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(ギリシャの港湾都市パトラ 当局によって撤去された不法移民居住地から毛布などを拾い出す不法移民 彼らの多くはアフガニスタンからで、イタリア行きのフェリーに忍びこめる機会を窺っていると言われています。
しかし、仮にイタリアに行けても、職も食べ物もないのはギリシャと同じです。あるのは更に厳しい不法移民取り締まりだけです。“flickr”より By MORTEZA26 http://www.flickr.com/photos/50396650@N05/4629027140/)
【現実の問題となったユーロ離脱】
再選挙となったギリシャでは、“ユーロ離脱”が現実的問題となってきたことを受けて、世論もこれまでの財政緊縮策反対一辺倒から、ユーロ離脱を不安視する慎重論も増加し、両者拮抗した状態となっているようです。
****ギリシャ再選挙:ユーロ離脱に不安…世論調査****
ギリシャ再選挙(6月17日投開票)の序盤戦は、財政緊縮策を巡って、先の総選挙で第2党となった反対派の急進左派連合の支持率が高止まりし、第1党で推進派の中道右派・新民主主義党が勢いを持ち直す互角の戦いになっている。ユーロ圏離脱への不安から、反対派離れも起きており、1カ月間の選挙戦は「ミスを犯した側が負ける」(政治アナリスト)緊迫した情勢が続きそうだ。
再選挙公示の19日前後に地元メディア・調査機関が伝えた各世論調査では、6日実施の総選挙終盤戦から選挙後にかけて支持率を急増させた急進左派は、再選挙が確定したころから伸びが鈍った。代わりに、旧与党の新民主に、離れた支持者の一部が戻る傾向が表れている。
公表された7種類の世論調査で最も高い支持率を得た党は、急進左派が3調査、新民主が4調査と真っ二つに分かれた。1位と2位は多くが約1〜3ポイント差の大接戦だ。【5月24日 毎日】
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【ネオナチ極右政党の台頭】
先の総選挙では緊縮策反対派の急進左派連合が第2党に躍進して、再選挙で政権獲得に至るかどうかが注目されている訳ですが、前回総選挙では移民排斥を掲げる極右政党「黄金の夜明け」が7%の得票率で、初の議席(21議席)を獲得したことも注目されました。
“同党は93年設立。ナチス・ドイツの総統ヒトラーの思想の影響を受け、ギリシャ人の人種的優位を信じる「ネオナチ」団体だ。全国に約1万2000人の党員がいるとされる。
ミハロリアコス党首(55)は、債務危機に陥ったギリシャを支援した欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)を「国際的な金貸し」と切り捨て、同国が受け入れた緊縮策の破棄を主張。ユーロ圏を離脱し、ユーロ導入前のギリシャ通貨「ドラクマ」の復活、銀行国有化などを叫んでいる”【5月1日 時事】
総選挙の勝利会見の際には、報道陣に党首への敬意を表して起立するよう求め、反論した記者に退場を促したり、17日の初議会では、ミハロリアコス党首を先頭に軍隊行進のような立ち居振る舞いで議場に入ったなど、摩擦を起こしています。
また、同党支持者による移民排斥の暴力事件も起きています。
****ギリシャ:暴力事件が相次ぐ****
総選挙のやり直しで国内対立が激化しているギリシャで、暴力事件が相次いでいる。西部の港町パトラで22日、6日の総選挙で初めて国会に議席を獲得した極右政党「黄金の夜明け」の支持者ら約300人と警官隊が衝突し、双方で計15人が負傷、5人が逮捕された。
衝突は先週末、30歳のギリシャ人男性が、アフガニスタンからの移民3人組にナイフで襲われて死亡した事件がきっかけとなった。不法移民による治安悪化に苦しむ住民と、移民排斥を強硬に主張する同党支持者らが、アフガン移民が住みついている地元の古い倉庫跡に、集団で抗議に押し掛けた。覆面姿でギリシャ国旗を振りながら叫ぶ若者らが投石や放火を始め、警官隊も催涙ガス弾で対抗する騒動となった。
一方、先の総選挙で議席に届かなかった右派小党・国民正統派運動の候補者が23日、見知らぬ男たちに襲撃された。けがはなかった。候補者は同日朝、財政緊縮策推進を呼び掛ける新民主主義党に移籍すると発表したばかり。犯人たちは「移籍にいくら支払われたのか知ってるぞ」と言って殴りかかったという。【5月24日 毎日】
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【「これは我が国だけではなくて欧州全体の問題だ」】
こうした極右政党の台頭、社会不安の増大の背景には、アジア・アフリカから“欧州の玄関”ギリシャに大量の不法移民が押し寄せている現実があります。
****ギリシャへ押し寄せる不法移民 アジアからアフリカから****
2大政党が過半数割れの歴史的大敗を喫し、排外主義的な極右政党が躍進したギリシャの総選挙。その一因となったのは、欧州の一角であるギリシャに向けて押し寄せる大量の不法移民の存在である。
■経済危機でも「先進国」
ギリシャ北東部、トルコとの国境の町オレスティアダのはずれ。7、8人の男が立ちつくしていた。
片言の英語を話すリーダー格は「ユーセフ。31歳」と名乗った。バングラデシュ・ダッカ出身。アラブ首長国連邦のドバイまで空路。その後、オマーンを経て、イラン、トルコと陸路で来たという。この日午前4時ごろ、トルコとの国境を歩いて越えた。
レジ袋に着替えを入れて持っている者が少しいるが、多くは手荷物もない。所持金は1人50ユーロほど。「アテネに行く。仕事を探す」。胸に両手を当て、顔いっぱいに笑顔を広げた。
国境近くの村でカフェを営むユアニス・パルシスさん(75)は言った。
「毎朝やって来るよ。川を渡っているからみんなびしょぬれで疲れ切っていて。かわいそうなものだ」
移民を見かけることが増えたのはここ2、3年だという。「戦争のせいだろう。パキスタンやソマリアなどの人が多いようだ」
当局にとってはもちろん、頭の痛い問題だ。
ギリシャ国家警察の広報担当は「アフリカ、南アジア、中近東。三つの地域からの移民が、海から陸から押し寄せてくる。これは我が国だけではなくて欧州全体の問題だ」と話す。
昨年ギリシャで拘束された不法移民は約10万人。国籍は111に上った。5万5千人いる警官のうち1万5千人が不法移民対策に専従するが、流入は1日に100~300人とされる。
トルコとの国境は約230キロ。ギリシャ紙によると、昨年10~12月に欧州全域に入ってきた不法移民3万人のうち、75%はここを越えてきた人々。国境線の大半は海や川で隔てられているが、粗末なゴムボートで渡ってくる者が絶えない。海での取り締まりを強化したら、オレスティアダ近くに約12キロの距離だけある陸続きの場所を歩いてくる移民が激増した。
欧州の政府債務危機の震源地であるギリシャだが、移民にとっては豊かな「先進国」であり、欧州の玄関だ。警察当局によると、70万人の不法移民と100万人の外国人住民が暮らす。人口の2割近くにあたる。
■極右台頭、襲撃事件も
「国境に地雷を埋め、不法移民が入ってこられないようにする。トルコ系住民にも母国に帰ってもらう」
アテネ郊外。スキンヘッドの男性が語気を強めると、支持者は叫んだ。
「ギリシャはギリシャ人のものだ!」
極右政党「黄金の夜明け」のゲルメニス氏(34)は「やっと国民が目覚め、私たちの主張を現実の問題と認識するようになった」と話す。「アレクサンドロス大王を生んだ、偉大な古代ギリシャの誇りを取り戻せるのは我々だけだ」
同党は総選挙で21議席を得た。「仕事を奪い、犯罪が増える」として移民排斥を唱え、「ギリシャ人のため」と貧困層対象の食糧配給などに力を入れた。支持層は、移民が多く住む都市郊外の住民。約10%の票を得た選挙区もある。
同党が勢力を広げる裏で不穏な事態も起きている。
地元記者によると、同党のメンバーを名乗る男たちが、造船工場の経営者に外国人労働者を解雇してギリシャ人を雇うよう求め、拒否されるとその工場の外国人労働者を襲撃する事件などが起きているという。
移民の収容施設の建設を巡って、予定地周辺で治安悪化を心配した反対運動も生じる。「福祉予算が削られる中で、移民に多額の税金を費やすことには、国民の合意が得られない」と国家警察の広報担当は話す。
収容施設が不足しているため、不法移民たちは取り調べを受けた後、国外退去を命じられて施設から出される。だが、多くはそのまま欧州にとどまる。
トルコ国境地帯では、ギリシャ警察の車両とともに緑色の車両が巡回していた。各国の国境警備の連携を深めるため、欧州連合(EU)の機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)が派遣した他国の警官だ。国境警備はEU頼みになりつつある。
「シェンゲン協定に加盟すれば、いまギリシャが苦労しているのと同じ問題に必ず向き合わなければならない」とルーマニアから派遣されたミハラケさん(32)は語った。
国境は、通貨とともに国の独立を示す存在だ。だが欧州の内側で、もはやそれは半ば溶けている。
もしギリシャがシェンゲン協定やユーロから脱退すれば、不法移民は大幅に減るだろう。しかし、それは、ギリシャが欧州から追い出され、移民を送り出す側となることにほかならない。【5月23日 朝日】
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ギリシャの人口は約1100万人ですから、“70万人の不法移民と100万人の外国人住民”というのは膨大な数です。
移民の急増が、経済的・文化的摩擦や治安悪化の問題を引き起こすことは事実です。
ただ、豊かさを求める人々に対し、先に豊かになった国が門戸を閉ざしたり、排斥することが“あるべき姿”か・・・と言えば、そうでもないように思えます。
日本の場合には、将来的人口減少・高齢化社会に対応する社会活力維持という問題も絡みます。
暴力的対応は許されないことは言うまでもないですが、ギリシャだけでなく欧州全体で、移民問題全体への賢明な対策が求められています。受入れ側の叡智と良識、そして品格も問われる問題です。