ん十年前、世の中の順風な景気に支えられ全国各地の建設ブームに乗り、会社も繁忙を極めた。組織にはめられた一会社人として自由を拘束され個を没し、土日も関係なく仕事優先で良く働いた。
そんな背景もあって、唯一お正月の連休は特別なことがない限り休めた。通勤、職場含め拘束された空間から離れたいこともあって、普段には縁の遠い自由な空間と言うと真冬ならば手短に行けるスキー場が最も相応しかった。
そんな事から独身時代は、必ずスキー場に出がけ元日はスキー場で迎えた位に大事な通年行事であった。
薄給の身、限られた小遣いに、スキー道具とその道具を駆使出来るスキー場行きに時間と金をつぎ込んだで、思い切り弾け、青春を謳歌した。
乗りこなしは先天的な運動神経で左右されるが、そんな天性の持ち合わせなくスキー術には縁がなかった。そんな身分でも、下手くそでも下手くそなりにその魅力に取りつかれた。
ん十年後の今日、現実に帰って、たまたま中々捨てられず埃にまみれたスキーを処分した。
思い出の結集されたスキーが何時までも心の何処かに残り捨てきれなかった。
はてさてこのスキーに当時の弾けた青春の姿を霞のかかったモノクロ写真が語り伝えて居る。
◇リスク承知で予約
概ね、この時期はスキー場の稼ぎ時でもあって、かなり前から予約が必須である。
所が自然の恵み、その年の地球を巡る寒気が降雪に左右され、滑れるかどうかは天候次第である。
石打で事前情報から雪不足との情報があっても、宿屋にはキャンセルが出来ない。藁を掴む思いで何とかなるだろうと、甘い考えで行ったが、予報通りで期待は見事に外れた。
肝心のゲレンデでは多少の積雪があるものの、地肌がむき出しで、白黒のまだら模様で滑りはほぼ全滅状態であった。石打で事前情報から雪不足との情報があっても、宿屋にはキャンセルが出来ない。藁を掴む思いで何とかなるだろうと、甘い考えで行ったが、予報通りで期待は見事に外れた。
肝心のゲレンデでは多少の積雪があるものの、地肌がむき出しで、白黒のまだら模様で滑りはほぼ全滅状態であった。
その日は結局、スキーの滑降を諦め、童心に帰り、至近距離からの一発勝負、泣き笑いの雪に戯れ雪合戦で日ごろの鬱積された恨みを晴らした。顔は笑うも歯をむき出しの真剣勝負の雪合戦、未だ幼い子供心も、火をつけるこれも青春なのだろうと思いたい。
◇雪を求めて岩原へ
岩原にて、巨大なすり鉢ような底のような平坦地にせり立つ向かい側の山々は皆、雪を被り素晴らしい慧眼である。ゲレンデの雪面は踏み固められ、スキー場ならではの格好の滑りの世界である
一点の汚れなく、真っ白い白銀の上にスキーを無造作に投げ倒す。久方振り、雪面の向き合いは久方振りで、白銀の上に立ち、平時と全く異なる世界に恐ろしさが先に立つ。
足首も曲がらぬ丸でギブスのような大きなスキー靴履いて恐る恐るスキーの上に載せスキーの金具ビンディングにはめ込む。
スキー板と足がびったりと装着され、最早、足の自由度はスキー板に一体で拘束され足の自由度はなくなる。丸で足が重石に付けられたロボットの様で拘束状態になる。
こうして、恐る恐る滑り始め、スキーの上に乗り遅れまいと、倒れずに姿勢を保つのが精一杯であった。
<転倒に継ぐ転倒、それにめげず皆、頑張る>
<転倒者を前に、手も差し伸べづ、冷ややかに嘲笑。畜生と思いつつ立ち上がる>
こんな滑り出しから始まり傾斜地の折り返しで、急カーブで山側に曲がる『山廻り』を手始めに、雪面を左右に回転しながら、腰を振り格好よくダイナミックに降りてくる回転滑行につながる。
◇甘くない厳しいハードル
スキーの究極は素敵な滑行は大回転競技のように見るも楽しく、滑る当人も危険も伴いながらも高速で左右に操り滑空する世界は別天地であろう。
見た目に簡単そうに見えるが、それが連続となると、かなり難しい。一足飛びにテールを持ち上げパカパカ飛べば良いのではと単純な発想で『パラレル』に挑戦してみる。
しかし,そんなに甘くはなかった。最初は揃って出発した両足も、テールを踏んでしまったり、スキーの外エッジが雪面にかかり、思い切り吹っ飛ばされ、倒れることなど、回転滑行のハードルは思った以上に高かった。
それでも気合と根性で、失敗を顧みず、格好よく出来たと自己満足に陥った姿であった。
◇究極の2000m
白根山でリフト越しに見える2000m級の山々。『山々から手招きしている、よしここまで来たら、挑戦してみよう』と、無謀な好奇心に駆り立てられる。
危険を顧みず、リフトに乗ってしまった。ゲレンデで滑った世界から、全く異なる急角度の傾斜に恐怖で怯えてくる。もう、ひき返すことは出来ない、高いリフトから雪面めがけて飛び降りるしかない。
急角度、重力加速度がつき、恐怖心から前に倒れまいと、身を庇う余り、腰が引けてきてパラレルどころではない。雪面に身を埋めながら、斜面を斜めに折り返しながらの滑降で漸く地上の世界に戻った。深い雪に潜り、途中で払いのけることもせず頭の先から全身雪だるまが、ゲレンデスキーヤの奇異の目で見られてしまった。急傾斜に身を庇う余り、山側に倒れ、埋もれ、立ち上げに精一杯の山下り。
◇このスキーにかけた思い出
往時、泣きなしの小遣いで、神田小川町のスポーツ用品街に迄行って買い求めたスキー道具であった。
スキーはカバーを被り、家の裏側の物置に出番もなく眠っていた。
スキー本体はカバーの保存で、錆もなく往時の姿を留めていた。
むき出しのストックは赤く錆、長い年月の経過を物語っている。
身長以上の高さ2m以上はあったが、持ち上げたら、結構重い。こんな重い物を厭わず、担ぎ列車旅で、都心から上越、信越へ運んだのだ。
あれからん十年加齢により、劣化し、特に筋肉の衰えは甚だしく、腰を曲げながらの、爺さん歩きである。こんな長手の重量物を装着して、操り、歩き、滑るなんて信じられない世界である。
改めて若かったんだなあ~と、この道具を前に時の経過を思い知らされる。
スキー靴は天井裏に眠っており、比較的保存状態が良いのか、往時の姿で未だテカテカに輝いていた。
このスキー道具と併せ、殆ど使っていない漬物の石他重量物を併せて1万円ほどで、市の業者に引き取って貰った。
トラックに載せられ、立ち去るまで見送った。ああ~これで、遥か彼方の青春を思い切って断ち切った。
こんなせりふにひょっと浮かぶのは小椋佳の『さらば青春』
♫僕は呼びかけはしない 遠く過ぎ去るものに
僕は呼びかけはしない かたわらを行くものさえ
見るがいい 黒い水が 抱き込むように流れてく
少女よ泣くのはお止め 風も木も川も土も
みんな みんな たわむれの口笛を吹く♫
随分古いが、現代でも通じる、メロデイ、象徴的な『さらば青春』であった。
如何でしょう、ん十年前の思いで、こちらでも詳しく書いてみました。
さらば青春