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本『リンゴが教えてくれたこと』

2009年06月23日 | 本と雑誌

090623bookリンゴが教えてくれたこと』google 木村 秋則著、日経プレミアシリーズ、850円(税別)

リンゴは農薬でつくるもの、と言われるほど
病害虫に弱いのだそうだ。

それを、農薬どころか、肥料も使わない、

常識破りの「自然栽培」に取り組んだ男の話。

「自分の歯より、リンゴの葉が大事だった」と冗談をいって屈託なくわらう木村さんは、
表紙の写真でわかるように歯がない。この本を買う決め手になった写真だ。(新書ばやりの出版界、表紙や帯に著者の写真が多くなった。ものをいうのは有名人や女性の著者ばかりではない。この著者の農作業の服装もものを言った)

木村さんの歯がないのは、リンゴができず田畑も手放し、喰えなくなって、アルバイトにキャバレーに勤めていたとき、ヤクザに殴られ、歯を失ったことが原因。

♪ 君の行く道は~果てしなく遠い~なのに、なぜ~歯をくいしばり♪

という歌をみなで歌っていた青春時代。
木村さんは、高校卒業後、勤めた川崎のメーカーを一年半で退社。
帰郷後、農業を始める。

農薬で健康を害し、無農薬 無肥料栽培を模索するのだが、10年近く無収入の苦難が待ち受けていた。
小学校の長女の作文に「お父さんの仕事はりんごつくりです。でも私はお父さんの作ったりんごを一つも食べたことがありません」
ずしんときた。
女房に「これを最後にもうやめよう」と言うと、長女は「じゃあ、今までなんで我慢してきたの」と女房は問い詰められたという。

出稼ぎ先での苦労が赤裸々に語られます。が、行間に、どこか一茶に通ずる信念のようなものが感じられる。

「あいつはバカだから付き合うな」村八分にあい、田畑も手放した。

近隣の農家のひとたちの浴びせる罵倒の言葉はつらいものがあったはずだが、
それほどのとげとげしさは感じられない。
それは、方言のせいばかりではないだろう。
それを書いている木村さんに自信もあったのだろう。
木村さんの熱意にキャバレーの女性たちも「お父さんがんばって」と
店のトイレ掃除の手伝いもするようになったという。

万策つきた木村さん、「死んでお詫びを」
と、岩木山に入る。

「この辺でいいだろう」と投げたロープが落ちた。
斜面を降りようと見上げたその時、
月光に浮かび上がるリンゴの木を見た。
輝くばかりの美しい木は、しかしリンゴではなく
ドングリの木だったのだが、
「こんな山の中でなぜ、農薬を使っていないのに、これほど葉をつけるのか」
あたりはなんともかぐわしい土のにおいに満ち溢れ、肩まである草をかきわけると、足元はふかふかとやわらく湿気があります。雨のせいではありません。クッションをしきつめたような感覚です」
「これが答えだ」と直感した。

小説にするとうそっぽくなりがちな場面ですが、死ぬ気で何かに取り組んだひとはわかる感覚なのだろうと思わせる。自然との対話なのだろう。

木村さんは、最終6章の「すべては観察から始る」のなかの、「植物の言葉はわからないけれど」の一節で次のように書いています。

「わたしは自然の山の姿を手本にしています。みんな独学です。というのは自然界には本に書いていないことがあまりに多いからです。」

木村さんは、図書館などの本をたくさん読まれたようですが

まあ、たしかに、インターネットなどで、簡単に机上の検索ばかりをやっていて、
自然界のことは、全て誰かによってとっくの昔に解き明かされているのだ、という感覚がとんでもない間違いなのだと思わされます。

木村さんが、「自然農法」といわずに「自然栽培」といっているのは、
抽象論によらず、現場での経済性を考えながら現実に応用可能な方法を重視しているからだろう。

実際の方法は、本を読んだり、著者の講演を聴いたり・・・。

しかし、なかなな哲学的なことも考えさせてくれるテーマでもあった。