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(シリア北部のアレッポで火を噴く政府軍戦車 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7631886130/)
【政権中枢へのテロや化学兵器使用の憶測も】
シリアでの戦闘は、これまではスンニ派住民の多い中部ホムスやハマなどなどを中心に行われてきましたが、7月中旬からは、アサド政権の支配が強い大都市、首都ダマスカスや北部アレッポへ反体制派「自由シリア軍」が攻勢をかけ、政府軍がこれに反撃するという展開になっています。
****シリア反体制派の自由シリア軍、総攻撃開始を宣言****
シリア反体制派の自由シリア軍(FSA)は16日夜、「ダマスカスの火山とシリアの地震」と称する総攻撃作戦を開始したと発表した。
自由シリア軍が同国中部ホムスの統合司令部で発表した声明によると、同軍はバッシャール・アサド政権側の「虐殺や野蛮な犯罪行為への対応として」、16日午後8時(日本時間17日午前2時)に同作戦を開始した。
自由シリア軍は「都市部と地方部の全ての治安当局の拠点や検問所を攻撃して政府側との激しい交戦に持ち込み、政権側を降伏に追い込む」、「シリア全土にある治安部隊、軍、シャビハ(Shabiha、親政権側の民兵組織)の全ての検問所を包囲し、激しい戦闘を行って彼らを壊滅させる」としている。
また政権側の補給路を断ち物資を奪う目的で、外国に通じる道路の封鎖を明言。また政府側の兵士に、軍を離反して「捕らわれている人々の解放」に加わるよう呼びかけた。
さらに、シリア国内にいる外国機関は政権側と見なし、「正当な攻撃対象」とすると宣言した。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イランの革命防衛隊、イラクの民兵組織、パレスチナのアサド大統領支持派グループを指すとみられる。【7月17日 AFP】
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反体制派の首都攻略作戦については、“自由シリア軍には、独力での首都攻略は難しいとみられている。にもかかわらず連日、首都で戦闘活動を展開するのは、内戦を泥沼化させて「対話は不可能だ」(幹部)と内外に印象づけ、外国の軍事介入に道を開きたいとの思惑があるためだとみられる”【7月18日 産経】といった見方もあります。
こうした反体制派の首都への攻勢のなかで、18日には首都ダマスカスの治安機関本部で爆発があり、ラジハ国防相とアサド大統領の義理の兄であるシャウカト陸軍副参謀長が死亡、シャアール内相も重傷を負う事件が起きました。
政権中枢を襲う事件は、大統領側近グループの護衛が反体制派に寝返り会議で爆弾を起爆したといった情報もあって、アサド政権の綻びを印象付けましたが、政権側も激しい反撃に出ています。
シリアのマクディシ外務報道官が23日の記者会見で、内戦状態に陥ったシリア情勢に外国軍が介入すれば、化学兵器を使用する可能性に言及するという、化学兵器保有を認める異例の発言もあって、危機感を強めるアサド政権が化学兵器を使うのでは・・・との憶測も流れました。
一方、政府軍が首都防衛に兵力を集中させた間隙を突き、19日、反体制派はイラク、トルコ両国との国境にある検問所を急襲し、一部の制圧に成功、重要補給路を押さえています。
【「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」】
装備に勝るアサド政権側は機甲師団やヘリコプターを使用して首都ダマスカスの反体制派拠点を攻撃、反体制派は北部のシリア第2の都市、アレッポでも攻勢を開始、これまでアサド政権の牙城とされきた首都ダマスカスと北部大都市アレッポで政権側・反体制派の命運をかけた攻防が続いています。
戦闘の状況はよくわかりませんが、政権側は、外相が「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」と述べ、今月中旬から続いていた首都での戦闘に勝利したと宣言しています。
****シリア 政権側「首都鎮圧」 アレッポでも優位****
内戦状態にあるシリアのアサド政権が28日に開始した、北部アレッポでの反体制派に対する大規模掃討作戦は、29日も市内各地で続いた。シリアの在外人権団体によれば、28日だけで、アレッポでの約30人を含む約140人が全土で死亡した。
アレッポは同国の商工業の中心地。伝統的に商人層の影響力が強く、政権側としては、同市で反体制派が力をつける前に武力で押さえつけ、商人層の離反を防ぐ狙いがあるとみられる。
反体制派武装組織「自由シリア軍」幹部によると、政権側は29日、前日に続き、同軍の拠点であるアレッポ南西部サラーヘッディン地区などに戦車やヘリ、地上部隊による攻撃を行った。同幹部は「政府軍を押し返している」と話しているが、火力面では政権側が優位に立っている。
一方、シリアのムアッリム外相は同日、訪問先のイランで、「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」と述べ、今月中旬から続いていた首都での戦闘に勝利したと宣言した。
こうした中、反体制派在外代表組織「シリア国民評議会」のサイダ議長は29日、政権崩壊を待たずに、移行政権作りに着手する考えを示した。議長は28日には、訴追免除と引き換えにサレハ前大統領の退陣を実現した「イエメン型」をシリアで再現するのは「不可能だ」とも明言、あくまでアサド大統領らを処罰すべきだとも主張している。
シリアをめぐっては、アナン国連・アラブ連盟合同特使の「挙国一致政府」案実現に向け、アラブ連盟がアサド氏に「安全な出国」を働きかけている。だが、サイダ氏の発言に表れているように、反体制派は政権側との妥協に否定的で、政権側がアレッポ掃討に成功した場合も、各地でゲリラ戦が続くと予想される。【7月30日 産経】
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正確な状況はわかりませんが、上記記事にもあるように、“政権側がアレッポ掃討に成功した場合も、各地でゲリラ戦が続く”と予想されていますし、逆に、反体制派が首都攻略に成功しても、大統領派は政権支持派が多いアラウィ派居住地区の北西部を足場にして、シリアを分断する形での戦闘が続くとも見られています。そして犠牲者はさらに増加するでしょう。
****シリア:死者2万人超す 弾圧本格化以降****
在英の反体制派組織「シリア人権観測所」は28日、アサド政権による反体制派弾圧が本格化した昨年3月以降の死者が2万人を超えたことを明らかにした。28日現在の犠牲者は、少なくとも2万28人で、内訳は市民を含む反体制派側が1万3978人、離反兵が968人、政府軍兵士が5082人としている。
シリアでは今月下旬に入り、首都ダマスカスや北部アレッポで、政府軍と反体制派との衝突が激化。同観測所によると、連日100人以上が犠牲になり、28日は全土で190人が死亡した。【7月29日 毎日】
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【アレッポの人口約200万人の約1割が難民化】
いずれにしても、戦闘状態が収まる気配は今のところはありません。
そして、戦闘を流れる難民も増大しています。
****シリア難民11万2000人…3か月で3倍に****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、シリアから周辺4か国に脱出した難民が11万2000人に上り、4月時点の約3倍になったと発表した。
難民のうち4万人はトルコでキャンプ生活を送っている。ヨルダンとレバノンにはそれぞれ3万人以上、イラクにも約8000人が逃れた。
これらの人数は、UNHCRが把握している分に限られており、難民の実数はずっと多いとみられるという。【7月18日 読売】
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難民が押し寄せるヨルダンでは、“地元紙ヨルダン・タイムズによると、連日1000人もの難民が押し寄せている。貧困地区では住宅や水、医療サービスの不足や物価の高騰などが続き、住民の不満が鬱積。キャンプのあるラムサでは23日、環境改善を訴える難民と地元住民が衝突し、双方が投石し合う事件も起きた”【7月30日 毎日】とも報じられています。
特に、激しい戦闘が行われている北部アレッポでは“2日間で住民約20万人が脱出した”と、国連の人道問題担当事務次長が発表しています。
****シリア:北部の商都から20万人脱出 国連次長発表****
国連のエイモス人道問題担当事務次長は29日、シリア政府軍による反体制派の掃討作戦が続く最大の商業都市の北部アレッポから、2日間で住民約20万人が脱出したと発表した。激しい戦闘が続いており、国連や赤新月社(赤十字社に相当)も近づけず、周辺部の避難民やアレッポに取り残された住民が孤立化している。
アレッポの人口約200万人の約1割が難民化しており、避難民の数はさらに増大しそうだ。
ロイター通信などによると、アレッポの一部地域を勢力下に置いた反体制派に対し、拠点となることを恐れた政府軍は今月21日以降、ヘリや戦車も投入し、激しい市街戦を展開。軍は29日、アレッポ南西部サラへディン地区を反体制派から奪還したと発表し、将校が国営テレビに「アレッポは数日のうちに安全と治安を取り戻す」と語った。しかし、英国を拠点とする反体制派組織「シリア人権観測所」は、軍の発表を否定した。
国連のエイモス次長によると、住民は学校や公共施設に一時避難しており、食料、水、衛生用品の不足は深刻だという。戦闘の全ての当事者に対し声明で「市民を攻撃せず、人道支援団体による支援活動の安全を保障すること」を要求した。【7月30日 毎日】
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アレッポはトルコ国境も近い北部に位置していますが、政権側が移動制限をしているせいか、戦闘が激しく移動できないのか、トルコ側への越境は起きていません。
****国境に誰も来ない…シリア避難民20万人どこへ****
シリア北部アレッポでの戦闘激化で「20万人が市を脱出した」(エイモス国連事務次長)とされる中、隣接するトルコ国境では30日、ほぼ誰も出国して来ない状況が続いている。
アサド政権による住民の移動制限が影響しているとみられるが、過去の大量脱出とは対照的な展開で、「避難民はどこに消えているのか?」(独ARDテレビ)という懸念が広がっている。
シリアの地中海沿岸都市とトルコ南部を結ぶヤイラダ検問所は30日、客待ちの車が2台止まっているだけで閑散としていた。係官は「国境は開いているけれど、誰も来ない」と話した。地元住民によると、アレッポからの主要検問所ジルベギョズも、ほぼ無人の状態が続いている。【7月30日 読売】
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【間隙を突いてクルド人勢力の動きも】
一方、ここのところの首都ダマスカスや大都市アレッポでの攻防が激化するなかで、その間隙を突く形で、クルド人勢力が一部地域を制圧したとの情報もあり、国内にクルド人反政府勢力を抱えるトルコが敏感に反応しています。
****シリア:「クルド人が一部掌握」情報 隣国トルコ緊張****
内戦状態に陥ったシリア北部で、「祖国なき最大の民」といわれるクルド人が一部の町を掌握したと伝えられ、隣国トルコが過敏に反応している。トルコ南東部にはクルド人が多く、分離独立を掲げて対トルコの武装闘争を続ける非合法組織「クルド労働者党」(PKK)との長い対立があるためだ。トルコはシリア北部がPKKの新拠点になると警戒しており、シリア情勢は周辺諸国の緊張も高めている。
トルコのエルドアン首相は26日、シリア北部の状況について「テロ組織が拠点を構築してトルコを脅かす事態は許さない」と強調、「必要であれば行動を起こす」と警告した。トルコはPKKをテロ組織と認定している。
トルコのメディアなどによると、シリアの首都ダマスカスで18日あった政府高官爆殺事件後、シリア北部アレッポ県やハッサケ県の一部の町をクルド人が掌握した。政府軍が戦闘の激化した首都やアレッポ市などに移動した隙(すき)を突いたという。
PKKが戦闘員を送り込んだとの情報や、イラク北部のクルド自治区から軍事組織「ペシュメルガ」が展開したとの情報も流れた。イラクのクルド自治政府は関与を否定している。
シリアは過去、PKK創設者のオジャラン服役囚(トルコで収監中)をかくまっていたほか、クルド人主要組織の一つ「シリア民主統一党」はPKKとの連携が指摘され、トルコの不信感は根深い。
また、クルド系のメディアは今回の事態を「クルディスタン(クルド人居住領域)のうち二つの地域(イラクとシリア)が初めてクルド民族の支配下に入った」と称賛し、トルコの神経を逆なでした。
クルド人は主にトルコ、イラク、イラン、シリアにまたがる山間部に居住し、推定人口は2000万〜3000万人。このうちシリアに約200万人、トルコには1200万〜1500万人が住むとされる。
1978年に創設されたPKKは84年から対トルコの武装闘争を開始。これまでの衝突の死者数は4万人以上に達し、トルコはしばしばPKKが潜伏するイラク北部を攻撃している。【7月27日 毎日】
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