明治44年10月20日都新聞
昨夜のベッタラ市
江戸年中行事から引き続いた日本橋名物ともなっているベッタラ市は今年は頗る上景気にて申し分なき天気は引っ込み思案の人たちを引張り出し、夜8時頃にはやっと歩いて行ける位の雑踏の状態で,十時半ごろよりボツボツ減って行き、この中でも人出の盛んなのは大伝馬町、通り旅篭町で堀留・横山の両警察署は久松・箱崎・新場橋の各署から50名づつの応援をもらって総出で警戒した。
浅漬大根は頗る騰貴し,二本30銭と叫んで値段の押し問答するも縁起物だと5銭でも負けろという元気な商いだった。例の切山椒は宵のうち売り切れた。
雑踏が激しければかえって婦人たちに痴漢など多く例年の如く「ベッタラ・ベッタラー」と昔風に浅漬を振り回すやからも多く、14から15歳の男が7つばかりの妹と二人ではぐれた父を探して泣いていたのを見た。
12時半過ぎて早1時近くになればさすがに人足も少なく屋台店も閉じられ警官一同も引き上げる。こうなると値段もめっぽう下がって7本一束10銭だと疲れきった露天商が行く人の袖を引張り、これ幸いと親切な男が女のために買付ける。かくして今年の市は終わりを告げた。
昨夜のベッタラ市
江戸年中行事から引き続いた日本橋名物ともなっているベッタラ市は今年は頗る上景気にて申し分なき天気は引っ込み思案の人たちを引張り出し、夜8時頃にはやっと歩いて行ける位の雑踏の状態で,十時半ごろよりボツボツ減って行き、この中でも人出の盛んなのは大伝馬町、通り旅篭町で堀留・横山の両警察署は久松・箱崎・新場橋の各署から50名づつの応援をもらって総出で警戒した。
浅漬大根は頗る騰貴し,二本30銭と叫んで値段の押し問答するも縁起物だと5銭でも負けろという元気な商いだった。例の切山椒は宵のうち売り切れた。
雑踏が激しければかえって婦人たちに痴漢など多く例年の如く「ベッタラ・ベッタラー」と昔風に浅漬を振り回すやからも多く、14から15歳の男が7つばかりの妹と二人ではぐれた父を探して泣いていたのを見た。
12時半過ぎて早1時近くになればさすがに人足も少なく屋台店も閉じられ警官一同も引き上げる。こうなると値段もめっぽう下がって7本一束10銭だと疲れきった露天商が行く人の袖を引張り、これ幸いと親切な男が女のために買付ける。かくして今年の市は終わりを告げた。