
(7月1日 東部ベンガジの選挙事務所を襲撃して投票用紙など選挙資材を燃やす群衆 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/7483407642/)
【選挙自体への期待は大きいが、政治的安定にはなお時間を要する】
今日7日、内戦の末にカダフィ独裁政権が崩壊したリビアで国会議員選挙が行われています。
“リビアで最後に選挙があったのは王制下の64年。その後、69年のクーデターで権力を掌握して42年間の独裁を敷いた元最高指導者のカダフィ大佐は、全国民による「直接民主制」を国是とし、政党を認めず、選挙による代議制を拒否していた”【7月2日 毎日】ということで、約50年ぶり、殆んどの国民が初めて経験する選挙です。
当初は6月19日に予定されていましたが、立候補予定者の資格審査や有権者登録などの手続きが遅れているなどの理由で延期されていました。
今回、200の議席に対し、142の政党から3700人余りが立候補しています。
今後のリビアの方向を決める重要な選挙ですが、選挙後も多くの困難が待ち受けていることが指摘されています。
****根深い東西対立 リビア遠い安定 カダフィ政権崩壊後初 国政選****
内戦の末、昨年8月にカダフィ独裁政権が崩壊したリビアで7日、国会(定数200)議員選が行われる。
同国での選挙は、カダフィ大佐(昨年10月に殺害)が1969年に打倒した王政の時代以来。民主化と本格政権誕生に向けた重要なステップとなるが、直前の5日に、新議会が行うとされていた憲法制定プロセスに重大な変更が加えられるなど、暫定統治を担う「国民評議会(NTC)」のかじ取りは迷走。東西対立からくる選挙妨害も相次いでおり、議会選出後も混乱は続く可能性がある。
昨年以降、中東・北アフリカに民主化運動が広がった「アラブの春」で政権が倒れた国で議会選が行われるのは、チュニジア、エジプトに次ぎ3カ国目。先の2国と同様にイスラム勢力が躍進するかどうかにも注目が集まっている。
選挙戦では、かつて過激派組織「イスラム戦闘集団」を指導し、内戦中は反カダフィ派部隊司令官だったアブドルハキーム・ベルハジ氏の「ワタン(郷土)党」や、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の「正義建設党」などイスラム勢力と、ジブリール前暫定首相が率いる「国民勢力連合」などのリベラル派が争う構図となっている。
議席は、人口比などから、半数の100議席が首都トリポリのある西部に、60議席が第2の都市で内戦中は反カダフィ派拠点となったベンガジなどの東部に、40議席が砂漠地帯の南部に配分されている。
当初計画では、選挙後にNTCは解散し権限を議会に移譲、議会は30日以内に首相選任や制憲委員会の指名を行うとされていた。
しかし、フランス通信(AFP)によると、NTC報道官は5日、制憲委を議会の任命ではなく、国民の直接選挙で選ぶ方式に変更すると発表した。予定されていた政治プロセスが狂う可能性が出てきたのだ。
混乱の背景には、地域間の根深い対立がある。
東部には、首都のある西部からの差別で開発が遅れているとの不満が根強い。最初にカダフィ政権打倒に立ち上がったとの自負もあり、政権崩壊後は自治権拡大に向け連邦制の導入を求める声が高まった。
選挙でも、西部が議席の半数を握ることへの反発があり、東部各地では選管事務所が襲撃される事件が頻発。5日には中部ラスラヌフなどで、武装グループが議席配分の是正を求め石油施設の操業を停止させた。
同報道官は、憲法制定に関する制度変更は「相当数の人々の求めに応えるためだ」と、東部への譲歩であることを暗に認めた。ただ、西部には連邦制に否定的な意見が多い。
多くの国民にとっては初の投票となり、選挙自体への期待は大きいが、政治的安定にはなお時間を要するとみられる。【7月7日 産経】
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【東部の自治要求】
東西の地域対立は以前からの問題で、今年3月には東部の地元部族指導者らが自治宣言を行い成り行きが注目されていました。
****東部地域が自治宣言=油田の大半支配下に―リビア****
カダフィ政権が昨年8月に崩壊したリビアの東部ベンガジで6日、地元部族指導者ら約3000人が出席して会合が開催され、中部シルトからエジプト国境までの東部地域の自治権確立を宣言した。暫定統治する国民評議会は、「リビアを解体しようとする外国の影響下にある計略だ」と反発している。
会合後の声明は「地域行政や住民の権利を擁護するため、ズバイル・セヌーシ氏を長とするキレナイカ暫定協議会が設置された」としている。同国は1951年に東部キレナイカ、中西部トリポリタニア、南西部フェザーンの3州による王国として独立した経緯がある。
リビアでは、カダフィ政権を打倒した民兵勢力の武装解除や国軍への統合が進んでいない。また、東部地域は大半の油田が集中するものの、開発から取り残されてきたとの不満があり、自治確立宣言につながったようだ。【3月7日 時事】
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今回選挙にあたっても、議席配分に対する不満から東部ベンガジの選挙事務所襲撃事件も報じられています。
****リビア:選管事務所襲撃…議席配分に反発 50年ぶり選挙****
リビア東部の主要都市ベンガジで1日、選挙管理委員会の事務所が暴徒に襲われる騒ぎがあった。リビアでは7日、昨年の民主化闘争でカダフィ独裁体制が崩壊したのを受け、約50年ぶりの選挙が実施され、新憲法の制定に当たる議員を選出する。民主化闘争の発火点となったベンガジは、この制憲議会の議席配分を巡って暫定政府と対立しており、一部が選挙のボイコットも呼びかけている。
AP通信などによると、約300人が選挙事務所を襲撃して投票用紙を燃やしたり、投票箱を投げ捨てたりした。襲撃者らは「東部地域の要求を無視する当局に対する反応だ」と話した。
制憲議会(定数200)は首都トリポリを含む西部地域に102議席、東部地域に60議席、南部地域に38議席を配分。だが東部はリビア経済を支える産油地帯であることを背景に議席の拡大を要求し、「自治」を求める声も上がっている。(後略)【7月2日 毎日】
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このほかにも、投票用紙配布のヘリがミサイルで落とされ、職員が一人死亡したことや、ベンガジでは選挙支持者と反対のふたつのデモが6日行われたといったこと、更に、リビアの石油生産が選挙に抗議する者のために従来の半分まで落ちていることなどが報じられています。【野口哲也氏「中東の窓」7月7日より】
【部族間に残る根深い対立】
東西間の地域対立だけでなく、部族間の対立も根深いものがあります。隣り合う町が武力衝突する事例もあります。
****リビア、前途多難な国づくり 7日に議会選****
「カダフィ後」の国づくりを進めるリビアで7日、国民議会選挙(定数200)がある。王政や独裁が続いたリビアでは事実上初めての自由選挙だ。憲法の制定とともに、部族間に残る根深い対立の克服をになう顔ぶれを選ぶ。
リビア西部にある人口4万人のラグダレイン。街角に張られた選挙ポスターが示す民主主義とは相いれない、武力衝突の爪痕が生々しい。産業地区の倉庫に、黒いスプレーで落書きがあった。「カダフィ支持の虫けらどもめ」。スーパーの壁には砲弾による直径1メートルほどの穴が開いていた。
ムバラク・サラームさん(41)が経営する重機の販売会社では倉庫や工場が放火された。中国から仕入れた重機は壊され、部品も奪われた。被害額は約900万ドル(約7億2千万円)という。「カダフィ派と反体制派の内戦が終わったと思ったらこれだ。無残な様子を見るたびに胸が痛い」
町が襲われたのは4月。隣接する町ズワラの民兵の攻撃だとみられている。約40棟の建物がロケット弾に直撃された。連行されて行方不明の男性もいる。
ラグダレイン側も応戦。双方で20人以上が命を落としたという。内戦下で拡散した武器が使われ、「カダフィ後」に進める武器回収の難しさも浮かび上がる。
対立の根っこは部族間の争いだ。ラグダレインはアラブ系が中心で、カダフィ政権で最後の首相だったマフムーディ氏の故郷も近い。これに対し、人口約3万のズワラは少数民族アマジグ人が多い。カダフィ政権下で独自の言語の使用を禁じられており、政権崩壊で「ラグダレインは独裁下でいい思いをした」という不満が噴き出した。
ラグダレインの行政機関のトップ、アリ・アブドルサマドさん(54)は「町を見れば優遇なんてなかったことが分かるはずだ」と話す。上下水道や都市ガスはなく、停電も頻発する。
産院もなく、妊婦は出産時に町を出ざるを得ないが、カダフィ政権が崩壊した後はズワラを通らない。報復を恐れて、町を結ぶ幹線道路は閑散とし、人の行き来は乏しい。
隣り合う町ですら激しく対立するうえ、3月には東部の部族幹部らが一方的に自治を宣言。東部アジュダビヤでは7月5日、投票用紙を保管する選挙事務所の倉庫が放火されるなど、リビアの国づくりは多難だ。
ラグダレインでは、4月まで在日リビア大使館で2等書記官だったアメッド・ナイリさん(45)が立候補している。「国民の和解が新生リビアの大きな課題だ。法の下で誰もが平等な、平和で安全な国にしたい」という。【7月7日 朝日】
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【シャーリアは「主要な法源」】
東西間の地域対立、部族間の対立、そしてもうひとつ注目されるのがイスラム主義の動向です。
隣国エジプトでの総選挙及び大統領選挙におけるイスラム同胞団などのイスラム勢力の台頭、軍部との対立の懸念は報じられているとおりですが、リビアでも前出【7月7日 産経】にあるように、イスラム主義勢力が選挙戦に臨んでいます。
リビアの国民評議会は5日、今後のリビアにとりシャリーア(イスラム法)は主要な法源となるであろうと確認したとの報道がなされているそうですが、“サダト時代のエジプトの経験から見ると、「主要な法源」と云表現は、シャリーアだけが法の源だと主張するイスラム的思潮の向上とこれに反発する世俗主義者の懸念に対する、妥協の産物で、イスラム教徒が大多数であるエジプトとしては、イスラム法が主要な法源ではあるが、それに限定するものではないと言う意味で使われてきて、現にムバラクもこの表現の憲法をそのままにしてきました。”【野口哲也氏「中東の窓」7月6日】とのことです。
いずれにしても、リビア民主化は前途多難というのが大方の見方です。