【原文】
二日。なほ大湊に泊まれり。
講師、物、酒おこせたり。
三日。同じところなり。
もし、風波の、しばしと惜しむ心やあらむ。心もとなし。
四日。風吹けば、え出で立たず。
まさつら、酒、よき物奉れり。この、かうやうに物持て来る人に、なほしもえあらで、いささけわざせさす。物もなし。にぎははしきやうなれど、負くる心地す。
五日。風波やまねば、なほ同じところにあり。
五日。風波やまねば、なほ同じところにあり。
人々、絶えず訪)ひに来。
六日。昨日のごとし。
【現代語訳】
二日。やはり大湊に泊まっている。 国分寺の住職が食べ物や酒を贈ってよこした。 三日。同じところにいる。 風波にしばらくおとどまりくださいという出発を惜しむ心があるのだろうか。気がかりなことだ。 四日。風が吹いたので出航できず。 まさつらが(一行の長に)酒や結構な物をさしあげる。このように物を持ってくる人に、何もしないわけにはいかないので、わずかばかりの返礼をさせる。とはいってもろくなものはないが・・・。 (入れ替わり立ち替わり贈り物をもらうので)裕福なように見えるが、気の引ける思いがする。 五日。風も波も止まないので、やはり、同じところにいる。 人々がひっきりなしに訪ねて来る。 六日。昨日と同じである。 |
◆『土佐日記』(とさにっき)は、平安時代に成立した日本最古の日記文学のひとつ。紀貫之が土佐国から京に帰る最中に起きた出来事を諧謔を交えて綴った内容を持つ。成立時期は未詳だが、承平5年(934年)後半といわれる。古くは『土左日記』と表記され、「とさの日記」と読んだ。