【内容】
彼ら彼女たちの存在がなければ、戦後復興はなかった――
昭和30年前後から昭和50年代前半にかけて、〈集団就職〉という社会現象が存在した。中学卒の少年少女たちがまさに出征兵士のごとく、東北から関東方面へ、九州・四国・沖縄から京阪神・中京方面へ、企業側の求人に応じて就職していった。彼ら彼女らの存在がなければ戦後復興も経済成長もなかった。本書では、〈集団就職〉の実態を、主に西日本域出身者たちへの聞き書きにより明らかにし、現代史の中で正当に評価しようと試みた。さらに、働くことの本質を集団就職体験者たちの言葉から問い直した力作。
昭和30年前後から昭和50年代前半にかけて、〈集団就職〉という社会現象が存在した。中学卒の少年少女たちがまさに出征兵士のごとく、東北から関東方面へ、九州・四国・沖縄から京阪神・中京方面へ、企業側の求人に応じて就職していった。彼ら彼女らの存在がなければ戦後復興も経済成長もなかった。本書では、〈集団就職〉の実態を、主に西日本域出身者たちへの聞き書きにより明らかにし、現代史の中で正当に評価しようと試みた。さらに、働くことの本質を集団就職体験者たちの言葉から問い直した力作。
メディア掲載レビューほか
誰も知らない「集団就職」の真実 働くことの意味とは?
高度経済成長期に地方の中学・高校の卒業生たちが、臨時列車に乗って大都市圏に働きに出た「集団就職」。1979年生まれの私にとって、それは「金の卵」という言葉と合わせて、親世代が若かりし頃に経験したすぐ近くにある「歴史」だ。
だが、学校の授業でも習ったはずの「集団就職」には、一方で詳しい記録がほとんど残されていないという。
多くの少年少女が故郷から送り出された事実は知られているが、自治体はデータを持っておらず、実際にどれくらいの数の人たちが故郷を離れたかすらも正確には分からない。「集団就職」とは誰もが知っているようで、その内実はひどく曖昧なものでもあるわけだ。
そんななか、実際の経験者たちから当時の状況や思いを聞き取り、その実態を個々の視点から垣間見ようとしたのが本書である。特に九州や復帰前後の沖縄から京阪神・名古屋へ向かった人々を中心に証言が集められており、一般に「東北」から東京に向かう光景として語られてきた「集団就職」のイメージが捉え直される。
何より寡黙な人々が背中で語るようなシーンの一つひとつが胸に迫った。
故郷を離れる寂しさや不安、工場での劣悪な労働環境。あるいは、ふとした夕焼けの風景を見たとき、唐突に湧き上がって胸を締め付けた郷愁の念……。
おそらく取材に応じた人の大半が、著者の問いかけによって初めて自らの体験を言葉にし、その意味を人生の中に位置づけようとしたのではないか。「私たちのときは仕事の選択肢がなかったのよ。生きてゆくにはこれしかなかったのよ」といった淡々とした語りに、一口には言い表せない様々な思いが滲んでいる。
また、彼ら・彼女たちがときにわずか15歳で経験した労働現場は、現在から見ればあまりに過酷なものでもあった。だが、著者はその過酷さを単なる「残酷物語」として安易には描かない。集団就職の影の部分に目を向けつつ、その中で当時の少年少女たちが「働くこと」に何を見出し、どのような思いを糧にして人生を切り拓こうとしてきたかを、敬意とともに描き出していくのである。
本書を読んでいると、この人々の証言を歴史の狭間に埋もれさせてはならない、という著者の問題意識がひしひしと伝わってくる。
公的な記録には残されなかった人々によって、戦後の高度経済成長、さらに言えば現在の日本の土台がいかに支えられ、形作られたか。それは著者の言葉通り、いまの時代に「働くこと」の意味を考える上でも、私たちが知っておくべき現代史の一面であるに違いない。
評者:稲泉 連
(週刊文春 2017.07.06号 掲載)
【著者】
【澤宮 優 (さわみや・ゆう)】
1964(昭和39)年、熊本県生まれ。ノンフィクション作家。青山学院大学史学科卒、早稲田大学日本文学専修卒。『巨人軍最強の捕手』(晶文社)で第14回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。昭和の庶民史をテーマに幅広く執筆。
主な著作に『昭和の仕事』(弦書房)『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』(原書房)『廃墟となった戦国名城』(河出書房新社)『「考古学エレジー」の唄が聞こえる《発掘にかけた青春哀歌》』(東海教育研究所)『ひとを見抜く《伝説のスカウト河西俊雄の生涯》』(河出書房新社)ほか多数。
1964(昭和39)年、熊本県生まれ。ノンフィクション作家。青山学院大学史学科卒、早稲田大学日本文学専修卒。『巨人軍最強の捕手』(晶文社)で第14回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。昭和の庶民史をテーマに幅広く執筆。
主な著作に『昭和の仕事』(弦書房)『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』(原書房)『廃墟となった戦国名城』(河出書房新社)『「考古学エレジー」の唄が聞こえる《発掘にかけた青春哀歌》』(東海教育研究所)『ひとを見抜く《伝説のスカウト河西俊雄の生涯》』(河出書房新社)ほか多数。
【読んだ理由】
新聞の書評を読んで。
【最も印象に残った一行】
就職する彼らに両親は忠告した。
「道を聞くときには赤く塗った自転車(郵便局の自転車9か、白と黒に塗った車(パトカー)に乗っている人に聞きなさい」
「境遇は選べないが、生き方は選ぶことができる」
【コメント】
遠い遠い過去のことと思っていたが、集団就職が昭和52年頃まであったと知り、少し驚いた。