孤帆の遠影碧空に尽き

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イタリア  モンティ首相「土壇場の見事なゴール」?「弱みに付け込む狡猾な戦略」?勝者はメルケル?

2012-07-06 21:13:10 | 欧州情勢

(6月29日 EU首脳会議でのモンティ伊首相とメルケル独首相 “flickr”より By European Council  http://www.flickr.com/photos/europeancouncil_meetings/7507861140/in/photostream/

メルケル首相とモンティ首相、どちらが上手だったのか
6月28~29日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議についてはあまり成果が期待されていませんでしたが、それだけに、ユーロ圏の基金から銀行に直接資金を注入する、基金が加盟国の国債買い入れに柔軟に対応するという具体的な成果が得られたことで、金融市場は「期待以上の成果」と好感した反応を示しました。

会議では、支援を受ける側のイタリア・スペインと、実質的に支援を負担する立場にあるドイツの間で、激しい綱引き行われたようです。
従来の財政緊縮一辺倒から成長と雇用も重視する政策への転換を具体化した「成長・雇用協定」が議論されましたが、資金調達コストの上昇に苦しむスペインとイタリアが協定への署名を留保する形で「人質」にとって、国債金利を低下させる具体策の導入を「勝ち取った」・・・とも言われています。

イタリア・モンティ首相がリードしたこうしたやり方を高く評価する見方、また、これを認めたドイツ・メルケル首相を批判するドイツ国内世論もありますが、一方で、そのやり口を“卑劣”とする見方もあります。
また、本当の勝者はメルケル首相だったのでは・・・といった見方もあって、評価は様々です。

****見事なゴール? 卑劣な恐喝? 割れるEU首脳会議への評価****
EU首脳会議が、6月28~29日にブリュッセルで行われた。メディアの期待ははっきり言って低かった。6月半ばにメキシコで開かれたG20でほとんど何も決まらなかったことや、どこをどう押しても有効な方策がありそうもないことなどが原因だ。メディアの報道には「やってもムダ」「余計に事態がこじれるだろう」といった悲観論が跋扈していた。

米ウォールストリートジャーナルは、“欧州の財布を握る”ドイツのメルケル首相が財政同盟の推進に後ろ向きな事実を挙げ、「具体的な解決策が出る可能性は低い」との見方を示した。英エコノミスト誌に至っては、「スペイン、イタリアのユーロ離脱もあり得る」という過激な予想まで掲載した。

「フランスの好パスでイタリアが得点」
こうした予想に反して6月29日金曜日、EU首脳会議の最終日の朝、世界中の株式市場が大反発した。NYダウ工業株30種は277ドル上昇。会議の争点となっていたイタリアとスペインの株式市場もそれぞれ6.5%、5.6%上昇した。低迷していたユーロも対ドルで2%上がった。米ウォールストリートジャーナルは「期待が少なかった分、結果に浮かれる投資家」と、過剰反応に釘を刺す記事を掲載したが、全体として見ると「サミット大成功」という捉え方が米国や日本で蔓延した。

この結果を導いたのは、首脳会議が次の2点を承認したことだ。1)欧州安定メカニズム(ESM)が、各国の政府を通さずに直接、銀行に資本を注入できるようにすること。2)厳しい条件なしに欧州通貨制度(EMS)の資金で国債の買い支えをすること。1)によって、破たん寸前のスペインの銀行は直接の資本注入が受けられる。2)によってイタリアは国債の暴落を回避することができる。確かに、破綻を回避できるように見える。

しかし、ヨーロッパメディアの報道はまちまちだ。今回の結論を出すにあたって、1200億ユーロの成長協定を採択する直前に、イタリアのモンティ首相とスペインのラホイ首相が不賛成をちらつかせ、メルケル首相の反対を封じた。会議終了間際にゴネて、自国に有利な展開に持ち込んだこのやり方について、メディアによって受け止め方がまったく異なった。あるメディアは「土壇場の見事なゴール」と見、別のメディアは「弱みに付け込む狡猾な戦略」と評した。

ギリシャでは、右派のアデスメフトス紙が「イタリア・スペイン同盟がメルケル首相に勝利」という見出しを立て、譲歩を勝ち取った両国を評価した。中道のトヴィマ紙も、「膠着したEUが前進した」として、モンティ首相の交渉手腕を賞賛。「ギリシャもモンティ首相のように国内でやるべきことをやった上で、緊縮緩和についてEUの合意を取り付けなければならない」と結んだ。ギリシャ政府が国内の構造改革に迅速に着手すること、その代わりに支援条件となる緊縮策に関し、条件の一部緩和を引き出すことの必要性を説いた。

フランスも反緊縮路線を取る。オランド大統領は今回の交渉劇で、イタリア・スペインを擁護し、反メルケルの立場をとった。ラ・トリビューン紙はサミットと同時期に開催されたワールドカップにひっかけ「フランスの好パスでイタリアが得点」と報じた。フィガロ紙は「ヨーロッパの力関係を変えた会議」と評価する一方で、ドイツとの関係悪化を懸念した。ル・モンド紙は、「ドイツを屈服させた南ヨーロッパ」という見出しの下、メルケル首相の譲歩を歓迎した。ただし「我が国は債権国側なのだから、(ドイツと南ヨーロッパ諸国対立を深める役割ではなく)、橋渡しに努めるべき」という冷静な意見を述べている。

独メディアは妥協したメルケル首相を批判
今回のEU首脳会議は、結局のところ、金を出す国と受け取る国の綱引きだったという見方ができる。だとすれば収まらないのは土壇場で競り負けたドイツである。
ドイツのメディアでは、イタリア・スペイン両国が「恐喝に近い態度」で今回の合意を勝ち取ったことに対する非難が巻き起こっている。抗し切れなかったメルケル首相の外交手腕に失望を示し、結果的にドイツ国民の経済負担が増すことを危惧する論調が目立った。

地方紙大手のライニッシェ・ポストは「ドイツが1900億ユーロの債務を保証」と1面トップで報道(筆者注:ESMが拠出しうる資金の上限は5000億ユーロ。そのうちドイツの分担額が1900億ユーロになる)。社説で「欧州安定メカニズム(ESM)が民主主義を骨抜きにする」と非難した。「ヨーロッパ救済のツケを払うのがドイツであることは明白だ。そこで我々ドイツ人は問う。ヨーロッパにそれほどの価値があるのか、と」。

フランクフルター・アルゲマイネは、主張を通した負債国に憤ると同時に、メルケル首相の交渉力不足を指摘した。「イタリアとスペインの両首相が取った行為は、政治的恐喝に近い厚顔無恥なやり方だ。ESMによる銀行への直接資金注入を認めなければ、(メルケル首相が提唱する)EU成長協定に賛成しない、と脅した。メルケル首相はなぜこれを容認したのか? 『自分の目が黒いうちはユーロ共同債を導入させない』と議会で発言したばかりだったのに」。

一方で、シュピーゲル(オンライン版)は、今回の合意はメルケル首相の敗北に見えて、実は首相のシナリオ通りになったと評価した。「ESMの資金を得るためイタリアは、GDPに対する債務の比率を、現在の120%から60%に半減させる必要がある。だが、実現は非常に難しい」と分析。イタリアのモンティ首相に花を持たせるため、メルケル首相が「賢い妥協をした」と総括している。

Wolfgang Munchau の視点
EU首脳会議はメルケル首相にとって苦々しいだけのものだったのか? これについて、英フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、Wolfgang Munchauは「本当の勝者はメルケル」というタイトルの記事で興味深い見解を述べている。「ESMは今後、スペインをはじめとする各国の銀行に資金を注入しなければならない。上限が5000億ユーロと決まっているESMに、イタリアの国債を引き受ける余裕がどれほどあるのか?」と疑問を提示した。

Munchauは、イタリアもスペインも今後潤沢な援助を受けられるわけではなく、両国が有利にことを運んだとする見方は幻想だと言い切る。一方で、メルケル首相はドイツがこれ以上責任を負うことを回避する意向だ。ユーロ債の実現もきっぱり否定した。「最終的な勝者はメルケルだ」というのがMunchauの結論だ。
メルケル首相とモンティ首相、どちらが上手だったのか、それは今後のユーロ危機の成り行きを見るしかない。【7月6日 日経ビジネスONLINE】
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ドイツが求める域内銀行の監督機能一元化が認められた点に着目して、メルケル首相がポイントを得たと評する見方もあります。

****苦渋の決断、でもこの笑顔****
朝方まで議論が続いた先週のEU首脳会議は、過去最も踏み込んだ結論に達した。ドイツのメルケル首相が苦渋の決断をしたからだ。(中略)
これまで緊縮財政と規律を訴え続けてきたメルケルにとっては、くしくも同日に行われたサッカー欧州選手権の準決勝同様、イタリアのモンティ首相に屈した形になった。

だが実際のところ、今回の結論はメルケルにとっても悪い内容ではなかった。イタリアやスペインは、ドイツが求める域内銀行の監督機能一元化に同意。ユーロ参加国の金融行政と財政の将来的な統合へ筋道をつけた。実現すれば、ドイッは自国流の厳しい財政・金融管理を欧州各国に求めることができる。

この結論を受けて、スペインやイタリアの国債利回りは急低下し、ユーロの信用も回復。名を捨てて実を取ったドイツのメルケルは、母国のサッカー代表とは違ってなかなかの試合巧者だったようだ。【7月11日号 Newsweek日本版】
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42年ぶりの改革
ギリシャ・トヴィマ紙が「ギリシャもモンティ首相のように国内でやるべきことをやった上で、緊縮緩和についてEUの合意を取り付けなければならない」と評しているように、モンティ首相はイタリア国内の構造改革に着手しています。

****イタリア:労働市場改革法案が可決 解雇が容易に****
イタリアのモンティ政権が「構造改革による成長戦略」の柱と位置づけた労働市場改革法案が27日、下院で可決され、成立する。従業員を容易に解雇できず、国際社会から批判されてきた制度に42年ぶりで改革の手が入る。

債務危機で昨年11月に国際通貨基金(IMF)の監視下に入って以来、イタリアが欧州各国に約束した最後の大きな課題を克服したことになるが、モンティ首相は債務危機が再びイタリアへ波及することを防ぐ次の新たな方策を迫られている。

労働組合の抵抗で原案は大幅に後退したが、28、29日の欧州連合(EU)首脳会議に間に合わせるため成立を急いだ。70年にできた労働者の雇用を守る手厚い保護制度は、非正規雇用や若者の失業を増やし、海外からの投資や生産性の向上を妨げているとの批判を招いてきた。

当初案は企業が業績に応じて自由に解雇や給与改定ができる内容だったが、労組と左派政党の反対で裁判所が介在する手続きに変わり、最大2年分の給与相当額を補償するなどの大幅な修正が行われた。それでも、解雇の条件は以前に比べ緩和され、遅れていた失業手当や就業訓練の制度も拡充される。イタリアの労働市場が流動性を重視した先進国型へかじを切ることになる。

労組や経営者団体の反発はなお残り、政府は採決を急ぐため成立後の微調整を約束しているが、フォルネロ労相は「大幅修正はない」と強調している。(中略)
労働市場改革法成立は、国内の構造改革というより、28日からブリュッセルで開かれるEU首脳会議出席の条件を整える通過点に変質。各党もそのために協力に同意した事情がある。
モンティ首相は「首脳会議が終わっても、週明けの市場が開くまで帰国せず、(市場安定化策を打ち出すため)努力する」と背水の陣を宣言している。【6月28日 毎日】
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賛否が分かれる長年の懸案事項という意味では、日本の消費税論議みたいなものでしょうか。
また、イタリア政府は6日、7時間の閣議の末、歳出削減を承認しました。
歳出削減の規模は、今年が45億ユーロで、13年は105億ユーロ、14年は110億ユーロ、となっています。

ベルルスコーニ前首相「イタリアを危機から救い出してみせる」】
こうしたモンティ首相の改革路線・緊縮財政は、当然ながら国内に大きな痛みを伴いますので、イタリア国内の評判は芳しくないようで、支持率は低下し、政権は長くない・・・との見方が出ています。
そして、そうした国内の不満に乗じる形で復活を狙っているいるのが、あのベルルスコーニ前首相で、しかもその主張が「ユーロ離脱」だそうです。

****ユーロ危機に乗じるベルルスコーニ****
モンティ政権の支持率低下を受けてスキャンダラスな前首相が政界復帰を狙う

イタリアのベルルスコーニ前首相がまたニュースをにぎわしている。だが今回は女性スキャンダルや汚職裁判の主役としてではない。本格的に政界に返り咲こうとしているのだ。
イタリアでは来年の総選挙後、ベルルスコーニが再び首相に立候補するのではないかという臆測が飛び交っていた。しかしベルルスコーニは先週、所属する自由国民党の支持者に向けて、首相識に未練はないと言明。代わりに「財務相の座」が欲しいと語った。

現に自由国民党は今、イタリアを支配しつつある「反ユーロ」の波に乗り、「ユーロ離脱」を掲げて与党に返り咲こうとしている。ベルルスコーニはこの3週間、欧州債務危機への対応をめぐって高まりつつある国民の不安を逆手に取り、彼らの心を取り戻そうとしてきた。

5月下旬の世論調査では、イタリア国民の60%以上が「ユーロ加盟前の通貨リラの頃のほうが生活は良かった」と答えている。その上ギリシャに広まる貧困やスペインの銀行での取り付け騒ぎが報じられたことで、反ユーロの機運はさらに高まっている。

これに乗じれば自らの政治的未来が開けるとみているベルルスコーニは、この世論調査以降3度にわたって「イタリアはユーロを離脱すべき」と声を上げている。イタリアが独自にユーロ紙幣を印刷すること(つまり偽札を追ること)を示唆するとっぴな発言まで飛び出した。

「俺が救い出してみせる」 政界復帰を目指すベルルスコーニの追い風となっているのが、モンティ現首相に対する国民の不信感だ。昨年11月にベルルスコーニが首相職を追われて以降、モンティは首相と財務相の2役を兼務している。当初は議会の支持もあり順風満帆だったモンティだが、その後、財政規律の維持に必要な重要な改革法案を成立させられずにいる。

脱税の取り締まりには成功したが、依然としてヨーロッパでも最高水準の給与を受け取っている国会議員に甘いこと、バチカンが固定資産税の大幅な優遇措置を受けていることなどから、モンティは急速に国民の支持を失った。ドイツのメルケル首相と緊密な連携を取る姿勢も、国民の不興を買っている。危機に陥るギリシャやスペイン、イタリアに財政緊縮策を強い、支援に消極的なメルケルはイタリア国民から嫌われている。

こうしたなか、当初はモンティを支持していたベルルスコーニは先週、自由国民党の支持者の78%が「もはや政府の政策に反対している」と発表した。
ベルルスコーニは、モンティ政権はあと2ヵ月ももたないと予想している。これは警告でもあるだろう。学者あがりで、所属政党を持たないモンティの政権を転覆さ甘りれるだけの議席を、自由国脱党は議会で握っているからだ。実際にそうなればイタリア政界はパニックに陥り、自由国民党の復活に有利となる可能性がある。

ナポリターノ大統領さえもが、モンティ政権の終わりが近いのではないかと懸念している。「政府を支える各党の問で争いが増えていることが心配だ」と、ナポリターノは語っている。

モンティの支持率は、就任時の71%から6月末には33%まで下落し、最低記録を更新。一方でベルルスコーニの自由国民党の支持率は、ユーロ反対を表明してからわずか3日で15げも上昇した。「51%でいい、票を私にくれればイタリアを危機から救い出してみせる」と、ベルルスコーニは先週開催された党の集会で語った。

だが彼がイタリアを「どこに」導いていくのか。ヨーロッパが知りたいのはそこだ。【7月11日号 Newsweek日本版】
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「本当かね・・・」と思ってしまう記事です。
選挙で選ばれた政治家よりテクノクラートが信頼される状況も問題ですが、国民の不満を扇動する形で権力に近づこうとするポピュリズムが蔓延するのはもっと危険です。
コメント (1)
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