透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「共生」

2007-10-17 | A 読書日記

  

 国立新美術館については既に書きました。先日亡くなった黒川紀章さんにこの作品以降、竣工した作品があるのかどうか分かりませんが、たぶんこの美術館が最後の作品でしょう(日本設計との共同設計)。

相反するが共に不可欠な要素の「共生」。当初は対象が建築と自然だったと私は理解しているのですが、機械の時代と生命の時代、過去と現代、グローバリズムとローカリズムという相反する思想、というようにこの「共生」という概念は次第にその対象が広がっていったのでしょう。

この美術館ではいくつかの共生が具現化されていると黒川さんは説明しています(「新建築」07/1月号)。

歴史的建造物(旧陸軍歩兵第三連隊兵舎:写真の左側の建物)と新しい現代建築との共生、規則と不規則(円錐と曲面のガラスの壁、両者は機械の時代と生命の時代の象徴と捉えることも可能)の共生、そして本来の建築と自然の共生・・・。

「共生(きょうせい)」は仏教用語の共生(ともいき)に由来するそうですが、50年も前から黒川さんが提唱してきたこの言葉は、いまや政治の世界でも使われるほど馴染みになりました。

建築は思想、哲学の表現手段ともなり得る奥の深い存在、ということを私は黒川さんの著書や雑誌に掲載される論文によって理解しました。因みに丹下さんの作品によって建築は美しいものということを知りました。

黒川さんの追悼記事が週刊誌などに掲載されていますが、建築家としての評価よりも先の選挙でのパフォーマンスによって奇人・変人として取り上げられていること、関心の対象が専らそこにあるということが残念でなりません。