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【まくら】
落語寄席の始まった文化(1804~17)頃から高座にかけていた生粋の江戸落語で、「郭物」としては他に類のない噺。
題名は、時間で区切る遊興費の更新に由来する。
【あらすじ】
花魁(おいらん)も歳を重ねてくると、どうしても若い者には負けてしまう。
ある時、体を壊し、男衆の”ぎゅう”に親切にされると、ほだされて仕事どころか”ぎゅう”に入れあげてしまった。
色街での男女の交際は御法度になっているが、そこは目の利くご主人だけあって、二人を奥に呼びだしてきつく意見をした。
見世替えも出来ないだろうから、証文を巻いてあげるから二人一緒になってこの店で働きなさいと、優しい言葉を掛けてもらった。
二人は次の日から店に出て、花魁は名前が変わって”おばさん”となって、客と花魁の仲を取り持つ事になった。
亭主は表で客引きをして、見世に入った客をおばさんが手玉にとって、持ち金を巻き上げて、一生懸命働いていた。
見世で働き、見世で食べて、風呂にも入って近くに家を借りて生活していたら、小銭も貯まってきて、ゆとりも出てきた。
女は生活に張りが出てきたが、男は逆にこの金で・・・、と別の場所で女遊びをするようになった。
夜遊びが過ぎて見世を休む事が多くなった。その挙げ句、バクチにも手を出して深みにはまってしまった。
その為見世にも出ず、家財を売り払って、女房も義理が悪くなって見世も辞めてしまった。
今更、目が覚めたと言ったって、どうしようもないとこまで落ちてしまった。
亭主は友人から羅生門河岸に空いた見世があるから、そこで稼いだらどうだと知恵をつけられてきた。
女房に話をすると、一文無しでは出来ないし、若い衆も必要だが・・・、それは俺がやるよ。
けころの女は・・・、それはお前がやってくれ。私はあんたの女房だよ、それは出来ないよ。
お前は元花魁だったから、回りの女から見れば掃き溜めに鶴だから出来るよと口説いた。
客にはお愛想を言いながら、200文のところ「お直しだよ」と声を掛けて400文にし、またお直しと言って600文というように上げていくんだよ。
あんたはそれが出来ないよ、だってあんたはヤキモチやきだから。
仕事だから我慢もするといって、損料物を借りてきた。
女房の方も見栄も外聞も捨てて、厚化粧して見世に立った。
見世は羅生門河岸と言われるところで、路地を入ると両側に女が立っていて、戸板の入口と2畳の畳と土間があり、薄ぼんやりした中に引っ張り込んだ。
冷やかしに通る客を腕を掴んで引きずり込むが、客も心得ていて、ひらりと体をかわして逃げていく。強引な女に手を挙げると、入口の用心棒が出てきて大変な事になってしまう。そのなかの一つで商売を始めた。
路地を酔っぱらいが気持ちよさそうに入ってきた。するりと逃げられたが、何人目かの職人をタックルして連れ込んだ。
「お前さんは手が冷たいんだから」と、手を暖めてあげながら「隣で浮気ナンぞをしたら嫌だよ。お前さんが好きだから。」
それを聴いた亭主は表でふてくされている。ヤキモチ焼いて「お直しだよ。直してもらいな」。
「直して頂戴。私はお前さんと夫婦になりたいよ。」、「俺は良いよ。俺は一人もんだから。で、どの位借金があるんだ」、「30両」、「その位なら今度来る時、持ってきて上げるよ」。
「お直しだよ」。
「分かったよ」、「私はお前さんにぶたれたって、蹴飛ばされたって平気だよ」、「俺はそんなことしないよ。なぜてあげるだけだよ」。
「直してもらいな」。
「お直しだよ」、「分かった。今度はあさって来るからな」。
「ど~ぉ、あのお客、酔っていたけどさぁ」、「てやんでぇ・・・、やめた。こんな商売。どこに借金があるんだ。それに、あの男の為なら『命はいらない』なって言うんだな」、「ヤキモチ焼いて、だから私はやりたくないと言ったんだよ」、「本当にお前はそう思っているんだ。もうやりたかぁないや」、「だったらいいや、私だってやりたかないよ。おまえがやろうと言ったから始めたんじゃないか。人の気も知らないで。人に苦労ばかりさせやがって」と泣き声になってしまった。
夫婦がやりとりしているところに、先ほどの酔っぱらいが戻ってきて、中を覗いて、
「直してもらいな」。
出典:落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
逆さ落ち(物事や立場が入れ替わもの )
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『傾城の恋はまことの恋ならで、金持ってこいが本当(ほん)の恋』
『当たらぬがある故河豚(ふぐ)の恐さかな』
『遠くて近いは男女の道、近くて遠いは田舎の道』
『めくり引くなら暇くだしゃんせめくりじゃ湯銭も残らない』
【語句豆辞典】
【ぎゅう】妓夫(ぎゆう=はしょって「ぎゅう」、牛太郎=若い衆)。客引き。客引きの若い衆。遊郭の若い衆(使用人)。小見世では客引きなどをする見世番。歳を取っていても”若い衆”と言う。
【おばさんor遣り手】お客と見世との間に立って料金、花魁等の世話をする。
【お見立てとひやかし】遊郭で花魁を吟味(お見立て)するのに、窓格子から中を覗いて見て回った。また、店に上がらず見て回るだけを”ひやかし”と言った。
【けころ】けころは「蹴転」「稽古路」「毛娯呂」などと書き、簡単に男と寝る素人風の女性のこと。また客の誰とでも寝る「転び芸者」から由来したとも言われている。
【証文を巻く】借金の証文を巻く。借金を棒引きにする。
【この噺を得意とした落語家】
・三代目 古今亭志ん朝
・五代目 古今亭志ん生
【落語豆知識】
【食い付き】中入り後最初の出番
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落語寄席の始まった文化(1804~17)頃から高座にかけていた生粋の江戸落語で、「郭物」としては他に類のない噺。
題名は、時間で区切る遊興費の更新に由来する。
【あらすじ】
花魁(おいらん)も歳を重ねてくると、どうしても若い者には負けてしまう。
ある時、体を壊し、男衆の”ぎゅう”に親切にされると、ほだされて仕事どころか”ぎゅう”に入れあげてしまった。
色街での男女の交際は御法度になっているが、そこは目の利くご主人だけあって、二人を奥に呼びだしてきつく意見をした。
見世替えも出来ないだろうから、証文を巻いてあげるから二人一緒になってこの店で働きなさいと、優しい言葉を掛けてもらった。
二人は次の日から店に出て、花魁は名前が変わって”おばさん”となって、客と花魁の仲を取り持つ事になった。
亭主は表で客引きをして、見世に入った客をおばさんが手玉にとって、持ち金を巻き上げて、一生懸命働いていた。
見世で働き、見世で食べて、風呂にも入って近くに家を借りて生活していたら、小銭も貯まってきて、ゆとりも出てきた。
女は生活に張りが出てきたが、男は逆にこの金で・・・、と別の場所で女遊びをするようになった。
夜遊びが過ぎて見世を休む事が多くなった。その挙げ句、バクチにも手を出して深みにはまってしまった。
その為見世にも出ず、家財を売り払って、女房も義理が悪くなって見世も辞めてしまった。
今更、目が覚めたと言ったって、どうしようもないとこまで落ちてしまった。
亭主は友人から羅生門河岸に空いた見世があるから、そこで稼いだらどうだと知恵をつけられてきた。
女房に話をすると、一文無しでは出来ないし、若い衆も必要だが・・・、それは俺がやるよ。
けころの女は・・・、それはお前がやってくれ。私はあんたの女房だよ、それは出来ないよ。
お前は元花魁だったから、回りの女から見れば掃き溜めに鶴だから出来るよと口説いた。
客にはお愛想を言いながら、200文のところ「お直しだよ」と声を掛けて400文にし、またお直しと言って600文というように上げていくんだよ。
あんたはそれが出来ないよ、だってあんたはヤキモチやきだから。
仕事だから我慢もするといって、損料物を借りてきた。
女房の方も見栄も外聞も捨てて、厚化粧して見世に立った。
見世は羅生門河岸と言われるところで、路地を入ると両側に女が立っていて、戸板の入口と2畳の畳と土間があり、薄ぼんやりした中に引っ張り込んだ。
冷やかしに通る客を腕を掴んで引きずり込むが、客も心得ていて、ひらりと体をかわして逃げていく。強引な女に手を挙げると、入口の用心棒が出てきて大変な事になってしまう。そのなかの一つで商売を始めた。
路地を酔っぱらいが気持ちよさそうに入ってきた。するりと逃げられたが、何人目かの職人をタックルして連れ込んだ。
「お前さんは手が冷たいんだから」と、手を暖めてあげながら「隣で浮気ナンぞをしたら嫌だよ。お前さんが好きだから。」
それを聴いた亭主は表でふてくされている。ヤキモチ焼いて「お直しだよ。直してもらいな」。
「直して頂戴。私はお前さんと夫婦になりたいよ。」、「俺は良いよ。俺は一人もんだから。で、どの位借金があるんだ」、「30両」、「その位なら今度来る時、持ってきて上げるよ」。
「お直しだよ」。
「分かったよ」、「私はお前さんにぶたれたって、蹴飛ばされたって平気だよ」、「俺はそんなことしないよ。なぜてあげるだけだよ」。
「直してもらいな」。
「お直しだよ」、「分かった。今度はあさって来るからな」。
「ど~ぉ、あのお客、酔っていたけどさぁ」、「てやんでぇ・・・、やめた。こんな商売。どこに借金があるんだ。それに、あの男の為なら『命はいらない』なって言うんだな」、「ヤキモチ焼いて、だから私はやりたくないと言ったんだよ」、「本当にお前はそう思っているんだ。もうやりたかぁないや」、「だったらいいや、私だってやりたかないよ。おまえがやろうと言ったから始めたんじゃないか。人の気も知らないで。人に苦労ばかりさせやがって」と泣き声になってしまった。
夫婦がやりとりしているところに、先ほどの酔っぱらいが戻ってきて、中を覗いて、
「直してもらいな」。
出典:落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
逆さ落ち(物事や立場が入れ替わもの )
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『傾城の恋はまことの恋ならで、金持ってこいが本当(ほん)の恋』
『当たらぬがある故河豚(ふぐ)の恐さかな』
『遠くて近いは男女の道、近くて遠いは田舎の道』
『めくり引くなら暇くだしゃんせめくりじゃ湯銭も残らない』
【語句豆辞典】
【ぎゅう】妓夫(ぎゆう=はしょって「ぎゅう」、牛太郎=若い衆)。客引き。客引きの若い衆。遊郭の若い衆(使用人)。小見世では客引きなどをする見世番。歳を取っていても”若い衆”と言う。
【おばさんor遣り手】お客と見世との間に立って料金、花魁等の世話をする。
【お見立てとひやかし】遊郭で花魁を吟味(お見立て)するのに、窓格子から中を覗いて見て回った。また、店に上がらず見て回るだけを”ひやかし”と言った。
【けころ】けころは「蹴転」「稽古路」「毛娯呂」などと書き、簡単に男と寝る素人風の女性のこと。また客の誰とでも寝る「転び芸者」から由来したとも言われている。
【証文を巻く】借金の証文を巻く。借金を棒引きにする。
【この噺を得意とした落語家】
・三代目 古今亭志ん朝
・五代目 古今亭志ん生
【落語豆知識】
【食い付き】中入り後最初の出番
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