孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  指導部交替に向けて、権力基盤を強める胡錦濤国家主席

2012-07-15 22:47:37 | 中国

(09年10月1日 天安門で中国成立60周年を祝う胡錦濤国家主席と江沢民前国家主席 “flickr”より By elin2010068 http://www.flickr.com/photos/64726991@N07/5910339678/ )

軍事委主席続投に向けて軍幹部人事
中国では今年秋に予定されている第18回共産党大会で指導部が世代交替し、現在の胡錦濤国家主席に代わって習近平国家副主席が党総書記に選出され、翌2013年春の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に就任するとされています。

そういう政治的に微妙な時期に起きた(微妙な時期だから起きた・・・と言うべきか)重慶市党委員会書記を解任された薄煕来氏の事件もあって、共産党指導部内の権力闘争に関する話題が頻繁に目に触れます。

基盤づくりに取り組んでいると思われる、新たなトップとなる習近平国家副主席の動向はあまり表面に出ませんが、逆に、バトンを渡す立場の胡錦濤国家主席の勢力が、ライバルである江沢民前国家主席の勢力を抑えて強まる方向の話題が多いようです。

****引退しても軍譲らぬ? 胡主席、腹心ら続々抜擢****
中国人民解放軍の最高指揮官である軍事委員会主席を兼務している胡錦濤国家主席は今月に入り、腹心の王登平中将を南海艦隊トップに抜擢(ばってき)するなど、一連の軍幹部人事を発令した。秋の党大会で共産党総書記を引退する胡主席だが、軍事委主席にとどまる狙いがあるとされ、人事を通じて軍内での影響力を高める思惑がありそうだ。

南海艦隊は海軍の3艦隊の中でも主力部隊として知られ、トップの政治委員は海軍の中で最も影響力の高いポストとされる。2005年から江沢民前国家主席率いる上海閥に近い黄嘉祥中将が務めてきた。今回の人事では、7月に定年を迎える黄中将の後任に、胡主席と同じ安徽省出身の王登平中将が指名された。

このほか、空軍副政治委員に抜擢された房建国中将は蘭州軍区空軍政治委員からの登用。胡主席は若いとき10年以上も甘粛省(省都・蘭州)で勤務した時期がある。
さらに、王増鉢中将を成都軍区副政治委員に充てる人事も発令された。重慶市を管轄する成都軍区の幹部の多くは、失脚した薄煕来・前党委書記と親密な関係にあるとされる。王増鉢中将が送り込まれたのは、胡派による同軍区掌握が目的である可能性もある。

今月は、天津市の武装警察総隊と海南省軍区の政治委員など、計10以上の重要ポストの人事異動も発令された。胡主席が党幹部養成学校である中央党学校校長だった時期(1993~2002年)に、同校で研修を受けた将軍が多く含まれていることが特徴だ。

一方、元高級幹部子弟で構成される「太子党」のメンバーはほとんどいない。太子党出身の習近平国家副主席の軍内での影響力を抑えたい思惑がうかがえる。

胡主席は今秋、党総書記を習副主席に譲ることが決まっているが軍事委主席から身を引くかは未定だ。政府では副首相止まりだったトウ小平氏も軍事委主席の地位を手放さず、最高実力者の地位を維持した。江前主席も10年前の02年に党総書記を退任した際、2年間、軍事委主席のポストにとどまった。

胡主席も同様に、軍に勢力を維持したい考えとみられるが、かつて江前主席の留任を厳しく批判した経緯もあり、露骨に推進できない事情がある。このため、人事を通じて軍内から自身の留任ムードを高める狙いもありそうだ。(後略)【7月15日 産経】
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上記記事にある、“軍事委主席”に胡主席がとどまるかどうかは、中国の政治においては非常に大きな意味をもつようです。

“最高決定機関とされている党政治局常務委員会は、多数決でものごとを決定する集団指導制だが、常務委員のうちの総書記、全人代常務委員長、首相の三者による「核心領導小組」という非公式の権力核心があることはあまり知られていない。
通常は、党総書記が党中央軍事委員会の主席を兼務するが、例外がある。党総書記と軍事委主席が別人の場合、核心領導小組は軍事委主席を加えて四人になる。これが、政治局を引退した軍事委主席が、雲の上から党政治局をコントロール可能にする仕組みだ。”【7月号 「選択」】

なお、最高決定機関とされている党政治局常務委員会についても、現在の9名が7名に変わるのではという話は以前から出ていますが、前出【7月号 「選択」】によれば、その場合の政治力学も胡錦濤国家主席に有利に傾くそうです。

江沢民派の牙城であった北京市を掌握
軍事委主席のポストやこれまで江沢民派が押さえていた軍幹部だけでなく、江沢民派の牙城とされてきた首都北京市についても、胡錦濤国家主席が掌握したとも報じられています。

****中国 北京市トップ、胡錦濤派 党委書記に郭氏 江派の牙城崩す****
中国共産党の北京市党代表大会は3日、新指導部を選出して閉幕した。
江沢民前国家主席に近い劉淇党委書記が退任し、胡錦濤国家主席の側近として知られる郭金竜市長(副書記)が北京の新トップに選出された。この人事は、胡派が江派の長年の牙城だった北京市をついに掌握したことを意味する。

秋の党大会を前にして、胡派の勢いはさらに増しそうだ。これに対し、競合する江派と習近平国家副主席を中心とする元高級幹部子弟で構成する「太子党」の立場は苦しくなった。

北京の党代表大会は当初5月に予定されていたが、市トップの人事調整で難航し、1カ月以上も延期し全国各地で最も遅い開催となった。北京市の党委書記は全国の地方指導者の中で最も重要なポストで、党政治局員を兼務し、中央政界に対しても大きな影響力を持つ。1997年以降、江派の有力者がこのポストを維持してきた。
(中略)
北京の党代表大会の閉幕に伴い、党大会前に開かれる全31の省、自治区、直轄市レベルの党代表大会はすべて終了した。各大会で可決された報告書で、いずれも胡主席が提唱していた政治スローガン「科学的発展観」が盛り込まれたことが注視される。

「科学的発展観」とは、国内総生産(GDP)の成長だけではなく、環境問題や格差縮小を重視することを指しており、経済発展を最優先に推進してきた前任者の江氏の政策に対抗する意味が込められている。
当初、多くの省に反発された「科学的発展観」が承認されたことで、胡派が政局の主導権を完全に握ったことが裏付けられた。【7月4日 産経】
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院政
こうした諸々の人事情報の結果は、習近平体制となっても、胡錦濤氏が“院政”という形で隠然たる政治力を保つのでは・・・というものです。
「中国のプーチン」「中国のメドベージェフ」という言葉もあるようです。

もっとも、なんでもありの中国共産党権力闘争ですので、こうした観測どおりに進むのかはまだわかりません。
先に胡主席が返還15周年記念式典に香港を訪問した際には、香港住民による大規模抗議行動に備え厳重な警備がとられましたが、この厳重警備は胡主席と対立する周永康と曾慶紅が胡主席殺害を狙っているとの噂が広東で広まったため・・・との話もあるようです。

もちろんたわいもない噂でしょうが、そうした話が出ること自体、“なんでもあり”の権力闘争を物語るものかもしれません。
コメント
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