(モスクワ プーチン大統領就任式翌日の5月8日夜、デモ封じ込めのため道路を封鎖する警官 “flickr”より By somiz http://www.flickr.com/photos/43257267@N08/7162797828/ )
【支持基盤の再編成】
プーチン大統領が復帰したロシアでは、昨年12月の下院選挙で惨敗したうえに不正疑惑も根強い与党「統一ロシア」の党首が、プーチン大統領からメドベージェフ首相に委ねられています。
利用価値が低下し、厄介者にもなりつつある同党をメドベージェフ首相に押し付けた様な感もあって、両者の力関係が窺えます。
****ロシア:与党「統一ロシア」新党首にメドベージェフ首相****
ロシアの政権与党「統一ロシア」は26日の党大会でメドベージェフ首相を新党首に選出した。プーチン大統領の党首辞任に伴うもので、プーチン氏は国民の批判が強い党を首相に委ねる一方、自らの支持基盤を超党派組織「全ロシア国民戦線」へ移す狙いとみられ、今後の政界流動化につながる可能性も出ている。
メドベージェフ首相は内部刷新に取り組む意欲を表明、16年の下院選で過半数を維持する決意を強調した。
プーチン氏は08年5月から党首を務めてきたが、昨年12月の下院選の際、同党の官僚的な体質や汚職の広がりを批判され、77議席を減らす「惨敗」を喫した。
カーネギー国際平和財団モスクワセンターのシェフツォワ上級研究員は「プーチン氏は自分の支持率に影響を与えるとみて、党と距離を取りたがっている」と指摘する。
プーチン氏は18日、支持者の兵器工場の現場監督の男性を、ウラル連邦管区の大統領全権代表に指名。政治家や高級官僚が就く職で、一般市民からの抜てきを演出すると同時に「国民戦線」に重きを置く狙いとみられる。
またプーチン氏を支持する青年団体「ナーシ」の創設者ヤケメンコ氏は21日、新政党発足を目指す考えを表明。こうした動きはプーチン政権が統一ロシア以外の支持基盤の受け皿作りを検討している表れとみられている。【5月26日 毎日】
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よくわかりませんが、“兵器工場の現場監督の男性を、ウラル連邦管区の大統領全権代表に指名”というのも凄い抜擢です。
プーチン大統領の絶対的な指導力の表れでしょう。
【“強い指導者”の「アジア重視」で、日本にも機会が】
21日発足した新内閣では、「アジア重視」を掲げるプーチン大統領の意向を強く反映して、極東発展担当相が新設されています。
“プーチン大統領は9月にウラジオストクで主催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を極東シベリアの発展につなげる戦略で、担当相には極東連邦管区のイシャエフ大統領全権代表(元ハバロフスク地方知事)を兼任させた。
極東発展省は極東地方に設置されるとみられ、実現すれば首都モスクワ以外で初の連邦政府省庁となる。同省がロシア本土だけでなく、北方領土(ロシア名・南クリル諸島)の開発を推進していく可能性もある。”【5月22日 毎日】
極東シベリアの開発となれば、日本への協力依頼もあるでしょうし、北方領土開発となれば当然に日本との関係が焦点になります。
そうした状況で、周囲の反対をトップダウンで封じることができる“強い指導者”の存在は、停滞している北方領土問題を動かしていくうえでは、日本にとって大きな機会にもなりうるところです。
もちろん、話はそうスムーズにはいかないでしょうが、互いの譲歩を前提にして交渉にあたれば、チャンスであるのは間違いないでしょう。
問題は、とかく強硬論・原則論が幅を利かせがちな世論にあって、「引き分け」を国民に納得させられるか、日本側の政治指導力かもしれません。
【代わり映えしない布陣 KGB出身者留任】
プーチン新体制の全体的イメージは、これまでのプーチン側近がそのまま大統領府に横滑りしたようで、今後の改革・刷新を連想させるものではありません。
****プーチン新政権 居座る側近 偽りの刷新 汚職撲滅、経済改革望み薄****
ロシアのプーチン新政権の陣容をめぐって、大幅な政治改革や経済改革は望めないとの見方が出ている。
プーチン大統領はこれまでに内閣の閣僚人事に続き、外交・国防面を担うクレムリン(大統領府)スタッフを任命したが、保守派や「シロビキ」(軍・治安機関出身者)が要職に居座ったまま。汚職撲滅や開かれた政治を求める市民らが反プーチンデモを続ける中、「大幅な刷新」(メドベージェフ首相)も掛け声だけに終わった。
プーチン氏は21日、クレムリンで内閣の布陣を発表。緊張した面持ちの閣僚たちの前で、「国際的な経済状況が不透明な中で、ロシアの発展を推し進める計画を実行に移さなくてはいけない」と指示した。
前政権で国民から不満の声が高かった保健相らの閣僚を交代するなど5分の3強のポストが代わったが、シュワロフ第1副首相、ラブロフ外相、セルジュコフ国防相ら主要閣僚は留任。大統領補佐官らの人事でも、プーチン氏が首相から大統領に異動するのに伴い、側近たちもクレムリンに横滑りさせており、「政府のコピー組織にすぎない」と揶揄(やゆ)されている。
代わり映えしない布陣だけに、プーチン氏の政権運営や長期発展計画は維持されるとの見方が支配的で、投資環境の激変を嫌う市場は、株価が値上がりするなど好感触を示してはいる。
しかし、石油・天然ガス産業を仲間内だけで牛耳り、汚職の温床とも批判されてきた旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者らのシロビキや、「私はリベラルではない」と主張し、反政権デモを続ける市民と距離を置く保守派のスルコフ副首相は、そのまま主要ポストに居座っている。
さらに、対米強硬派とされるウシャコフ元駐米大使を大統領補佐官に起用し、外交・安全保障面を担わせる。欧州ミサイル防衛問題やイラン・シリア情勢をめぐって、強硬姿勢を貫くロシアと欧米の摩擦は改善されない可能性が高い。
プーチン氏に忠実な側近らが中枢で権力を握る新政権の布陣について、専門家からは「本格的な改革には力不足」「経済のリベラル化を目指すメドベージェフ首相の推進力は限られたものになる」との声が出ている。
来月にも首都モスクワで大規模な抗議デモが予定されており、プーチン新政権がどのような対応を取るか注目される。【5月24日 産経】
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【再燃した反プーチンデモ 規制強化の動きも】
一時下火となっていた反プーチンの抗議デモは、大統領就任式前日の6日にも2万人規模で行われ、参加者の一部と警官隊が衝突、野党指導者ら400人以上が拘束されています。
翌週13日にも、モスクワで1万人規模(警察発表では2千人程度)の反プーチンデモが行われました。
プーチン政権を礼賛する国営テレビに対し、こうした反政府デモを生中継する独立系民間テレビ局も人気を集めているそうです。
****ロシア:反政府デモを生中継、独立系民間TV局が旋風*****
政府が主要テレビをコントロールするロシアで、2年前にできた独立系の民間テレビ局「ドーシチ」(ロシア語で「雨」の意味)が旋風を巻き起こしている。昨年12月の下院選不正疑惑をきっかけに広がった反政府デモを初めて「完全生中継」するなど独自報道を展開し、プーチン政権を礼賛する国営テレビに飽き足りない市民の支持を広げているようだ。
「私たちのモットーは公正な報道。ロシアで大規模な反政府デモはこれまでなかった現象で、起きていることをすべて見せようと考えた」。ドーシチのマリヤ・マケーエワ編集局次長(37)は、昨年12月にモスクワでのデモを初めから終わりまで中継した狙いを説明した。国営テレビは当初、デモを無視したが、ドーシチの報道で反響が社会に広がり、ニュースで取り上げざるをえなくなった。
5月7日に行われたプーチン大統領の就任式では、国営テレビ各局が式典の一部始終を全国中継したのに対し、ドーシチは画面を3分割し、式典のほか、モスクワで続いている「反プーチン」デモや厳重警備で車が排除された大通りを同時に映し出した。マケーエワ局次長は「我々の仕事はジャーナリズムであり、政府のプロパガンダではない」と指摘。プーチン大統領の行動を連日報じる国営メディアとの違いをアピールした。
10年4月に開局したドーシチは、ラジオ局なども経営する女性実業家のナタリヤ・シンデーエワさん(40)=社長=が約1000万ドルを個人出資して設立した。モスクワの本社は政治の中心クレムリンのすぐ近くで、ソ連時代に建てられた元チョコレート工場内にある。社員は約350人で、平均年齢は26歳と若い。メディア経験者もいるが、国営テレビ出身者の採用は避けているという。
ニュース中心の番組は衛星放送とケーブルテレビで24時間放映される。視聴者数は開局当初の20万人から、現在は約400万人に増えた。番組はインターネットでも無料配信している。
昨年4月には当時のメドベージェフ大統領がドーシチの本社を見学に訪れた。IT(情報技術)好きのメドベージェフ氏は新興テレビに関心を示し、自身のツイッターでドーシチをフォローしていた。だが、反政府デモの報道後、ドーシチをフォローのリストから外したことが判明、ネットユーザーの失笑を買った。
権力にこびない報道姿勢で視聴者の信頼を獲得する一方、経営はまだ軌道に乗っておらず、赤字が続いている。人員や機材も大手テレビ局と比べて十分ではない。取材クルーを組む余裕がなく、現場では記者1人がビデオカメラと携帯電話を駆使して取材から撮影、中継を行っている。
また、ロシアで独立系メディアの最大の懸念は権力との関係だ。プーチン大統領1期目の00年、反政権報道で知られた民間テレビ局「NTV」が政府の圧力で国営企業の経営傘下に入った。メディア支配を進めたプーチン氏の大統領復帰で、ドーシチがNTVの「二の舞い」になることを憂慮する声もある。
マケーエワ局次長は「(政権からの)圧力は時々ある」と認めた。今年2月には政権与党「統一ロシア」の下院議員が「反政府デモ中継費の出所が不透明だ」と検察に照会(実際は同社が負担)。デモ取材中の記者が治安当局に拘束されたり、サイトがサイバー攻撃を受けたこともあるという。
マケーエワ局次長は「我が社は社長1人が株主で、資金面で権力から独立している。ただ、今後さらなる投資が必要で、投資家を通じて影響を与えようとする動きがあるかもしれない」と話した。【5月23日 毎日】
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ただ、政権側もおさまらない抗議行動に対し圧力を強める動きをみせています。
****ロシア下院:デモ規制強化を審議 「反プーチン」収まらず****
ロシア下院は、プーチン大統領が7日に就任した後も抗議運動が収まらない状況を受け、デモ規制を強化する法案の審議を始めた。18日にも1回目の採決をする。罰金の大幅な引き上げが柱だが、17日にも警官隊とデモ隊との激しい衝突があり、政権が「反プーチン」の波を封じ込められるのかは見通せない。
相次ぐデモを受け、与党「統一ロシア」が下院に抗議活動規制の改正法案を提出。これまで1000ルーブル(約2600円)にとどまっていた参加者への罰金を最大100万ルーブル(約260万円)へ引き上げるほか、逮捕歴のある政治家が集会を主催したり、参加者がマスクをつけることを禁じるなど、規制を大幅に強化した。
改正案は15日に審議入り。下院は通常、法案成立まで3回採決する。政権側は次回の大規模集会が予定されている6月12日までに成立させたい方針。野党は「国民が抗議集会へ参加できなくなる」(公正ロシアのドミトリー・グトコフ下院議員)と反対しているが、統一ロシアが過半数を占め、成立する見通しだ【5月17日 毎日】
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“法案成立まで3回採決”ということで、現在の状況がわかりませんが、改正法案が成立すれば相当に威力を発揮しそうです。ただ、その分、反政府勢力との軋轢を強め、不満を先鋭化させることも考えられ、プーチン大統領が“強い指導者”として任期を全うできるかは、今後の情勢を見守る必要もありそうです。