孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ロンドン五輪公式ユニフォームが「メード・イン・チャイナ」

2012-07-18 21:55:13 | アメリカ

(個人主義の国アメリカでも、星条旗を背負った五輪ユニフォームが「メード・イン・チャイナ」というのは、ちょっとまずかったようです。“flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/7561544334/

【「すべてのユニホームを集めて燃やし、一からやり直せ」】
ロンドンオリンピックの開会が今月27日ということで、残り10日を切っています。
国家威信をかけた、あるいは現在の国家の勢いを反映したような北京オリンピックの開会式からもう4年が過ぎたのか・・・と、ちょっと不思議な感じもします。

開幕が近づくにつれて競技内容以外でも話題が出ていますが、一番面白いのは、各紙で取り上げられているアメリカの選手団公式ユニフォームの話でしょう。

****ロンドン五輪 米のユニホーム「ぜ~んぶ中国製」 批判噴出…でも「変更ムリ****
ロンドン五輪に出場する米国代表団が、開会式で着る公式ユニホームが「メード・イン・チャイナ」であることが判明し、物議を醸している。
貿易不均衡をめぐる対中批判がくすぶる中、11月の大統領選を控えて政界からも批判が噴出。米国オリンピック委員会(USOC)は13日、2014年の冬季五輪では米国製にすると発表するなど火消しに躍起となっている。

CNNテレビによると、ユニホームは米国の著名デザイナー、ラルフ・ローレン氏が担当。
ブレザーとベレー帽に男子はズボン、女子はスカートだが、靴に至るまですべて中国製だ。

インターネットの短文投稿サイト「ツイッター」などを中心にユニホームを作り直すべきだとの大合唱が起こり、政界からも「すべてのユニホームを集めて燃やし、一からやり直せ」(民主党のリード上院院内総務)と批判が強まった。

USOCは13日の声明で、すでに一部の選手がロンドン入りしていることなどから、ユニホームの変更は「残念ながらできない」としたが、14年の五輪の開会式と閉会式では、米国産のユニホームにすることにラルフ・ローレン社が合意したと発表した。【7月15日 産経】
*********************

「世界の工場」である中国に依存したアメリカ(日本も同じですが)の実情を反映しており、アメリカ側の苛立ちも分からないではないです。
オリンピック公式ユニフォームということを考えると、ラルフ・ローレン氏など製作サイドもやや無神経なことをしたとの感があります。

ただ、中国依存の経済構造はアメリカの大好きな自由市場経済の帰着でもあり、「メード・イン・チャイナ」に憤慨して「バイ・アメリカン(Buy American)」的な方向に走るのも考えものです。

【「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」】
この話、これだけでも十分に面白いのですが、“続き”というか“先立つ話”もあるようです。
今回の件には、共和党・民主党問わず批判が高まっていますが、批判の先頭に立ちそうなロムニー共和党候補が沈黙を守っているそうで、その訳は・・・

****ロムニー、中国製ユニフォーム批判が逆噴射****
アメリカ製造業の雇用が厳しい中、ロンドンオリンピックでアメリカ代表選手が着用するユニフォームが中国製だったことが発覚し、大きな騒動になっている。だが共和党の大統領候補ミット・ロムニーは、不思議なほど沈黙を守っている。

その理由は、どうやらこういうことのようだ。
ロムニーは02年のソルトレイクシティオリンピックの組織委員会会長を務めていたが、このときには今回よりさらに大きな騒動が持ち上がっていた。聖火ランナーたちの着用するユニフォームが、軍事独裁政権下にあったミャンマーで製造されていたことが明らかになったのだ。

冬季オリンピックの聖火ランナーを務めたことがあるアメリカ人のスーザン・ボンフィールドは英ガーディアン紙に、ユニフォームがビルマで作られたものだと知ったときの怒りを語っている。

カンカンになった聖火ランナー
「ユニフォームのラベルを見たときには怒りで気が狂いそうになった。アメリカを象徴するユニフォームの仕事を軍事独裁政権に与えるなんて」と、57歳のボンフィールドは言う。

ソルトレイクシティのオリンピック組織委員会は活動家たちに対し、ユニフォームは「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」と語って、さらに怒りを買った。活動家たちにミャンマーとビルマは同じ国だと指摘されるまで、知らなかったのだ。

米ABCテレビのインタビューの中で、ロムニーは中国製ユニフォーム問題について聞かれた。本来なら、ライバルのバラク・オバマ大統領に対する格好の攻撃材料になるはずだが、そうはならなかった。
「私はユニフォーム問題に関わるつもりはない。オリンピックについてはもっと大きな問題がある。会場の安全性や選手たちのための準備だ。私は私たちの国を支え、代表する人々を応援することに集中するつもりだ」【7月18日 Newsweek】
************************

スー・チーさん拘束を受けて、アメリカ議会で「対ミャンマー経済制裁法」が成立し、ミャンマーの主力輸出品である縫製品のアメリカ輸出が一切できなくなったのが2003年ですから、02年のソルトレイクシティオリンピック当時は“メイドイン ミャンマー”も問題はなかったのでしょう。

オリンピック組織委員会の「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」というコメントも笑えます。
ペイリン元副大統領候補がTV番組で、「当然、米国は同盟国である北朝鮮を支持すべきだ」と、韓国と北朝鮮を取り違えた話もありますが、世界の中心に位置していると思っているアメリカの多くの国民にとっては、アジアの国のことなどはそんなものなのでしょう。

海外下請け工場労働者の待遇改善を「支援」するが、コスト上昇についてはノーコメント
なお、単に中国やミャンマーに商品生産を委ねているというだけでなく、そうした国々での違法な低賃金労働や劣悪な労働環境を利用しているという側面もあります。(これも、アメリカだけでなく、日本を含めての話ですが)

アメリカのアップル社が「iPhone」や「iPad」の生産を委託している台湾企業の富士康科技集団(フォックスコン・テクロノジー・グループ)の中国工場で従業員の投身自殺が相次いだことで、その劣悪な労働環境が批判の対象となり、アメリカ本土ではアップル社製品の不買運動も起きました。

今年3月末、アメリカの非営利組織「公正労働協会(FLA)」が中国国内のアップル製造受託会社を監査し、労働条件の是正勧告を出しています。

**** 中国全土に波及か―アップル製造受託会社への労基法違反是正勧告****
米アップルの中国での製造受託会社に対して29日出された労働条件の是正勧告は、労賃上昇と他の労働条件改善要求が高まる同国で、他の製造企業にもさらなるプレッシャーをかけ対応を迫る可能性が出てきた。
この是正勧告は、公正労働協会(FLA)がアップルの製造受託会社である台湾の鴻海精密工業の中国現地工場を調査して出したもの。同工業は中国国内では富士康国際(フォックスコン・インターナショナル)の名で知られる電話機メーカーだ。

アップルも鴻海精密工業もFLAの勧告受け入れに同意しているが、同工業は30日、アップルと協力しながら「FLAの勧告に沿った(労働条件の改善)計 画を実行していきたい」とする声明を出した。また声明は「中国の労働基準法やその関連規則、並びにFLAの労働規範の順守を目指し、アップルがその関連会社全社に対して行なっている働きかけを今後も支援する」としている。

FLA勧告は、同工業2013年7月までに正規の労働時間を週40時間に、残業も中国の法定の月36時間に抑えることや、社員数の増強、給与外諸手当の拡充などが柱となっている。
しかしこうした動きは中国内の他の製造業者、特にハイテク製品製造会社を先頭に広がる可能性がある。

コンピューター大手デルの広報担当者は鴻海精密工業 の、労働者の待遇改善の措置を歓迎すると語ったが、そうした改善でコストがどのくらい上昇するかについてはコメントを避けた。ただ、この担当者はデルが同工業の待遇改善努力を「支援する」としている。また、同じような努力する他の会社にも手を差し延べる考えを示した。(中略)

中国の製造業者全般に、残業時間の制限や給与引き上げなど従来からの労働慣行の見直し機運が広がる一方で、中国政府当局も労働基準に対する姿勢を変え始 めている。
内需主導型の経済へ転換していくのにこれまでの高成長の分け前を労働者により多く配分する必要があることに加え、10年にはホンダなど日本の自 動車メーカーの中国国内工場で労働者の不満が波状的に爆発などしたためだ。同年の民間製造業で働く労働者の平均年収は2万90元(約26万3000円)と なり、09年と比べ16.4%上昇した。

ただ、労働時間に関しては地方政府レベルでは週100時間労働を容認している治体もある。長時間労働で収入を増やしたい労働者もいる。【3月31日 ウォールストリートジャーナル】
************************

企業の海外生産のあり方だけでなく、中国国内の労働分配率是正による所得向上・内需拡大、労働集約型産業の収益悪化による産業構造の転換などにつながる話ですが、実態の話となると、記事のラストにもあるように労働者側が長時間残業を望んだり、工場も監査用の表の工場と裏の工場を使い分けるとか、外国企業もそうした実態に敢えて触れないとか、現地下請け企業の生産コストが上がっても大手外資企業は受注価格を変えないとか・・・いろんなことがあるようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする