575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

言は意を尽くさず      575女

2009年01月26日 | Weblog
★俳句ブログ「かわうそ亭」にこんな一文がありいろいろ考えさせられました。

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池田澄子さんの句集『たましいの話』を読む。

  夕月やしっかりするとくたびれる
  永遠に泣いていたいの心太
  山法師捻挫と恋は長引くぞ
  太陽が仕事している猫やなぎ
  春月がとろんと高しさようなら
  性格のよからんいそぎんちゃくぴんく
  (以上『たましいの話』から)
 
まだまだ、たくさん気に入った句はあるのだが、こういうちょっと軽めでどこかお茶目な雰囲気が、広範な読者に「へえ俳句って意外と面白いじゃん」と受け入れられているのではないかと思う。

もうひとつ、池田澄子さんについては戦争にまつわる作品群があるのだが、たとえば俳句総合誌に掲載された次の句(『たましいの話』所収)をめぐっていささか困った非難があったとのことであります。

  忘れちゃえ赤紙神風草むす屍

つまりこれを、戦争の話なんてかったるいからもう忘れちゃえと作者が言っているのだと解釈した人がかなりいるらしいのですね。「うぜえんだよ、じいさん、戦争、戦争っていつまでも」と言われたように思ったわけであります。

 けしからん死者を冒涜するにもほどがある、なんてのはまあいいとして、たとえばあるサイトでは、わたしたちはあの戦争の惨禍を次世代に伝えているだろうか。「『忘れちゃえ赤紙神風草むす屍』の句に対しては、『忘れてはいけない』ときちんと反論ができるでしょうか。」なんて意見があったりして、まあ、大半の俳句ファンは「あっちゃあ」と困惑したのではないかしらと思うんですね。

 もちろん、そんな風に受け取るのは読み手がバカである、あるいは俳句の読み方を知らないだけなんだから相手にしてもしょうがないわなという立場もあると思うが、厳密な意味で、このような解釈が誤読だとこの句だけから証明もできないと思う。念のためにいっておくけれど、わたし自身はこの句をそういう風にはまったく読まないよ。小さな娘が泣きながら「お父さんなんて大っ嫌い」というのと同じ文脈で読めなければ、いったいあんたは何年生きているんですか、と思う。

「易」に「言は意を尽くさず」という言葉があるそうですが、俳句という短詩型は、わざと意を尽くさないことをもって上とする文芸なので、こういうことはおこりがちなのですね。困ったことだが、これは仕方がない。

 ただ池田さんのこの句には、普遍的な戦争に対するこの世代の方の感情とは別に、池田さん自身のおそらく父親への思いがこめられているという気がしてならない。次のような句が、空想を誘うのである。

  雁や父は海越えそれっきり
  鉄剤を恃みぬファザーコンプレックス
  雪黒しここは亡父の家路であった
  TV画面のバンザイ岬いつも夏
  泉あり父の若死以前から
  玉砕の島水筒の腐りがたき
  茄子焼いて冷やしてたましいの話

 池田澄子さんは昭和11年(1936)生まれ、敗戦のときは十歳くらい。玉音放送を実際に聞いた記憶をお持ちの方です。
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「なんだこりゃ俳句」再々録        愚足

2009年01月26日 | Weblog
出席者は、主宰が金子兜太、司会役兼選者いとうせいこう。
選者が、 假屋崎省吾、高橋源一郎、冨士眞奈美、吉行和子、明川哲也、
大宮エリー、なぎら健壱、南海キャンディーズ、箭内道彦。

番組で取り上げられた二十句と批評を記憶の断片から紹介します。なにしろ二時間の深夜番組面白さと眠さだけが残って言葉にはなりませんでした。
  
  福助のお辞儀は永遠に雪が降る     鳥居真理子・・京都にお福とかいうお菓子があり店頭でずーとお辞儀をしている。永久の都の雪中も健気に(ぐ)
 
  唇は黒いマスクの下に惜しげもなくなくふる雪で必死の暮しも阻む冬はなほ更に思う     橋本夢道・・長すぎると無残にも定型に刈り込まれました

  じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 池田澄子 ・・勝ったらどうなるの突っ込み

  足のうら洗へば白くなる  尾崎放哉・・死ぬ間際の句とかで納得

  青蛙おのれもペンキぬりたてか  芥川龍之介・・「も」が効いている

  露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す  西東三鬼・・終戦直後白眼視されていたロシア人の苛立ち体験句

  性格が八百屋お七でシクラメン  京極杞陽・・シクラメンは篝火花でお七

  粉屋が哭く山を駆けおりてきた俺に  金子兜太・・体験句であるが空想句

  法医學・櫻・暗黒・父・自瀆   寺山修司・・寺山が嫌いなもの

  とととととととととと脈アマリリス   中岡敏雄・・生命・脈動・血のイメージとアマリリスの拍子

  ワタナベのジュースの素です雲の峰   三宅やよい・・本歌取りの遊び句

  噴水や戦後の男指やさし  寺田京子・・戦後のイカシタ女と男の姿と心意気

  戦争が廊下の奥に立ってゐた  渡辺白泉・・最高に不気味で怖い名句 

  春は曙そろそろ帰ってくれないか  櫂美千子・・倦怠の男女、分かるの声多

  まっすぐな道でさみしい  種田山頭火・・山頭火では下の句
  
  夜のダ・カポ ダ・カポのダ・カポ 噴火のダ・カポ   高柳 重信・・抽象画的とか、人生の繰り返しの苛立ちとか
                     
  鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし  三橋鷹女(鞦韆:ブランコの意)・・取り合わせの妙、不安定感や断定的決意、かっこいい女に拍手

  栃木にいろいろ雨のたましいもいたり   阿部完市・・埼玉でも群馬でもなく栃木が語感的に正解

  魔がさして糸瓜となりぬどうもどうも  正木ゆう子・・蛍の句の同類、居直りの良さあり

  夏みかん酸っぱしいまさら純潔など  鈴木しづ子・・戦後女性のキッパリした生きざまに拍手

 ★なお作者は基地の女として生き黒人兵士を愛人として看取り忽然と失踪した伝説の女性俳人です     
コメント (2)
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