孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  シリア・アサド政権擁護を変えず 今後の“転換”にはロシアの説得がカギ

2012-05-30 22:07:11 | 中東情勢

(ホウラ(Houla)虐殺で死亡した108名を埋葬する墓地 4列の溝に、縦に並べられた遺体が埋葬されます。
“flickr”より By FreedomHouse2 http://www.flickr.com/photos/syriafreedom2/7277070412/
生々しい遺体の画像(多くは幼児・子供)も多数ありますが、そういう画像を目にしたくない方も多いと思われますので、墓地だけにしました。)

ホウラの虐殺:大半は政府側による処刑
シリアでは、国連停戦監視団約280人が派遣されているものの、アサド政権はいまだ軍部隊の撤退に応じず、反体制派もこれに応戦しており、事実上「停戦」は実現していません。そうしたなかで、27日にはシリア中部のホウラで108人以上の死者を出す「虐殺」が起きています。

****犠牲者の大半は「処刑」=シリア政府側民兵関与か―国連****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報道官は29日、シリア中部ホウラで子供や女性を含む市民多数が殺害された砲撃事件について「犠牲者108人のうち砲弾や戦車の攻撃で死亡したと確認できたのは20人以下」と述べ、大半は政府側による処刑との見解を示した。

報道官はジュネーブでの記者会見で、目撃者や生存者の情報として「処刑は2度行われ、政府側民兵組織シャビーハが関与したとみられる」と語った。【5月29日 時事】
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【“転換点”】
死者108名にうち女性34人、子供49人ということで、明らかに非戦闘員殺害です。
これまで、有効な手だてがないまま、弾圧の手を緩めないアサド政権に引きずられる形でズルズルと推移してきた欧米諸国は今回の惨劇に、シリア大使追放など、改めて強いアサド政権批判を行っています。

***米欧、シリア大使追放…政府軍の市民殺害に抗議****
米国務省のヌーランド報道官は29日、シリア政府軍の攻撃で多数の市民が殺害されたのに抗議し、ワシントンに駐在するシリアのジャブール代理大使を国外退去処分にすると発表した。

ロイター通信などによると、フランスのオランド大統領も同日、駐仏シリア大使を国外退去させると表明した。ドイツも駐独シリア大使に対し、72時間以内に出国するよう通告。イタリアとスペインもシリア大使を国外退去処分にする。英国とオーストラリア、カナダも同日、各国に駐在するシリア幹部外交官数人を国外退去させると発表した。

ヌーランド報道官によれば、一連の措置は8か国による「協調行動」で、アサド政権に圧力を加える狙いがある。【5月30日 読売】
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アナン特使による交渉でも“転換点”という言葉が使われており、今後の対応に変化がありうることを示唆しています。

****シリア:「転換点を迎えている」と指摘…アナン特使****
ロイター通信などによると、シリア情勢を巡るアナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)は、29日にダマスカスで開かれたアサド大統領との会談で、シリア中部ホウラで少なくとも市民108人が殺害された事件について「重大な懸念」を表明、直ちに暴力の停止に応じるよう求めた。

アナン特使は会談後、記者団に「我々は転換点を迎えている」と指摘。停戦などを提案した特使の調停は無期限でないとしたうえで、「近く国際社会が現状を検討し、さらなる行動が必要かどうかを判断しなければならない時が来る」と述べた。

これに対し、シリアの国営通信によると、アサド大統領もホウラの事件を非難するとともに、国内で最近「テロリスト」が活動を強めていると指摘した。

ホウラの事件を巡っては、米英仏独などが自国に駐在するシリア外交官の国外追放を決定。新たにブルガリアなどもこの動きに同調した。米欧はシリアの友好国であるロシアや中国に働きかけ、シリアに対する外交圧力を強めたい考えだ。【5月30日 毎日】
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アサド政権擁護の基本姿勢を崩さないロシア
しかし、“転換点”とは言いつつも、現実問題としては、すでに戻れない川を渡った感のあるアサド政権は力による反政府派封じ込めを続けており、国際的にもロシアのシリア支援姿勢は変わっておらず、国際社会として有効な手だてが見つからない情勢は相変わらずです。

安全保障理事会は27日、緊急会合を開き、殺害は「住宅地への政府軍による大砲・戦車の砲撃を含む攻撃」で起きたとし、「最も強い言葉で非難する」とした報道声明を全会一致で採択しました。

“全会一致”ということで、ロシアの姿勢に何か変化があったのか・・・とも思ったのですが、そうでもないようです。依然として、アサド政権擁護の基本姿勢は崩していません。

****反体制派も殺害関与」=シリア砲撃でロシア外相****
ロシアのラブロフ外相は28日、シリア中部ホウラへの砲撃で子供を含む100人以上が死亡した事件について「(政府軍と反体制派の)双方が民間人殺害に関与している」と主張した上で、まずは真相究明が必要との認識を示した。モスクワでヘイグ英外相と会談後、記者会見で語った。

ロシアを含む国連安保理は27日、シリア政府軍の砲撃を非難する報道機関向け声明を発表。ただ、ロシアは「砲撃自体による死者はさほど多くない」と条件付きで発表を認めた経緯がある。アサド政権擁護の基本姿勢は崩していない。【5月28日 時事】
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アメリカ国務省のヌーランド報道官は29日の記者会見で、シリア中部ホウラで発生した虐殺事件を受け、国連憲章第7章に基づく安保理決議の採択を通してシリアへの包括的な制裁強化を目指す考えを明らかにしていますが、これにもロシアは反対姿勢をみせています。

****新たな決議は「時期尚早」=シリア介入に反対―ロシア高官****
ロシア外務省のガチロフ外務次官は30日、インタファクス通信に対し、シリア中部ホウラでの虐殺事件をめぐり新たな国連安保理決議採択を目指す動きがあることについて、「時期尚早」との認識を示し、軍事介入に反対する立場を鮮明にした。

ガチロフ次官は「(ホウラ事件を非難する)安保理の報道機関向け声明は、シリアの全当事者に対する十分に強い警告となっている」と指摘。その上で「安保理でいかなる新たな手段を検討することも時期尚早と思われる」とし、シリアへの圧力強化を求める欧米をけん制した。【5月30日 時事】
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このように、国際社会の対応は、アサド政権支援を続けるロシアをどのように説得できるかにかかっています。
フランスのオランド大統領は、「(国連)安保理決議があるという条件の下なら排除しない」と、“軍事介入”にも言及していますが、現状ではロシアの反対で安保理決議が行われる見通しはなく、現実性はありません。
なお、オランド大統領は、6月1日に予定するロシアのプーチン大統領との首脳会談で、対シリア制裁に協力するよう説得する考えを示しています。

手詰まりのアメリカ、「イエメン型」を模索
欧米諸国の対応の中心は何と言ってもアメリカですが、“手詰まり”感は拭えません。

****シリア:米大統領報道官 軍事介入しない考え改めて強調****
アサド政権側の攻撃によるとみられる民間人虐殺の発生でシリアへの軍事介入を求める声が高まる中、カーニー米大統領報道官は29日の記者会見で、シリアに軍事介入しない考えを改めて強調した。
米政府は同日、駐米シリア代理大使の72時間以内の国外追放を決定するなど外交的圧力を強めているが、暴力の停止には程遠く、オバマ政権のシリア外交は手詰まりに陥っている。

記者会見で軍事介入の可能性を問われたカーニー報道官は「それは更なる混乱と大虐殺へつながる」と否定的な考えを明示した。
シリア国民評議会など在外反体制組織の間では、アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)の調停に見切りをつけ、米欧の軍事介入を求める声が強まっている。
フランスのオランド大統領は29日、仏国営テレビの番組で「国連安保理決議があるならば(軍事介入を)排除しない」と述べ、軍事介入の可能性を示唆した。

だが、対シリア武器輸出国のロシアは軍事介入に反対しており、オバマ政権は国連安保理での武力行使容認決議の採択は不可能と踏んでいる。再選を目指す11月の大統領選が近づく中、安保理決議なしの米単独の軍事介入は失敗すれば政権の致命傷になりかねず、完全に選択肢の外だ。

27日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、オバマ大統領は18、19両日に米キャンプデービッドで開かれた主要8カ国首脳会議で、ロシアのメドベージェフ首相に対し、国際社会の仲介で大統領退陣と副大統領への権限移譲を実現した「イエメン型」解決をシリアに適用することを提案した。だが、同様の案は、アラブ連盟が今年1月にアサド政権に提示し、拒否された経緯がある。

オバマ政権は国際テロ組織アルカイダのシリア反体制派への浸透も疑っており、反体制派への軍事支援にも消極的だ。米国防総省のリトル報道官は29日の会見で「現時点では人道支援、非軍事支援に集中している」と明言した。【5月30日 毎日】
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ロシアの承諾取り付けが条件
ロシアのシリア・アサド政権へのこだわりの背景には、ロシア軍が地中海に有する唯一の拠点であるタルトゥース港使用権、武器輸出先としてのシリアの重要性、リビアで国連決議がロシア側の意図を超えて拡大解釈され、NATOの大規模な軍事介入が正当化された“失敗”・・・などがあります。

****露、シリアに兵器供与 アサド政権崩壊なら「痛手****
ロシアのシリアに対する兵器供与の情報が相次いでいる。反政府勢力の弾圧で欧米諸国の非難が強まるなか、アサド政権を支持するロシアの姿勢が示された形だ。ただ、ロシアはリビアのカダフィ政権が崩壊する前に同国と締結した40億ドル(約3080億円)相当の兵器売却契約を、国連安保理の武器禁輸決議により逃した経験があり、新たに締結した契約が履行されるか懸念する声も出ている。

露有力紙コメルサントは23日、ロシア国営兵器輸出企業当局者の話として、訓練用の軍用機36機を総額5億5千万ドル(約420億円)でシリアに売却する契約を結んだと伝えた。
AP通信によると同機は対地攻撃も可能とされる。しかし、ロシアの軍事評論家は同紙に「アサド体制が崩壊すれば、財政的にもイメージの面からもロシアの痛手になる」と述べた。

ロイター通信などによると、露西部を先月出航した船が今月中旬、キプロス経由でシリアの港タルトゥースに到着した。船はロシア製の武器・弾薬類60トンを積んでいたとされ、キプロスで一時足止めされた。
タルトゥースはソ連時代の1971年に使用協定を締結、ロシア軍が地中海に有する唯一の拠点で、艦艇修理や部品供給などに利用している。

ロシアの兵器輸出は一昨年、100億ドル相当と過去最高を記録し、シリアはこのうち7%を占めるとされる。昨年12月には米国などの懸念をよそに、対艦巡航ミサイル「ヤホント」(射程300キロ)を供与したとの報道も出た。

対シリア軍事行動につながる国連安保理決議は容認しない-とするロシアは、23日の欧州連合(EU)によるイラン産原油の全面禁輸決定にも「強い懸念」を表明。両国の問題で対話による解決を呼びかけている。中東の友好国を擁護してロシアの存在感を示すとともに、軍事、経済面の権益を守りたいという思惑がありそうだ。【1月25日 産経】
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アサド政権崩壊を目指す「リビア型」の軍事介入にロシアが同調する可能性はありません。
また、仮に軍事介入した場合、安保理決議の有無にかかわらず、政権側・反政府側、そして一般民間人に多大の犠牲を出すことにもなります。
更に、アサド政権崩壊後の、多数派スンニ派によるアサド政権を支えた少数派アラウィー派への報復も懸念されます。
そもそも、今の欧米にはシリアに軍事介入するような余力もありませんが。

現実的な線としては、ロシアのシリアにおける権益を国際社会・反政府派が保証する形でロシアの承諾を取り付け、現政権の骨格は残存させたまま、アサド大統領から副大統領などへの権限移譲と停戦の実施を目指す「イエメン型」しかないように見えます。
アサド大統領本人の意向はともかく、政権周辺はキャップの取り換えに応じる余地はあるのではないでしょうか。
反政府派は不満でしょうが、現在の殺戮を止めるには他に手だてがないのでは・・・。

それについても、アサド大統領の意向の他に、ロシアの承諾がカギとなります。
ロシアがシリアにおける権益確保だけでは応じない・・・ということであれば、欧州のミサイル防衛問題を絡めて、ロシアの主張に多少配慮する・・・等の妥協もあるでしょう。

そんなロシアへの譲歩をするつもりはないということであれば、プーチン大統領が嫌がるようなカードをちらつかせてブラフをかけるとか・・・どんなカードがあるかは、テーブルの下の外交交渉の話ですからわかりません。

****露がキルギス大統領に賄賂…米大使の発言が波紋****
マイケル・マクフォール駐露米大使がモスクワの大学での講演で、「ロシアはキルギスの大統領に多額の賄賂を持ちかけ米軍基地を撤去させようとした」と述べ、露外務省が28日、「外交上の礼儀を逸脱した」と不快感を示す騒ぎとなった。

英BBC放送によると、マクフォール大使はキルギスの米軍マナス基地を巡るロシアとの確執に言及。ロシアが2009年、当時のバキエフ大統領に賄賂提供を申し出たと述べた上で、「我々もバキエフ氏に資金提供を申し出たが、金額はロシアの提示額の10分の1だった」と述べた。

大使はまた、北朝鮮の核問題で露当局者と協議した際、ロシア側は譲歩に応じる代わりに米国がロシアの民主化・人権状況を問題視しないよう求めた、などと明らかにし、互いに直接関係のない問題を議題に乗せ、自国に有利な状況を作ろうとするロシア流交渉術の一端を「暴露」した。【5月29日 読売】
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