透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

信濃美術館

2017-06-06 | A あれこれ


噴水越しに信濃美術館の正面を見る  撮影日170605

 長野県信濃美術館は1966年(昭和41年)に開館した。設計者は日建設計のという所属事務所を記載する必要はなく、ただ林昌二氏とだけ記せばよいだろう。

手元に新建築社から出版された『林昌二の仕事』という本がある。林氏の代表作である三菱ドリームセンター、パレスサイドビル、ポーラ五反田ビルが実施設計図面(当時は手描きだった)、施工中や竣工後の写真、説明文等によって詳細に紹介されている。

この本には「林昌二とその作品」と題する内田祥哉氏の論考が収録されているが、その中にこの信濃美術館も取り上げられていて、**善光寺に近く、善光寺を意識してつくられたことがよく分かる作品である。庭に噴水があり、これがクーリング・ポンド、つまりヒートポンプ用の、冷却装置と貯水槽である。(中略)このクーリング・ポンドは単なる一作品の噴水というより、専門的産業遺産と考えるべきかもしれない。**と、美術館前の公園にある噴水(写真)のことが書かれている。

この信濃美術館は開館から50年経過して老朽化が進み、全面改築が予定されている。新しい美術館の設計者をプロポーザルで選出することになっていて、昨日(5日)二次審査を通過した4社(応募33社、一次審査通過11社)により公開プレゼンテーションが県庁で行われた。各社のプレゼンを興味深く聞いたが、この噴水を新たな計画に積極的に取り込むという提案はなかった。また、現美術館の設計者・林昌二氏に触れたのは1社、設計者に選ばれたプランツアソシエイツの宮崎浩氏だけだった。氏は現美術館の記憶を水庭として残したいと語っていた。過去を未来につなぐ具体的な手法の提示だ。


美術館の東側の道路(美術館の敷地より約9メートル高い位置にある)から城山公園の緑超しに善光寺を望む

宮崎氏の提案は「つながる美術館」をコンセプトに掲げていて、善光寺から美術館の敷地に伸びる軸線を捉え、新美術館を善光寺に対して直行配置し、善光寺に向かって真っすぐ伸びる屋上庭園(東側の道路と同レベルでつながる庭園で、第二の城山公園と位置付けている)を計画している。善光寺とのつながりを強く意識させる、敷地の持つ特性・力を建築化した提案だ。

これから基本設計、さらに実施設計へと作業が進められていく。新美術館は2021年度の開館が予定されているが、どんな美術館ができるのか、またこの噴水がどのように扱われるのか、注目していたい。


 
新しい信濃美術館の設計者に決まった宮崎浩氏が設計した高橋節郎記念美術館(安曇野市穂高)