■ 8月に読んだ本6冊。その内の2冊、浅田次郎の『帰郷』と『長く高い壁』は図書館本。
『水中都市・デンドロカカリヤ』安部公房(新潮文庫1973年発行、1993年25刷)
**人間存在の不安感を浮び上がらせた初期短編11編を収録。** そう、既に書いたけれど、人間が存在することとはどういうことなのかという問いかけ、これは安部公房がずっと問い続けたテーマ。
『老化と寿命の謎』飯島裕一(講談社現代新書2024年)
信濃毎日新聞の科学面に2023年1月から2024年4月まで連載された記事「老化と寿命の謎を探る」を基に書籍化された。本書の最後(第3章 第24節)の見出しは「人生の実りの秋(とき)を豊かに過ごすために」。これは高齢の読者へのエール。
『無関係な死・時の崖』安部公房(新潮文庫1974年)
この文庫には短編10編が収録されている。通読すると、安部公房がいかに発想力・構想力に優れていたか、よく分かる。印象に残ったのは表題作の「無関係な死」、それから「人魚伝」と主人公が建築士の「賭」。
『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり(新潮選書2023年)
大塚ひかりさんには源氏本が何冊かある。これまでに3冊読んでいる。先日書店で目にした本書を買い求めて読んだ。
**時に作家は、登場人物に自己を仮託しながらも、その登場人物が作家の思想を超えて、思いも寄らぬ境地に達することがあるものだ。その境地に達したのが、最後のヒロイン浮舟ではないか。**(242頁)
**誰の身代わりでもない自身の人生を、心もとない足取りながらも歩もうとする様は、今に生きる私にとっては、不思議なすがすがしさと開放感を覚える。**(243頁)
自分だけは自分を見捨てるべきではない。大塚さんが紫式部メッセージだとするこの言葉、覚えておきたい。
『帰郷』浅田次郎(集英社2016年 図書館本)
表題作の「帰郷」ほか5編を収める小説集。印象に残ったのは「帰郷」だった。
復員して神戸港から名古屋へ。そして中央線に乗り継ぎ、松本駅に着いた庄一は義兄(二番目の姉の亭主)の三郎に声をかけられる。
庄一は西太平洋のテニアン島で戦死を遂げたと戦死広報が伝えた。庄一の家では葬式を出し、墓石も建てた。妻の糸子は庄一の弟の精二と再婚していた・・・。
松本駅で説得される庄一。**(前略)糸子をねぎらい、夏子を膝に抱き、まだ見ぬ雪子に頬ずりをしたかった。**(44頁)
ああ、これを戦争の悲劇と言わずして何と言う。
三郎に説得され、新宿に出てきた庄一は綾子に声をかけた。綾子は終戦直後の新宿で体を売って日々を食い凌ぐ女だった・・・。
この先、庄一と綾子はどう生きて行くのだろう。ふたりが歩む人生物語を読みたかった。短編なのは残念。
『長く高い壁』浅田次郎(角川書店2018年、図書館本)
昭和13年秋、日中戦争下の張飛嶺(万里の長城)。
大隊主力が前線に出た後、張飛嶺守備隊として残ったのは小隊30人、その第一分隊10人全員が死亡する。戦死か? 従軍作家の小柳逸馬が検閲班長の川津中尉と共に北京から現場に向かい、10人怪死の真相を解き明かす。ミステリー仕立ての小説
9月に読む本は既に決まっている。