日本男道記

ある日本男子の生き様

佐々木政談

2008年10月19日 | 私の好きな落語
【まくら】
江戸時代の「奉行」という職制はつまりは官僚で、寺社奉行、勘定奉行、作事奉行、普請奉行、小普請奉行、遠国奉行などの上位のものから、畳奉行や牢屋奉行など下位のものまで様々だったが、与力、同心を含む江戸町奉行組織ほど身近な職制は他にないだろう。なぜなら町奉行の管轄は、江戸の中でも全体の約一六%の町人地のみだったのである。町人専門のお役人ということだ。
江戸町奉行は数寄屋橋の南町奉行所と呉服橋の北町奉行所に分かれていた。両方とも開いているというわけではなく、一ヵ月交替で訴訟や請願を受け付け、その間もう片方の奉行所は門を閉じて中で書類を整理をしていた。奉行が自分で町を見回ることはほとんどなく、ふつうは同心が見回る役目である。裁判も与力がおこなっていた。町人に同情的なのは、実体を知っている与力だったのである。

出典:TBS落語研究会

【あらすじ】
嘉永年間に南の町奉行へ、佐々木信濃守と言う方が職につきましたが、調べのお上手な誠に活発な方で、賄賂、これはどうも甚だ良ろしくない風習であるから、こういう事は、絶対に止めさせたいがどうも、正面を切って賄賂(まいない)を取るなとも言えないから何か、意見をする様な事は無いかと、御非番の時には色々、姿を変えて町を見回ると言う。
今日も、田舎侍と言う出で立ちで小紋の短い羽織を召しまして、三蔵と言う伴を一人連れて役宅、只今あの朝日新聞の本社がございます、えー数奇屋橋御門口と申します、あれから銀座に出て来たんで、別に銀ブラをしようなんてぇ訳じゃ無いんでしょうが、あちらこちらと町の様子を見ながら歩いていると、子供が大勢ぞろぞろぞろぞろ、手習いの帰りと見えて、二人の子供が両手をこう結わいられて。縄を持った子供が手先と見えましてね。先へ棒を持った者が立って、「ほうほう寄れ寄れ。これこれ、邪魔だ邪魔だ寄れ寄れ」と、奉行ごっこが始まった。
四郎ちゃんが奉行でござを轢いてお調べに入った。立ち見している佐々木信濃守と同じ名前で始まったが、邪魔だとその本人を追い立ててしまう。お調べは頓知頓才で一件落着。子供達は明日も四郎ちゃんが奉行でまたやろね~と解散。見ていた佐々木信濃守は親、町役同道で南町奉行に出頭しろと三蔵に言いつけた。
この話を聞いた親の桶屋高田屋綱五郎はびっくり、家主太兵衛をはじめ、町内もひっくり返る様な騒ぎになった。
青い顔の親父を筆頭に全員白州の上に控えていると、佐々木信濃守が着座。みんなビクビクの中、お調べが始まった。四郎吉の遊びの中の裁きが良かったと褒めるが、そんなのは上から下を見ながらだから簡単だという。「これから奉行の言う事に答えられるか」「上下に座っていたのでは位負けするので、そこに並んで座れば答えられる」、許しが出たので並んで座る。
「夜になると星が出るが・・」
「昼にも出ているが、見えないだけだ」と、まずは一本取られる。
「その星の数が判るか?」
「このお白州の砂の数が判りますか?」、「何故」
「手に取れるものの数が判らないのに、手が届かない空の星の数など判らない」
また一本。
「しからば、天に昇って星の数を数えている間に、白州の砂の数を数えておくが、如何か」、「そんなの訳無しのコンコンチキ」、「訳無しのコンコンチキ?」
「初めて行くので、宿屋切手と案内人を付けてください」
またまた技あり。
褒美にと三方の上に饅頭を山積みして、食べても良いと差し出す。
「何かを買ってくれる母親と、小言をくれる父親とどちらが好きか?」
「こーやって、二つに割った饅頭、どちらが美味いと思いますか?」
「う~ん」、「これが頓知頓才」。
「四角くても三方とは?」
「一人でも与力と言うがごとし」。
「では、与力の身分は」
懐から起きあがり小法師を出して「これです」、「これとは?」
「身分は軽いが、御上のご威勢を笠に着てピンしゃんピンしゃんと立ちます。その上、腰の弱い者です」。与力は下を向いてイヤな顔をしている。
「それでは与力の心はどうか」
「天保銭を貸してください」その銭を、起きあがり小法師にくくりつけて放り出した。
「銭のある方に転がっている」。ひどいすっぱ抜きで、与力が驚いたり、怒ったり。
「座興で、嘘だ」と、座を納める。
綱五郎そちは幸せ者である。これだけの能力を桶屋で果てさせるのは惜しい。15才までそちに預けるが後は私が召し抱えて近従にさせると言う。出世の道が開けたという、佐々木政談でした。

出典: 落語の舞台を歩く

【オチ・サゲ】
いわゆる頓知話になっており、特に落ちはない。

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『祖師は日蓮に奪われ、大師は弘法に奪われ、名奉行は大岡越前守に奪われる』
(祖師(宗派の開祖のこと)はいろいろいるが、普通日蓮のことをいい、大師といえば同様にただちに弘法大師のことをさし、名奉行といえば大岡越前守)
『人は死して名を残し、虎は死んで皮を残す』

【語句豆辞典】
【佐々木信濃守】静岡藩生まれで佐々木顕発(あきのり)。非常にマイナーな奉行を主人公にしているので、詳しい経歴は判らない。佐々木信濃守は祿高 200石、嘉永5年(1852)より安政4年(1857)まで大阪東町奉行を5年間勤め、大阪から江戸に移り,作事奉行から北町奉行、西丸御留守居役から南町奉行に着いた。
【与力と同心】与力は徳川家の直臣で、同心はその配下の侍衆。

【この噺を得意とした落語家】
・三代目 三遊亭金馬
・六代目 三遊亭圓生
・三代目 古今亭志ん朝
・二代目 桂枝雀

【落語豆知識】
【一番太鼓】寄席で、開場の時に叩く太鼓。「ドンドンドンと来い」と聞こえるように叩く。

 




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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おもしろい。 (地理佐渡..)
2008-10-19 08:59:31
おはようございます。

初めて聞くものです。
実に面白いです。
これをしん朝さんが
語っているところを
想像すると..。
やぁ、落語は良いですねぇ。
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Re:おもしろい。 (日本男道記)
2008-10-19 09:35:09
お早うございます。

志ん朝の「佐々木政談」最高です。特に子役の台詞の言い回しは最高です。

閑話休題、阪神さんこのまま終わって欲しくないですね。
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おかげさまで.. (地理佐渡..)
2008-10-19 21:43:41
再度おじゃました。

勝ちました。嬉しいです。
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Re:おかげさまで (日本男道記)
2008-10-20 06:45:53
おはようございます。
昨夜は快勝でしたね。今日もこの勢いで!
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