
(昨年8月19日 スー・チーさんと会談したテイン・セイン大統領 急速な民主化の進展を牽引してきた大統領の健康状態が懸念されています。 “flickr”より By freeyouth99 http://www.flickr.com/photos/68877352@N08/6257935168/)
【心臓発作か、疲労か?】
ミャンマーでは、長年自宅軟禁が続いていた民主化運動指導者スー・チーさんの国政参加に代表される民主化の過程にありますが、保守派の抵抗もあるなかで、誰も予想しなかったこれほど急速な“民主化”の流れを牽引してきたのは政権トップのテイン・セイン大統領だと言えます。
そのテイン・セイン大統領が心臓の発作で倒れたというニュースが報じられています。
かねてより健康問題を抱えていると言われていただけに、その容態、もし政務が困難になった場合の“民主化”への影響が心配されます。
****ミャンマー大統領が心臓発作で入院 民主化と変革 停滞の恐れ****
ミャンマー政府筋によると、テイン・セイン大統領(67)が17日朝、心臓発作のため倒れ、首都ネピドーの病院に搬送された。ミャンマーの民主化と変革の行方は、テイン・セイン大統領の健康状態にもかかっており、容体が懸念されている。
詳しい容体は不明。政府筋はペースメーカーが十分に機能せず、一時、意識を失ったとしている。このため午前中の閣議を開催できなかった。容体次第ではシンガポールの病院に搬送される可能性もあるという。
大統領は昨年3月の就任以前から心臓を患い、ペースメーカーを使用している。就任に消極的だったとされるのも、健康状態が理由だった。検診と治療のため時折、シンガポールを訪れてもいる。
大統領顧問のココ・フライン氏は、テイン・セイン大統領は2015年の総選挙に出馬せず、1期(5年)で職を辞するとしている。大統領は連邦議会で選出されるが、次期大統領候補の筆頭にあげられるのが、国民代表院(下院)議長のトラ・シュエ・マン氏。ただ、テイン・セイン大統領の健康が悪化し、職務をまっとうできなくなった場合、後継をめぐり混乱する可能性がある。
保守・強硬派の代表格、ティハ・トゥラ・ティン・アウン・ミン・ウー副大統領はすでに辞表を提出しており、副大統領の後任を選ぶ臨時議会が、今月末にも招集されるとみられる。
副大統領の後任候補としても、トラ・シュエ・マン氏の名前が浮上するが、テイン・セイン大統領と距離を置いているとされ、民主化と変革にどこまで取り組むかは不透明だ。
同氏が副大統領職に就いた場合、大統領は下院議長の後任に、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首を起用する意向もあったとされる。
大統領の健康悪化に伴い、人事をめぐる対立が広がり、民主化と変革が停滞する恐れがある。【5月18日 産経】
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大統領周辺は「疲労がたまっただけ」と、事態の鎮静化を図っています。
政情の混乱に繋がりかねない政治家の健康問題が秘密にされたり、逆に誇張されたりというのは、ミャンマーに限らずどこの国でも同じですが、ミャンマー民主化の置かれている状況を考えると、軽い症状であって欲しいと願うばかりです。
****ミャンマー:テインセイン大統領「疲労で安静」****
米政府系放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)は17日、ミャンマーのテインセイン大統領(67)が最大都市ヤンゴンの自宅でめまいを訴えて倒れた、と報じた。
一部で心臓発作で入院中との情報も流れたが、大統領顧問の一人は18日、毎日新聞の取材に「疲労がたまっただけで、現在は自宅で安静にしている」と否定した。
大統領は以前から心臓疾患を抱え、ペースメーカーを使用している。【5月18日 毎日】
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【人事刷新の動き “スー・チー議長”案も】
次期大統領を狙っているとされ、副大統領の後任としても名前があがっている国民代表院(下院)議長のトラ・シュエ・マン氏は、軍事政権時代は陸海空統合参謀長としてタンシュエ議長を支える立場にあり、序列的にはテイン・セイン大統領よりも上にいた人物です。
トラ・シュエ・マン下院議長は、大統領とは対立することも多かったとも言われていますが、民主化に対する姿勢・考え方がどのようなものなのかはわかりません。
昨年10月、ノルウェー外務副大臣との会談で、「政治犯釈放は近い時期に行う。スー・チー女史も現政府と協力できる機会もあると思われる。そのときは喜んで迎えたい」と語っています。【ミャンマーデイリーニュース 11年10月11日より】
また、昨年11月、補欠選挙で(スー・チーさんが率いる)NLDのメンバーが国家議員になったら政府の方針は変わるかとの問いに、次のように答えています。
「NLDのメンバーが国会議員になれば我々は歓迎します。しかし政府の方針は変わらない。NLDのメンバーが入ればよりよい仕事が出来ると思います」【ミャンマーデイリーニュース 11年11月29日より】
すでに辞表を提出している保守・強硬派の代表格、ミン・ウー副大統領に併せて、保守・強硬派の閣僚を入れ替えるテイン・セイン大統領の意向も報じられています。
健康問題次第では、そのあたりの人事にも影響してきます。
“トラ・シュエ・マン下院議長が副大統領職に就いた場合、大統領は下院議長の後任に、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首を起用する意向もあった”ということですが、スー・チーさんは、政権運営に入ることなく、一議員として政府の行動を監視したいとしているとのことです。
ただ、“スー・チー議長”というのも、興味をそそられる構想ですし、スー・チーさんが指導力を発揮するうえでも悪くないかも・・・という感もします。
【アメリカ 経済制裁緩和】
そのスー・チーさんは、欧米諸国による経済制裁解除については、早急な解除は政権側に誤ったシグナルを与えるとして慎重な姿勢を見せてきましたが、一時停止には賛成の意向を明らかにしています。
****ミャンマー制裁停止に賛成=ただし慎重対応を―スー・チー氏****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏は15日、ワシントン市内で開催されたイベントにヤンゴンからビデオ会議形式で参加し、対ミャンマー制裁の一時停止には賛成すると述べた。
AFP通信によると、スー・チーさんは制裁を全面解除ではなく、一時停止にすることで、民主化プロセス継続を促す強力なメッセージになると指摘。「米国の人々が正しい措置だと思うなら、制裁停止に反対しないが、慎重さを求めたい」と述べた。【5月16日 時事】
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アメリカ・オバマ大統領は17日、今月20日に制裁期限が切れるのを受け、ミャンマーの民主化や人権状況に依然懸念があるとして、制裁の1年延長を決めて議会に通告しました。
こうして制裁の枠組みは維持する一方で、ミャンマー外相と会談したクリントン国務長官は17日、経済制裁の一時停止など制裁緩和措置を発表しています。
****ミャンマー経済制裁を停止=新大使にミッチェル特別代表―米****
クリントン米国務長官は17日、ミャンマーの民主化努力を評価し、同国への投資禁止などの経済制裁を停止すると発表した。
米国を初めて公式訪問したミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相と会談後、国務省での共同記者会見で明らかにした。
また、オバマ大統領も声明を出し、米・ミャンマー関係における「新たな一章の始まり」と歓迎。1990年に外交関係を格下げして以降、空席になっていた駐ミャンマー大使にミッチェル・ミャンマー担当特別代表・政策調整官を指名したと述べた。
制裁が停止されるのは、米企業・個人による新規投資と金融サービスの提供で、武器禁輸は継続される。また、改革を妨害する勢力や、少数民族地域などでの人権侵害に関与する人物が制裁停止の恩恵を受けないよう、米政府は特定の団体・個人に標的を絞った制裁を科す方針だ。【5月18日 時事】
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話は最初に戻りますが、こうした“民主化”“制裁解除”の流れが加速するなかで、テイン・セイン大統領の健康状態が気がかりです。