(13日発表された世論調査では、ユーロ圏残留支持が78%、連立政権協議について「各党が協力すべきだ」が72%、「再選挙すべきだ」が22%でしたが、結局は再選挙へ。結果次第ではユーロ圏残留も危うくなります。
“flickr”より By Global News Pointer http://www.flickr.com/photos/58594229@N07/7187196400/)
【威勢のいいスローガンになびく大衆政治(ポピュリズム)】
周知のように、EUなどからの支援を受ける条件としての財政緊縮策を行ってきた与党の二大政党が先の総選挙で大敗したギリシャでは、パプリアス大統領が15日、組閣に向けた最後の調停のため主要政党の党首らと会談しましたが物別れに終わり、総選挙後9日間続けられた政権樹立への試みがすべて失敗、再選挙が行われることになりました。
再選挙は6月17日に行われることで各党が合意、選挙管理内閣の暫定首相に、行政事件の最上級審となる国家評議会のトップであるピクラメノス氏がパプリアス大統領によって任命されています。
世論調査に基づく推計では、緊縮策に反対して先の総選挙で第2党に躍進した急進左派連合が再選挙では更に議席を増やして第1党となる勢いであるとも報じられています。
****ギリシャ再選挙 連立調停失敗、反緊縮派に勢い****
・・・・最近の世論調査による推計では、急進左派連合に独立ギリシャ人党、民主左派を加えると議席が過半数に達し、反緊縮派だけで政権樹立も可能となる計算だ。だが、反緊縮派が政権を取れば、欧州連合(EU)などによる金融支援の枠組み自体が崩壊し、ギリシャ財政が破綻する恐れもある。【5月16日 産経】
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5月11日ブログ「ギリシャ 「挙国一致多党連立政権」か、再選挙か ユーロ離脱も現実味を増すなかでの正念場」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120511)では、“キャスティング・ボードを握っているのは急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・ツィプラス党首のように見えます”と書きましたが、最後の最後では混乱の引き金を引きかねない再選挙を避ける組閣に向けた妥協が成立するのでは・・・という思いがありました。しかし、総選挙勝利に興奮する急進左派連合の勢いを止めることはできなかったようです。
****ギリシャ:混乱の中、ポピュリズム政党が台頭****
総選挙後の混乱が続くギリシャ政界では、38年間続いた2大政党制が終わる興奮と、支持政党を失った有権者が威勢のいいスローガンになびく大衆政治(ポピュリズム)政党の台頭が同時進行で起きている。
「平和的な革命が起き、歴史の新しいページが開かれた。ギリシャから欧州に反緊縮策のうねりを広げる」
政局の台風の目となった急進左派連合(SYRIZA)のチプラス党首(37)は、選挙後の勝利演説やパプリアス大統領との会談などで、繰り返し「我々が勝利者だ」という大仰な熱弁を振るった。メディアでは「英雄気取りの思い上がった態度」と批判も出た。
元々は共産党から分裂した左派小集団が04年、選挙対策で寄り集まった。過去3回の総選挙は得票率3〜5%台。今回選挙戦では、単純化した公約と、男は全員ネクタイを外し、小会合で語りかける親しみやすいスタイルで、緊縮策推進の旧2大政党から離れた支持者をかき集めた。
第2党とはいえ、得票率はわずか17%弱。それでも「勝利者」と酔いしれるのは、40年近く合計70%超の得票率を続けてきた旧2大政党の一つを降し、もう一つに2ポイント差まで迫ったからだ。
ギリシャ政界の特殊事情が、外からは想像しにくい興奮を生み、「勢いを失う前に再選挙で一気に勝負をつけよう」という強気を後押ししている。同党は本気で組閣もせず、再選挙にらみのパフォーマンスに終始した。
寄せ集め左派政党の習いで、内輪もめは絶えない。党を指導するのは軍政時代に投獄経験もある旧世代の左派闘士たち。チプラス氏は4年前、世代交代の象徴として33歳で党首を禅譲された。同党が政権を取れば、首相になる可能性もあるが、行政・外交・経済の実務経験は皆無だ。しかし、この手腕未知数の政党に、大衆はますます傾斜しつつある。(中略)
再選挙では、SYRIZAの勝利と旧2大政党の埋没が予想されている。SYRIZAの緊縮策「廃止」は、「自分たちが債務を検査し直し、欧州連合(EU)と合意を結び直す」という内容。具体的な修正点は不明で、ND、PASOKの「改正・再交渉」との違いも分からず、EUが取り合うはずもないが、怒りと高揚と落胆が渦巻くギリシャで、そうした指摘に耳を貸す空気はない。【5月13日 毎日】
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【現実味を増すギリシャの“ユーロ離脱”】
急進左派連合の主張するような“緊縮策「廃止」”を実行すれば、ドイツ国内に見られるようなギリシャの放漫財政批判などをなんとか抑えながらかろうじて実現していたギリシャ救済策は不可能になる公算が大きいように見えます。“EUと合意を結び直す”というのは非現実的です。
そうなると、ギリシャ財政破綻、デフォルト、ひいてはユーロ離脱という最悪のシナリオが現実のものとなってきます。
ギリシャを取り巻く空気にも、ギリシャのユーロ離脱を現実的選択肢としてとらえるような変化が見られます。
****ユーロ崩壊への終末シナリオ****
そのシナリオが現実になる可能性については、誰も触れようとしてこなかった。ちょっと口にしただけでも、ユーロ圏の崩壊と破滅を想像させるほど恐ろしい未来図だったからだ。
だがこの数日で、ギリシャがユーロ圏から離脱する危険性は、無視できないほど現実味を帯びるようになってきた。タブー視されてきたこの話題は今、ヨーロッパの財政閣僚たちの間で避けては通れない問題になっている。
「ギリシャがユーロを去った場合の代償は非常に大きなものになる」と、ドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相は14日、ユーロ加盟国との会談に先立って語った。ギリシャの離脱を現実的な選択肢として公に語るようになった中央銀行の総裁も複数いる。
いつも慎重な姿勢を崩さないジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長も、ギリシャについて厳しい警告を発した。「クラブのメンバーがクラブのルールを尊重しないなら、クラブに留まるべきではない」と、先週イタリアのテレビ局に語っている。
EU本部では、恐れるべきはギリシャ離脱だけではないと、ささやかれている。ギリシャが抜けることによってもたらされる混乱は、ポルトガルやアイルランド、スペインなどに急速に拡大し、共通通貨ユーロの崩壊とヨーロッパ経済の破綻につながり得るからだ。
これはもはやヨーロッパだけの懸念事項ではない。数々の問題を抱えているとはいえ、ユーロ圏は13兆6000億ドル規模を誇る世界第2位の経済圏だ。その崩壊は、リーマンショックとは比べものにならないほどの大災害を世界経済にもたらすだろう。(後略)【5月16日 Newsweek】
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EUのバローゾ委員長は、ギリシャに「ユーロ圏に残ってほしい」と訴えていますが、逆に言えば、状況次第では“離脱”が現実のものとなるということでしょう。
***ギリシャ:EU委員長声明「ユーロ圏に残って」****
ギリシャが再選挙を決めたことについて、欧州連合(EU、加盟27カ国)のバローゾ委員長は16日、現在の救済策が最も困難が少なく、他の選択肢が大多数の市民により大きな痛みをもたらすと、ギリシャ国民に理解を求める声明を発表した。ギリシャに「ユーロ圏に残ってほしい」としたうえで「それはギリシャ国民次第だ」と再選挙での慎重な行動を求めた。
委員長は「ギリシャの民主的な決定を尊重する」と前置きしたうえで、救済策は「緊縮策だけでなく成長を促す方策も入っている」と述べた。ギリシャ国民が、他のユーロ圏諸国のことも考慮に入れ、「どんな結果を招くかを十分理解したうえで決定することが重要だ」と呼びかけた。【5月17日 毎日】
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フランスのオランド新大統領はベルリンを訪れてドイツのメルケル首相と初めて会談しましたが、再選挙が決まったギリシャに対し、両首脳も「ユーロ圏にとどまることを望む」と表明しています。
市場には“ギリシャは3月、いったん債務不履行(デフォルト)になり、金融機関がもつギリシャ国債は減っている。金融システム全体に与える影響は以前より小さくなっており、「離脱しても大混乱が起きるとは考えにくい」(野村証券の木内登英氏)”【5月11日 朝日】といった声も出てきています。
【ユーロ離脱が引き起こす混乱】
もしギリシャがユーロから離脱した場合、どうなるのか?
****ギリシャ通貨暴落 超インフレ *****
「反緊縮財政」の世論を受けてギリシャの再選挙が決まり、ギリシャのユーロ離脱が現実味を帯びてきた。もし離脱して旧通貨「ドラクマ」が復活したら、ギリシャ経済はどうなるのか。その影響は欧州諸国や世界経済にどう広がっていくのか。
金融市場が休みの週末、ギリシャ政府が突如として銀行預金を封鎖し、2001年末まで流通していた旧通貨「ドラクマ」復活を宣言する――。「ユーロ離脱の日」は、こうして始まる可能性が高い。事前に離脱日を公表すると、ユーロを引き出そうと預金者が銀行に殺到し、取り付け騒ぎが起きてしまうからだ。
信用を失ったギリシャ政府が発行するドラクマの価値は、為替市場で暴落することが避けられない。1ユーロあたりのドラクマの価値が下がれば、同じ1ユーロの借金を返すのにも多額のドラクマが必要になり、借金が実質的に増える。政府はお金を返せなくなり、「確実に債務不履行(デフォルト)に陥る」(日本政策投資銀行の田中賢治氏)。
通貨の暴落によって、国内では急激な物価上昇(インフレ)が進む。輸入品を中心に生活必需品の値段が上がる。仏金融大手BNPパリバは、離脱後の最初の1年のインフレ率は40~50%に達し、国内総生産(GDP)は20%下がると試算する。
通貨危機に陥った国は当初は混乱するものの、通貨安で輸出が有利になり、後に経済が回復することもある。ただ、「ギリシャにはそもそも輸出できる産業が乏しい」(丸紅経済研究所の美甘哲秀所長)。
混乱が長引けば、海外からの客足が遠のき、ギリシャの基幹産業である観光業は衰退。外国企業も投資を控える。経済はますます縮小し、八方ふさがりとなる可能性がある。【5月17日 朝日】
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対応を誤ると、破滅的なハイパーインフレーションの危険もあります。
もちろん、混乱はギリシャだけにとどまりません。
****南欧諸国 ドミノの恐れ ****
ギリシャがユーロを離脱すれば、周辺国や世界経済への悪影響も避けられそうにない。ドラクマの暴落などにより、他国の政府や銀行がギリシャに貸しているお金が焦げ付き、損失が発生するからだ。
フランスの経営大学、IESEGの調査担当エリック・ドー氏の試算では、独仏両政府の損失は1560億ユーロ(15兆6千億円)、両国の金融機関の損失は240億ユーロ(2兆4千億円)に達するという。
さらに深刻なのは、似たような財政不安を抱える南欧諸国への波及だ。金融市場では、スペイン、イタリアなどもギリシャと同じ道をたどるのではないか、という連想が生まれる。緊縮策に耐えられずに続々と離脱していく「ユーロ崩壊」のシナリオだ。
スペインやイタリアの借金も焦げ付き、その国債を大量に抱える金融機関は深刻な経営危機に陥りかねない。これらの国々の経済規模はギリシャとは桁違いに大きく、危機に備えて欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が用意しているお金では、支えきれなくなる。「世界経済は08年秋のリーマン・ショック以上の壊滅的な打撃を受ける」(外資系金融機関)
日本経済への影響も深刻だ。ユーロが売られてさらに円高が進むほか、中国など新興国経済も失速し、輸出が減る。大和総研によると、ギリシャ離脱が南欧諸国に波及すれば、日本のGDPを4.1%押し下げるという。【同上】
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【怒りの投票ではなく、理性の投票を】
こうした混乱に転落しかねない崖っぷちにいることについて、ギリシャ国民の認識が少し甘いのではないか・・・という感もします。
もっとも、ギリシャ国内銀行からの預金引き出し額が7億ユーロ(約710億円)に上るなど、国民にはユーロ離脱への不安ともとれる動きが出ていることも報じらています。
「総選挙では急進左派に投票した。一番勢いを感じたし、政治を変えてくれる、反緊縮策で立ち上がってくれると期待した。再選挙は仕方ない。今度は国民も頭を冷やして考える。怒りの投票ではなく、理性の投票となるからいいことだ。自分も次はどこに入れるか迷っている。何が一番いいのか分からなくなった」(アテネ 55歳 主婦)【5月16日 毎日】というのが、ギリシャ国民の気持ちでしょう。
“ユーロ離脱”を現実の問題としてとらえ、“怒りの投票ではなく、理性の投票”が再選挙でなされれば、再選挙の意義は大きかったということになるでしょう。
逆に、“ユーロ離脱”に突き進むような結果を選択するのであれば、その後の混乱は自業自得ということでしょう。もっとも、巻き込まれる欧州・世界各国はそれではすまない・・・ということもあるのですが。