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安部公房 最も初期の作品群と最晩年の作品を読む

2024-12-15 | A 読書日記

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**世界を震撼させた安部文学、その幕開け** **鬼才・安部公房  幻の遺作**

 安部公房生誕100年の今年(2024年)、最も初期の作品群と最晩年の作品が新潮文庫に収録され、同時期(*1)に刊行された。このようなことは個人全集ではあるだろうが(発表順に刊行する場合が多いだろうから全集でも稀かもしれない)、文庫では極めて珍しいだろう。この2冊を続けて読んだ。続けて読むことで分かることがあるだろう、と漠然と思ったから。

『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』の作品はなかなか晦渋だ。だが、そのことこそ安部公房の最初期の作品の特徴ではないか。

建築でも文学でも最初期の作品にはその後展開される作品群の萌芽があるものだ。処女作『(霊媒の話より)題未定』で、安部公房が問い続けた「人間の存在とは何か」というテーマを既に扱っている。

ゴツゴツした大きな石もゴロゴロと川を流れ下るに従って次第に角が取れて丸くなる。しかし石質は変わらない。未完の遺作『飛ぶ男』も石の譬えのように、テーマは変わらないが、表現が初期の作品と比べるとだいぶ滑らかになっていて、読みやすい。収録作「さまざまな父」は父親が透明人間になる薬を飲んで透明になる話だが、息子との会話はまさにそんな感じ。そして透明になるという設定は、存在するということと大いに関係がある。

3月に新潮文庫に収録された安部公房作品を読みはじめた。手元には既に絶版になっている作品(下表中*印の作品)も含めて23冊あるが、22冊読み終えた。残る1冊『方舟さくら丸』は年越し本にしたい。


新潮文庫23冊 (戯曲作品は手元にない。再読した作品を赤色表示する。)

今年(2024年)中に読み終えるという計画で3月にスタートした安部公房作品再読。12月15日現在22冊読了。新潮文庫に収録されている安部公房作品( 発行順)

『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月

『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*

『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月

『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月 

『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月
『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』2024年4月


*印の作品は絶版
『死に急ぐ鯨たち』は「もぐら日記」を加えて2024年8月に復刊された。


*1 
『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』2024年4月
『飛ぶ男』2024年3月


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