孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

自らが解き放ったテロリズムに苦悩するオサマ・ビンラディン

2012-05-12 21:51:53 | 国際情勢

(“flickr”より By Ahmed1131 http://www.flickr.com/photos/ahmedwubail/6229191967/

死後1年 妻子は国外追放
国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者が米軍の作戦で昨年5月に殺害されて1年以上が経過します。

****ビンラディン容疑者の家族を国外追放 パキスタン****
パキスタン政府は27日、米軍の作戦で昨年5月に殺害された国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者の妻3人と子どもら計14人を、サウジアラビアに国外追放した。妻らは同日、同国に入った。地元メディアなどが報じた。

妻らは、不法滞在などの罪でパキスタンの裁判所から今月2日、禁錮刑と国外追放命令を言い渡されていた。既に刑期は終えている。妻のうち2人はサウジアラビア出身で、もう1人はイエメン出身。
妻と子どもらは、ビンラディン容疑者殺害の際に潜伏先にいたところをパキスタン当局に拘束され、監視下に置かれていた。【4月27日 朝日】
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妻の一人がビンラディン容疑者を裏切ったのではないか・・・と見る向きもあるようですが、実際のところはわかりません。

各地でテロを続けるアルカイダ関連組織
アルカイダ本体の活動は最近は低下しているように見えますが、世界各地でアルカイダとの連携を表明しているイスラム過激派によるテロ行為は後を絶ちません。

シリアの首都ダマスカス南部で10日朝、強力な爆弾2発が相次いで爆発し、内務省によると、通学中の子供を含む55人が死亡、372人が負傷しました。
このテロにアルカイダが関連しているとの指摘があります。また、反体制組織側は、アサド政権とアルカイダのつながりも指摘していますが、真相はわかりません。

****シリア、緊張拡大 情報機関ビル破壊****
・・・・ダマスカスでは、昨年12月23日に2カ所の治安機関前の爆発で計44人が死亡、今年1月、3月にも同様の事件でそれぞれ20人以上の死者が出ている。
自動車などを使った自爆テロの手法から米政府関係者らは、周辺アラブ諸国などから潜入したアルカイダ系のイスラム過激派が関与した可能性を指摘している。

シリア国民評議会など反体制派は一連の事件について「(治安の悪化を演出するための)政府による自作自演」との見方を示す一方、イスラム過激派の潜入については政府、反体制派とも認めている。イラクでは、2003年のフセイン政権崩壊後、スンニ、シーアの宗派対立にアルカイダが加わる形で内戦状態に陥った。シリアがイラクの「二の舞い」になる可能性も否定できない。【5月11日 朝日】
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ビンラディン容疑者が潜伏していたパキスタンでは、反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」によるテロが続いています。

****警察狙いテロ、20人死亡=10代少年の犯行か―パキスタン****
パキスタン北西部・部族地域バジョール地区で4日、警察の詰め所を狙った自爆テロがあり、地元メディアによれば警察幹部を含む少なくとも20人が死亡、42人が負傷した。周辺地域で活動する反政府武装勢力『パキスタン・タリバン運動(TTP)』が犯行声明を出した。

犯人は10代の少年とみられ、警察関係者が集まっていたところに走って近づき自爆した。バジョール地区では3日にも爆弾テロが2件発生し、TTPに反対する部族指導者ら5人が死亡。その後、警備体制が強化されていたという。【5月4日 時事】
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イラクでは、シーア派主導のマリキ政権の不安定化を狙った、アルカイダ関連のスンニ派武装組織によるシーア派住民を狙った同時多発テロが頻発しています。

****イラク:爆発テロ相次ぐ 少なくとも37人が死亡****
ロイター通信などによると、イラクのバグダッドや北部キルクークなど計5都市で19日、車に仕掛けた爆弾や自爆によるテロが相次ぎ、少なくとも37人が死亡、150人以上が負傷した。バグダッドではイスラム教シーア派が多く住む地域が狙われており、同時多発攻撃の可能性がある。【4月19日 毎日】
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アラビア半島のイエメンでは、政情混乱のなかでアルカイダ系組織が勢力を拡大していることが指摘されています。

*****イエメン南部で激しい戦闘、死者多数****
イエメン南部アビヤン州で9日未明、国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力が軍の兵舎を襲撃して激しい戦闘になり、少なくとも60人が死亡した。(中略)

イエメンの南部と東部では武装勢力が存在感を強めている。国防省とある部族長によれば、政府側は前週末にイエメン南部と東部のアルカイダ系武装勢力の拠点を空爆し、戦闘員24人を殺害している。【4月10日 AFP】
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実質的無政府状態が続くソマリアで大きな力を持つイスラム過激派組織アルシャバブもアルカイダ関連組織とされています。

****ソマリア国立劇場で女性による自爆攻撃、五輪委トップら4人死亡****
ソマリアの首都モガディシオの国立劇場で4日、爆発物を体に縛り付けた若い女性による自爆テロが起き、ソマリア五輪委員会の会長とソマリア・サッカー連盟の会長を含む4人が死亡した。(中略)

国際テロ組織アルカイダと関連のあるイスラム過激派組織アルシャバブが犯行声明を出した。2011年8月にモガディシオ市内の拠点を放棄したアルシャバブはゲリラ戦術に立ち戻り、モガディシオで自爆テロや手りゅう弾による攻撃を繰り返している。【4月5日 AFP】
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ナイジェリアでは、イスラム武装勢力「ボコ・ハラム」による教会や警察の施設を狙うテロが相次いでいます。
「ボコ・ハラム」については、“ニジェール、チャド、ナイジェリア等のサヘル諸国の政府は最近アルカイダとボコハラムが関係を緊密化させていると見ている”【1月27日 中東の窓 野口哲也氏 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/4088623.html】との指摘があります。

****ナイジェリアで爆弾テロ、38人死亡 ミサ中の教会****
ナイジェリア北部の都市カドゥナの教会近くで8日、車に積んだ爆弾が爆発し、少なくとも38人が死亡し、多数のけが人が出た。2台の車に仕掛けられていたとみられる。AP通信などが伝えた。

爆発当時、教会は復活祭のミサ中だった。死亡した多くは待機していたバイクタクシーの運転手らだという。爆風で近くのホテルの窓が割れたり、民家の屋根が吹き飛んだりした。

ナイジェリアでは、イスラム武装勢力「ボコ・ハラム」による教会や警察の施設を狙うテロが相次いでおり、2009年以降に1千人以上が犠牲になっている。昨年12月には、首都アブジャ近くで、クリスマスミサ中の教会が狙われ、44人が死亡した。【4月9日 朝日】
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民間人標的は「無知で神をも恐れぬ犯罪行為」】
ところで、こうしたアルカイダ関連イスラム過激派のテロ行為を批判する内容の、過激派関係者による文書があります。

パキスタン・タリバン運動(TTP)の手法と行動はイスラム法に反していと強く批判
イラクのアルカイダによるシーア派の民間人を標的とする爆破テロは「無知で神をも恐れぬ犯罪行為」と批判
ソマリアのアルシャバブには、極端な刑罰は回避するよう勧告、また、内戦が極端な貧困をもたらしていることを指摘し、経済開発に努めるよう促す
イエメンのアルカイダ関連組織に対し、「停戦」の可能性を探るよう促す

非常に穏当で、分別がある内容にも思えます。
この文書を書いたのは、あのアルカイダ指導者ウサマ・ビンラディンだというのですから、驚きです。

****ビンラディンの大いなる誤算*****
アルカイダ「アボタバード文書」が物語るテロリズムの狂気にはまった男の苦悩
国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが、パキスタン北部アボタバードの隠れ家で殺害されたのは昨年5月2日のこと。このとき米軍によって押収された文書が先週、公開された。

それによるとビンラディンは、「正しいこと」にこだわっていたようだ。人を殺すよりは人心をつかみたいと考え、人を殺すのは人心をつかむ手段と考えていた。テロリズムの道徳的・政治的失敗にも気付き始めていた。

例えばて昨年に害かれた44枚の書簡で、ビンラディンは一部のグループがイスラムの教理を曲解し、一般のイスラム教徒の殺害を正当化していることを厳しく叱責。こうした無差別殺戮のせいで、ジハード(イスラム聖戦)運動は一般市民から背を向けられたと非難している。

ビンラディンが特に問題視したのは、パキスタン・タリバン運動(TTP)だ。彼の意向を受けた側近がTTPの指導者に対し、「(TTPの)手法と行動」はイスラム法に反しており、「ジハード運動の崩壊」を招く恐れがあると警告している。

アボタバード文書は、イラクのアルカイダ関連組織がイスラム教シーア派の民間人を標的とする爆破テロを起こしたことも、「無知で神をも恐れぬ犯罪行為」と厳しく非難している(アルカイダは基本的にスンニ派)。

ビンラディンと側近は、狂信的な残虐行為にも懸念を示した。
イスラム法を厳格解釈するソマリアの反政府組織アルシャバブに対して、フンャリーア(イスラム法)を適用するときは、『疑わしきは罰せず』の原則を当てはめ、極端な刑罰は回避するよう勧告している。

ある側近は、「(アルカイダが)自分たちと考えの違うものには何でも反対する偏ったグループ、と見られるのを避けなければならない」と、現場の指揮官たちに呼び掛けている。「われわれはイスラムの教えに従うイスラム教徒であり……偏見を避けなくてはいけない」

分別を重視する発言もある。
ビンラディンはイエメンのアルカイダ関連組織に対し、「停戦」の可能性を探るよう促した。そうすれば国内が「安定化」するか、少なくとも「(アルカイダは)イスラム教徒の安全を図るために慎重に行動している」ことを示せるというのだ。

ソマリアについては、終わりなき内戦が極端な貧困をもたらしていることを指摘し、経済開発に努めるようアルシヤバブに促している。
また世界中の支持者に対し、イスラム系の政党と「対立する」のではなく、彼らにアルカイダの理念を教え、説得するよう呼び掛けている。

あれほど大勢の人間を殺した男がこんなことを書いていたとは。こんなことを書く男が、あれほど多くの殺人を指揮したとは、一体どういうことなのか。

唱える理念自体に欠陥が
アボタバード文書から分かるのは、ビンラディンが自分の解き放ったものを理解していなかったことだ。晩年になってようやく彼は、テロリズムがイスラムと、正義と、アルカイダに何をもたらすかを理解し始めた。
ビンラディンが始めた運動は、自らをむしばんでいたのだ。

それはテロリズムの不可避的な末路だ。信仰に関係なくほとんどの人は、子供や丸腰の人間を殺すのは重大な過ちだと思う。派閥抗争や戦争は嫌だし、抑圧的な政府の下で暮らしたいとは思わない。市場を爆破し、取るに足らない罪を犯した人の手を切り落とすグループを嫌う。

ビンラディンはこうした過ちを支持者のせいにした。自分か唱える理念を彼らが誤って解釈したのだと考えた。自分が唱えた理念自体に欠陥があるとは、決して思い至らなかった。

だが、ひとたびテロリズムを推し進め、聖典を都合よく解釈して正当化すれば、邪魔な人間を手当たり次第に殺すのを正当化するのは簡単だ。異教徒に対する戦争を宣言して、異教徒の定義を非イスラム教徒からシーア派に拡大するのもたやすい。

ビンラディンはこの狂気に深くはまり込み、はい出ることができなかった。だが彼が残した文書は、アルカイダとビンラディンの支持者全員に対する警告になる。神の名の下に民間人を殺せば、神と自分の価値観、そして人民を裏切ることになる。自分を破滅させることになる。
後戻りするなら、今だ。ウィリアム・サレタン(ジャーナリスト)【5月16日号 Newsweek日本版】
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