北の秘境に惹かれて知床クルージング行った。都市開発がくまなく進む国土に、「ポツンと一軒家」ではないが、野生の熊と確実に遭遇出来る秘境が存在することに不思議な感じがする。
陸続きであるが、深い自然もあって、自然の要塞が、人の出入りを阻み、人の手の届かない場所に野生の熊が悠々と生活している。
そんな秘境の世界も海側から、船で近接し自然の中、熊の生活環境に近寄よることが出来る。
それを実現したのが知床半島周回するクルージングであった。
そのクルージング船が観光案内中に突然沈没した。
荒れる海域に、救助の手も届かず、多数の旅客や、船員を含め、深い海域に沈んでしまった。
遭難後約1ヵ月経過、遭難船は引き揚げられたが、多数の遭難者が未だ多数行方不明であることに、衝撃的な海難事故であった。
そんなクルージングを今回遭難した航跡を、以前にそっくりと航行体験した。遭難事故を報じられ改めて他人事ならない身近な遭難事故であったことを思い知らされた。
当時は人をも寄せ付けない秘境の世界に、クルージング船が手招きし、乗せられた。
たまたまその航跡を辿り、同じ船から、荒れる海域を,揺すられながら体感し、人をも寄り付かぬ切り立つ岸壁と、其処に落ちる滝の凄さを思い切り心酔した。
遠い彼方に記憶が薄らぐが、当時の情況を物語る画像がしっかりと残されており、辿ってみる。
◇ウトロ港から出港
2階建ての軽合金製14トン、定員57名のカムイワッカ55号に乗船する
乗船者は総て、怒派手な、まっ黄色のライフジャケットを着帯させられる。
船中から海上に放り出された時、浮き輪替わりになり、見つけ易く、袖を通し此れを着た だけで、何となく身が引き締まる。9月のこの時期、オホーツク海の冷たい海中遊泳は誰しも臨んでいないが、肝心の膨らませる機能の案内は一切なかった。
海上を撥ねるように高速で突っ走り船尾にはたちまち白波の航跡が、時折側壁から否応なしに、
しぶきの洗礼を浴び、ワイルドで痛快なクルージングが始まる。
高いエンジン音と振動が船全体に響き、体に伝わってくる。
◇半島の中間部カムイワッカ周辺地域
疾走する観光船は知床半島の西端を舐める様に海岸線を走る。
陸伝いの一般道は西側の海岸線の縁を這う様に突端に向かうが、その道もカムイワッカ付近を最後に行きどまりである。ここから先は人をも阻む,まさに秘境の世界に入ってしまい、動物たちの楽園である。
1)乙女の涙、男の涙
切り立つ絶壁の中、崩れた岩石が堆積され僅かばかりであるが、自然の浜となっている。
奥の方に『プレペの滝』があり、「乙女の涙」とも言われている。ここには川がなく知床連山に
降った雪と雨が地下に浸透し、100m近くある断崖の割れ目から流れ落ちている。
一方では側壁が黄色、緑色の岩肌の点在、海水に振れる波打ち際の岩肌が白くなっている姿が目に映る。
冷泉のようで、含まれる硫黄の成分で流れる岩肌がこのように変色化している。
知床の火山形成を物語る姿が海岸にも現れている。
「どちらを見ても岩の間から水が出ている。」と言われても、この角度からは人をも憚る男の泣く姿に遠慮したのか、涙が見えにくい。
乙女の涙に続いて男の涙、隣り合わせで涙出し合う、その姿に果たしてどのような情景から、命名された由縁があるのだろうか?
2)象岩
入水した象が大きな鼻から思い切り噴き出し、ボコボコと水面が泡立つ、ダイナミックな姿に見えるが威風な姿が優しく迎えてくれる若干横に逸れているが正面から見ると「象の鼻」に見える。
。
3)クンネポール
アイヌ語で「クンネポール」は真っ黒な穴、洞窟を意味するそうである。
長年の波の浸食でこのような洞窟が誕生したようで、その構造から恰好のコウモリの住まいで夕方には多数のコウモリが此処を駐屯基地として飛び舞うそうである。
自然が作られた暗い不気味な姿が、コウモリの生息と合わせミステリーな雰囲気を作っている
4)ルシャ湾で熊との出合い
ルシャ川とテッパンベツ川がルシャ湾と言われる位に規模も大きいものである。
サケ・マスのふ化場があり、ヒグマのメッカである。
「居たぞ!!」「居た居た」
観光船の案内人にアナウスされるまでも、観光客が歓声があちこちに声が上がり、海岸線当たりの川口に紛れもないヒグマ1頭が鮭を求めウロウロしている
カメラでこのような姿を捉えられる程の距離から、人間様の存在が判るのか、判らないのか、完全に無視し、獲物あさりに集中している。船上からのヒグマとの出会い、海と観光船の要塞に守られ安心で安全な観光が出来る。
□半島先端 知床岬
観光船は愈コースの折り返し点である、知床半島の最先端を極める。
疾走する観光船に切り立つ断崖と目まぐるしく目の前を駆けめぐる奇岩は何処までも続く。
方角を変えて知床岬を臨む。その先端の先に薄ボンヤリと北方4島のクナシリ島が見える。
半島を覆う山岳地帯が此処だけは広々とした台地がしっかりと見える。
知床岬を飾る奇岩の数々半島の生い立ち、長い年月の浸食、大自然が生み出す数々のモニュメントはクルージングの世界を演出してくれる、主役でもある。
知床岬で反転した観光船は出港地であったウトロ港へ目指す。
□カシユの滝
オホーツク海に流れるチャラセナイ川の川口にある滝。
アイヌ語では仮小屋のあるところと言う意味。チャラッセイ(滝の落ちる所)オロソウ(大滝)とも言う。
数有る知床半島の滝の中で一番最北端に位置する滝
「ルシャ湾」に近づくと、ここからはまるで別の海になる。どんなに天気が良くても急に荒れることがあり、30分先の状況が読めない場所だ」と注意を促した。
ルシャ湾からカシュニの滝までの約5キロの海域は、北の知床岳(1254メートル)と南の知床硫黄山(1562メートル)の間から風が吹き抜けるため波が高く、潮の流れも速いという危険な場所でもある。
案の定、あの「カズワン」もこのカシユの滝付近を最後に姿を消してしまった。
□危険と隣り合わせ
同じような軌跡を辿りながら、背後の他の観光船も観光客を満載し、波しぶきを上げながら我々の船を追送する。
その疾走振りから激しいしぶきが、後部に否応なしに波しぶきの洗礼を浴び、ワイルドな船旅の様子が判ると思う。
こうして帰路に付く観光船、あるいはこれから向かうもの、数社の観光船が此処知床半島の西海岸を多数就航する姿が見受けられ、その隆盛振りから人気のほどが伺える。
知床山々の頂部を控え、べた凪の海上から疾走し観光船から洋上の風、潮を思い切り吸い、眼下に映る海岸線の自然な絵姿を堪能することが出来た。
豊かな自然を背景に生れた秘境の世界、成るほどこれが冠たる世界遺産なのだと、海上から見る半島の姿に登録された由縁が何となく判ってきた。一方では今回の事故も併せ、危険と隣合わせの場所であることも判った。
揺れる船からしっかりとした大地へ、3時間の船旅はこうして終わった。
当時の情況は以下でも詳細が残されています。ご覧ください