![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/b2/c070f3dc5d5ef1f52c4b1595b5f213db.jpg?random=951a8cfcb1bcd991f01e827b9e5b8975)
(黄海では、昨年12月12日、韓国排他的経済水域(EEZ)で韓国海洋警察の係官が違法操業中の中国漁船員にガラス片で切り付けられ、1人が死亡、1人が負傷する事件もありました。“flixkr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6498220923/)
もちろん韓国国内では中国への激しい抗議行動はありましたが、激高しやすい対日関係に比べると、随分と穏やかにすんだ感もします。 本論とは関係ありませんが、このあたりが日本からすると不可解なところでもあります。)
【南シナ海では中比両国が禁漁措置】
南シナ海のスカボロー礁近海での中国とフィリピンの艦船による“にらみ合い”は、相変わらず続いていますが、両国が同海域での“禁漁措置”を発表する形で、とりあえずの休戦に持ち込まれる動きも出ています。
****フィリピンと中国、それぞれ南シナ海に禁漁令 にらみ合い解消へ布石か****
フィリピンは16日、中国と領有権を争っている南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)近海域について、2か月間の禁漁措置を発表した。これに先だって中国も、同日から8月1日まで同海域を含めた南シナ海の広域を禁漁とすると発表しているが、フィリピン政府は中国側の禁漁措置は無効だと主張している。
スカボロー礁近海では、前月10日に中国漁船を拿捕しようとしたフィリピン船舶を中国の監視船が妨害して以降、両国の船舶がにらみ合いを続けている。フィリピン当局によると現在、同海域には中国の監視船2隻と漁船10隻、フィリピン艦船2隻と漁船1隻がいる。
フィリピン漁業水産資源局(BFAR)は、禁漁措置は同海域で漁を行う漁船が多すぎるとの報告に基づくものだと説明した。
一方の中国側も、水産資源の乱獲を禁漁の理由としているが、専門家らは両国の禁漁令について対面を保ちつつ問題海域から船舶を引き上げるためのものと分析している。
禁漁措置の発表に先立ってフィリピンのベニグノ・アキノ大統領は、中国の禁漁措置に従う義務はフィリピンにはなく、自国の規定にのみ従うと表明していた。
フィリピン海軍の海図によれば、スカボロー礁はフィリピン・ルソン島から約230キロ沖合にあり、一方の中国本土からは約1200キロ離れている。フィリピン政府はスカボロー礁を自国の排他的経済水域(EEZ)内だと主張しているが、中国はスカボロー礁や他アジア諸国の近海を含む南シナ海の大部分の領有権を主張している。【5月17日 AFP】
************************
相手側の“禁漁措置”を根拠のないものと批判するのは当然で、中国の禁漁措置にはフィリピンだけでなくベトナムも抗議の意を表明しています。
そうした表向きの対応は別にして、お互いが艦船を引く結果になれば、それはそれで・・・といったところですが、逆に中国が監視船を増派しているとの報道もあり、どういうふうに決着するのかよくわかりません。
****「中国が監視船増派」=南シナ海問題で比が抗議****
南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領有権をめぐり、中国とフィリピンの船舶がにらみ合いを続けている問題で、フィリピン外務省は23日、中国がスカボロー礁周辺に監視船を増派したとして抗議した。
フィリピン外務省は声明で、スカボロー礁周辺の中国海洋監視船が21日夜の時点で5隻に増え、中国漁船16隻も確認されたと指摘した。これまで中国監視船は3隻だった。【5月23日 時事】
************************
【フィリピンを支援しつつも深い入りは避けたいアメリカ】
戦闘機も、ミサイル搭載の艦艇も持たないフィリピンの後ろ盾はアメリカです。
****比、権益維持へ米に接近****
4月22日、南シナ海に面するフィリピン・パラワン島で行われた米比合同軍事演習の記者会見。「南シナ海は米比相互防衛条約の範囲内なのか」との質問に対し、フィリピン国軍のサバン西部方面軍司令官は「条約に基づき両国は、どちらかが侵略されれば対応する」と述べ、南シナ海で有事の際には米軍が関与するとの見方を示した。横に並んだ米海兵隊のティーセン中将も「司令官の見解は正しい」とうなずいた。
30日にはワシントンで両国の外務、国防担当閣僚による初の「2+2」会談があった。パネッタ米国防長官は、南シナ海を監視する米国の偵察衛星の情報を24時間態勢でフィリピン側に提供すると約束した。
極東最大の米軍基地だったクラーク、スービック両基地を1991年に返還させたフィリピンは、昨年3月に南シナ海のリード礁で自国の資源探査船が中国軍艦に妨害された事件を機に、軍事面で米国に再び急接近している。
戦闘機も、ミサイル搭載の艦艇も持たないフィリピン軍は、中国軍に対しては丸腰同然だ。米軍機や艦船への補給場所の提供を広げることで、南シナ海の自国の権益を守ってもらうことを目指している。
一方、中国は、米比合同軍事演習と同じ頃、黄海でロシアとの合同軍事演習を実施。「フィリピンの一方的な動きは度を超しつつある」(外交筋)と、対米接近に対して警戒感を強めている。【5月9日 朝日】
***********************
ただ、“アジア重視”を掲げているアメリカとしても、領有権そのものについては中立的な立場を崩していないなど、南シナ海での争いへの深い入りは避けたい本音も窺われます。
中国は、フィリピンから輸入されるバナナの検疫を強化する形で圧力をかけるなどしていますが、先日のTVニュースでは、フィリピンに滞在する中国人観光客がゼロになったとのことです。中国政府の意を受けた旅行会社がフィリピン向けのツアーを中止しているようで、さすがにこのあたりは徹底しています。
“対中関係の冷え込みにより、フィリピンではホテル、レストランなどの観光業が大打撃を被っており、現地で働く人々は政府の反中感情に反発している”【5月13日 Record China】との報道もあります。
【中国ネット上で噴出する北朝鮮への反感】
今日取り上げたかったのは、同じ漁業問題に起因する対立でも、南シナ海の話ではなく、実は黄海の話です。
黄海では、5月8日、北朝鮮が境界線を越えて不法操業したとして中国漁船を拿捕する事件がありました。
事件そのものは、拘束されていた中国漁船3隻と乗組員29人が21日、拘束から13日ぶりに中国・大連の港に戻り、一応終結しています。
しかし、北朝鮮側が漁船と乗組員返還の条件として100万元(約1250万円)前後を要求し、「支払わない場合は船と乗組員を処分する」などと警告していたこと、漁船の船主が「乗組員らは拘束中、毎日のように殴られ、監視員に私語を禁じられた。家畜のように扱われた」と語ったことなどから、中国国内では北朝鮮に対する批判・不満が増大しているそうです。
****中国で反北朝鮮世論高まる 漁船拿捕事件受け****
中国漁船が北朝鮮に拿捕(だほ)され、約2週間後に解放された事件を機に、中国で「反北」世論が急速に広がっている。
黄海で操業中の中国漁船3隻は今月8日、中朝の境界線を越えたとして北朝鮮の船に拿捕されたが、拘束されていた乗組員28人は21日、拘束から13日ぶりに中国・大連港に戻った。
拘束中に北朝鮮の軍人から暴行や非人間的な扱いを受けたとする乗組員の証言が報じられたこともあり、中国のネット上では北朝鮮への反感が噴出している。
中国版ツイッター(短文投稿サイト)「微博」では、「一切の北朝鮮機関と協力しないようにしよう。取引もやめよう。北朝鮮レストランを排斥しよう」と訴える書き込みが広がっている。
あるネットユーザーは「北朝鮮政府が外貨稼ぎのために経営している北朝鮮レストランを排斥すべきだ。だが、韓国人や朝鮮族の経営する店が被害を受けるようなことがあってはいけない」と書き込んだ。
また別のネットユーザーは「先週、北朝鮮レストランである客が金正恩(キム・ジョンウン)のことを口にしたら、従業員に取り囲まれ、謝罪を求められた。客が公安(警察)に通報し、外交当局に報告がいき、ようやく解決した」と紹介し、中国人の反北感情をあおった。
一部の中国人は、経済援助を含め中国から少なくない支援を受けている北朝鮮が、自国の漁船を拿捕したという事実に憤り、北朝鮮に対する一切の人道支援を中断すべきだと主張している。
中国のネット上でこれほど反北世論が強まるのは、北朝鮮が中国など国際社会の自制要請を振り切って2度目の核実験を強行した2009年以来、初めてと指摘される。
中国人の非難は、事を荒立てずに済ませようとした自国の政府にも向けられている。漁船の乗組員が10日以上も正体不明の勢力に拘束されていたにもかかわらず、北朝鮮に一度も正式に抗議できなかったのは屈辱的だとの意見が、ネット上で飛び交っている。
こうした世論を意識したかのように、中国の政府や国営メディアは、漁船の拿捕が中朝友好関係に基づき円満に解決したとする一方で、北朝鮮に問うべきことがあれば問うとの姿勢を暗に強調している。
事件後、明確な言及を控えていた中国外務省の洪磊報道官は22日の会見で「外務省は事件を注視しており、平壌、北京で北朝鮮と密接に連絡を取ってきた。中国の漁船管轄部門が、詳細を調査中だ」と述べた。
ただ中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は前日の1面で、乗組員の帰国を伝えながら、中国と北朝鮮が今回の事件について正式な言及を自制している状況は、両国間の意思疎通が円滑なことを示すものだと報じた。【5月23日 聯合ニュース】
**********************
【「血の友誼」】
朝鮮動乱の際、義勇兵を送った中国と北朝鮮とは「血の友誼」といわれる密接な関係にあるとされてはいますが、核開発や長距離ミサイル発射実験などで中国の制止に従わない北朝鮮に、中国側は苛立ちを募らせているとも言われています。
一方、ことあるごとに改革・開放政策の実施などを迫る中国を、故金正日総書記はひどく嫌っていたとも言われています。
ただ、そうであっても、北朝鮮にとって中国は食糧・エネルギー援助などで不可欠な存在ですし、中国にとっても朝鮮半島における親中国政権の存続は至上命題でもあります。
そうした関係で、実際のところ中国と北朝鮮がどういう関係にあるのかよくわかりませんが、“黄海の中朝境界線付近では、中国漁船と北朝鮮船とのトラブルが多発している。今回は、漁船の船主が15日、ネット上で事件を公開したことから、外交問題に発展。金正恩第1書記の中国訪問など懸案を抱える北朝鮮は、中国内で北朝鮮に対する反感が高まることを恐れ、解決を図ったとみられる”【5月21日 読売】とのことです。
中国世論にすれば、中国が支えてやっているのに・・・といった感情でしょうし、北朝鮮側すれば、そうした高飛車な物言いは神経を逆なでするところでもあるでしょう。
「血の友誼」の両国が揉めるぐらいですから、中国とフィリピン、あるいは尖閣諸島で中国と日本が揉めるのも、大騒ぎするほどのこともない、ごく当たり前のことなのでしょう。
それにしても、中国漁船か南シナ海でも黄海でも、あちこちに出没して問題を引き起こしていますが、統制が得意な中国当局はこれを管理する考えはないのでしょうか。
中国漁船の活動が盛んなのは、中国国内での水産物需要が急拡大しており、魚はいくらでも売れる状況で、違法操業による多少の罰金ぐらい支払っても十分に採算が合うという国内事情もあるようです。