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白神ブナ林食害の危機 迫るニホンジカ 警戒呼び掛け
2013年10月14日月曜日 河北新報
白神山地に近い青森県西目屋村の山林で撮影されたニホンジカ=9月6日午後3時20分ごろ(山形大の江成准教授提供)

青森、秋田両県にまたがる世界自然遺産・白神山地に、貴重なブナ林を食い荒らし、生態系に大きな影響を与える恐れのあるニホンジカが迫っている。
両県では明治時代に絶滅したとされるシカが近年、遺産地域周辺でも目撃されている。関係者は「侵入は時間の問題」と警戒を強める。
秋田市の東北森林管理局で7日開かれた白神山地世界遺産地域科学委員会の席上、中静透委員長=東北大大学院教授(森林生態学)=は「世界遺産地域にシカが近づいている」と警鐘を鳴らした。
環境省によると、目撃情報は青森県で2005年以降66件(うち13年は5件)、秋田県では09年以降26件(同3件)寄せられた。9月には、世界遺産地域の外側約10キロの青森県西目屋村の山林で、山形大農学部の江成広斗准教授(野生動物管理学)と、妻で農学博士のはるかさんが雄のシカ2頭を自動撮影カメラで捉えた。
科学委がシカ問題を議題にするのは3回目。侵入阻止は待ったなしの課題だ。7日はシカの生態に詳しい専門家を招き、意見を聞いた。
森林総合研究所東北支所(盛岡市)の堀野真一生物多様性研究グループ長は、男鹿半島に18世紀後半、2万7000頭のシカが生息していたという文献を紹介。「シカにとっては新天地開拓ではなく、分布を回復しているだけ。拡大は止められない」と指摘した。
北里大獣医学部の岡田あゆみ講師(野生動物学)のDNA分析では、青森、秋田両県で確認されたシカの大半は、岩手県にすむシカと遺伝子型が同じだった。岩手から広がっていることを意味し、「北東北3県で連携して対応すべきだ」と強調した。
科学委の委員で東北芸術工科大芸術学部の田口洋美教授(環境学)は「5、6年のうちに間違いなく白神山地に入ってくる。樹皮を食べられ、水が吸い上げられなくなれば、ブナは立ち枯れしてしまう」と危機感をあらわにした。 科学委は、監視態勢の強化や個体数のコントロールを図るべきだとの見解で一致。国と両県でつくる白神山地世界遺産地域連絡会議に、侵入阻止に向けた具体策を作るよう勧告する。