夜釣りでは標準的なモノだが、彼はイシダイ釣りの専門家であるので、尾長グレ専用のタックルを持ち合わせていない。そこで道糸の20号を始め、イシダイ釣りのタックルをそのままに、電気ウキを無理矢理通してハリスは12号という極太タックルでのチャレンジだ。
そして1時間が経った頃、彼から「来ました~!」との声が掛かる。極太仕掛特有の有無を言わせないやり取りの後、「ドサッ」という音と共に磯上にゴボー抜きされた魚体は紛れもない尾長グレだった。聞けば夜釣りでグレを狙って釣ったのは初めてらしく、「よう~引きますね~」と上機嫌だ。
●「初尾長オメデトウ!」●
対するボクに釣果はなく、やがて潮が止まりの時間を経て引き潮の時間帯を突入する。同時に魚の気配が無くなったのを確認して一旦竿を置くことにする。
■ビッグ・ワン■
疲労困憊の中、4時間ほど仮眠をとるが、3時には起床して次の満ち潮に向けての準備を始めた。まだゆっくりと引き潮が流れいたが、待ってても仕方がないので、3時半には夜釣りタックルのままで釣りを再開していた。
「マキエサが効き始めたかな?」と思った頃、釣り座から20mほど先を流れていたウキが静止し、ゆっくりと海中に入って行く。夜釣りでは早アワセをすると失敗することが多いのは経験済みだ。そこで魚が走ってその引きが竿を曲げ込むまで待ってみると、数秒後「ズドンッ」という衝撃が竿を持つ手に伝わった。
以後は8号ハリスというタックルの強度を信じて竿尻を腰に付けて耐えてゆく。何度かの強い締め込みも両手で竿を押さえ込み、腰を落として耐えていると、意外に早く浮いてくる。しかし相手が大きいうえ、暗くて自分で掬えそうにもない。そこで中出君に助太刀を頼むことにした。
それでもなかなか網の中に誘導できずに何度かのヒヤヒヤを味わっていた。
しばらく後、ようやく彼から「入りました~」との声が掛かったので玉網に収まったことは確認できたが、今度は重くてなかなか引き上げられないようだ。上には持ち上げられずに磯際に何度も引っかかるという苦労の末に磯上に引きずり上げたのは60cmあるかどうか、ギリギリサイズの尾長グレだ。
「ヤッタ~」と叫びつつ、持参していたメジャーで検寸を開始する。
●大型の尾長グレだ!●
「う~ん…残念!」どう計っても59cmで、自己記録更新には1cmと数mm足りない…。
気を取り直して、その後は更なるサイズアップを目指して仕掛を投入を繰り返すが、夜釣りの仕掛にアタる魚はもう無くて、気付けば辺りが白み始めていた。
■朝マズメ■
続いて朝マズメ用の5号ハリスを用いたタックルを準備するが、用意の完了と共に満ち潮が走り始めていた。そうなると、大好きな本流釣りが始まる。
前日の夕マズメ同様、オモリの重さが潮と合えば、アタリが出て、順調にゲット数を伸ばしてゆくが、しばらくすると潮の角度が北寄りに変わり始める。
これもこの磯のクセなのだろうか?真西から北西方向に流れている間は好調であっても、流れが北寄りに変わるとアタリの数が激減するのだ。その影響で、その後はポツリポツリと極タマにアタる程度に変わってゆく。
やや潮が緩んだこともあって、隣では、中出君が本業のイシダイ釣りで順調にアタリを捉え始めていた。
●男女群島でのイシダイ釣りは竿を手持ちで釣るスタイルが標準だ。●
●50cm近いイシダイをゲット●
やがて潮が更に緩んでゆく。と言っても紀伊半島などの近場よりも早いのだが、そんな流れになると帆立岩では口太グレの闊歩が始まる。
●口太は、ほとんどが45cm前後のサイズ●
■夢の時間は短くて…■
やがて、9時に潮止まりの時間を迎える。そして午前10時、最終的な撤収のために日之出丸がやって来た。ここまで、潮の緩んでいる間には尾長グレの登場はとうとう皆無であった。
帆立岩に乗ってから撤収までは約16時間。内、引き潮がマトモにぶつかって釣果が望めない時間帯以外の約10時間は、興奮してアドレナリンが出っぱなしの状態だから、アッという間に過ぎ去っていった。
「精根尽き果てる」とはこんなことを言うのだろうか、渡船内へと、へたり込むように乗り込んだ後は、深い眠りの世界をさまよいつつ九州本土へと向かうのであった。
●戦いが済み、それぞれの釣果に合った表情で帰りの航海に臨む●
●本土では幻のクエだが、ここでは幻ではない●
■男女群島への思い■
実は今回、前半の辛い釣果から、ヤル気が失せて「今回で男女群島釣行は最後にしようか?」と考えるほどに気分は落ち込んでいたが、さすがは帆立岩だ。惜しくも自己記録更新は実らなかったが、59cmを頭に50cmオーバーが3枚、それ以下である40cm級の尾長グレの数は13枚、そして退屈なく釣れ続く口太グレが多数という結果に…。この磯だけがボクの要求には充分過ぎるほどに応えてくれた。
その結果、現金なもので今は再びフツフツと闘志が湧き上がり、もう来年のことを考えている始末だ。
「『最後の大逆転』これがあるから釣りはヤメられないのだ。」と、釣りの中毒性?を痛切に感じている今日この頃なのである。