孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン  政府補助金大幅削減で石炭産業は消滅の危機

2012-07-19 22:16:32 | 欧州情勢

(スペイン・レオン 政府の補助金削減に抗議して路上で座り込みを行う炭鉱労働者 “flickr”より By Raúl G. Villalón http://www.flickr.com/photos/raulvillalon/7185083287/

全面救済の事態に陥ることを避ける
欧州信用不安のなかにあって、ギリシャの次は・・・と見られているスペインですが、7月9日のユーロ圏諸国(17カ国)財務相会合は、スペインの財政再建達成年を2014年に1年延期することを承認しました。
厳しすぎる財政再建を求めて、スペイン経済が失速し、EUが全面救済に乗り出さざるを得ないような状況を防止するものです。

****スペイン:財政再建達成を14年に延期 ユーロ圏承認****
欧州連合(EU)でユーロを採用するユーロ圏諸国(17カ国)は9日の財務相会合で、スペインの財政再建達成年を、2014年に1年延期することを承認した。

過度の歳出削減や増税など厳しい財政再建目標の実施を求めた場合、ユーロ圏4位の経済力を誇るスペイン経済が不振を極めるのは確実。最大1000億ユーロ(約10兆円)の金融機関資本増強支援だけでなく、財政を含めた包括的な支援に陥る事態を予防し、スペイン経済を下支えする。

スペインは不動産・建設バブルの崩壊により、金融機関の不良債権額が拡大、ユーロ圏は9日の財務相会合では、第1弾の金融機関支援として300億ユーロ(約3兆円)を今月中に払い込むことも決めた。

スペインでは実体経済の不振も続く。11年第4四半期以後、スペイン経済は2四半期連続でマイナス成長。政府予測では、12年の実質成長率は前年比マイナス1.7%、13年もマイナスと見るエコノミストが多い。失業率も24%と高く、過度の財政再建策の実施は、5%を超すマイナス成長に陥ったギリシャのように、景気の底割れや社会不安の拡大を招く懸念がある。

10日の欧州金融市場でスペイン国債は、支援決定などを受けて上昇(利回りは下落)した。ただ、指標となる10年物国債の利回りは6.8%台と、継続して資金調達が難しくなる「危険水域」とされる7%に近い。

このまま資金調達が難しくなり、スペインを全面救済する事態になれば、数千億ユーロ規模の支援が必要となる。欧州安定メカニズム(ESM)など、EUの安全網が底を突く。そうした事態を避けたい意向がEU内には強く、これが今回の財政再建目標の延期承認の背景だ。

スペインは国内総生産(GDP)比の財政赤字を、12年は5.8%、13年は3%とする計画だったが、3%達成年を14年に延期する。【7月10日 毎日】
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【「気分が良い対策ではないものの、必要なことだ」】
こうした支援に応える形で、スペイン・ラホイ政権は財政健全化に向けた追加対策を発表しています。
公約を撤回しての消費税増税は、日本と同様です。
追加対策には消費税増税のほか、新たな住宅購入者向けの減税廃止、公務員給与の削減、国有事業体の大幅削減、地方議員の30%削減、失業手当引き下げ、港湾や空港の民営化なども盛り込まれています。

****スペイン、消費増税へ=財政健全化で追加対策****
スペインのラホイ首相は11日の同国議会で、財政健全化に向けた追加対策を発表した。付加価値税(消費税に相当)の税率を現行の18%から21%に引き上げるほか、歳出を大幅にカットするなどし、2014年末までに650億ユーロ(約6兆3300億円)の財政赤字削減を目指す。

昨年12月に就任したラホイ首相が率いる右派・国民党は、同年11月の総選挙で付加価値税率を引き上げない方針を明言していた。このため、野党から「公約違反」との批判が高まるのは必至だが、首相は「気分が良い対策ではないものの、必要なことだ」と理解を求めた。

追加対策では、食料品などに適用されている付加価値税の低減税率も現行の8%から10%に引き上げるが、パンなど特定品目の税率4%は据え置く。また、国有事業体などの数を大幅に減らし、地方議員も30%削減する。【7月11日 時事】
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若者の失業率が50%を超えるような状況で、緊縮財政の打撃はスペイン人の生活の隅々に及びつつありますが、国民の不満を和らげるため、スペイン王室も年収の自主削減を発表しています。

****スペイン国王、年収を自主削減…国民の目厳しく****
スペイン王室は17日、政府の追加緊縮策で公務員給与が7%削減されたのを受け、フアン・カルロス国王が年収の7・1%を自主的に削減すると発表した。

国王の年収は、国からの「給与」相当分と公務に必要な経費などを含めて約30万ユーロ(約2910万円)で、このうち約2万ユーロが減額される。フェリペ皇太子らへの支給も同じ割合で削減される。王室関連予算は年間約800万ユーロで、国王らへの支給削減により約10万ユーロが節約できるという。

債務危機が深刻化するスペインでは、国民の王室に対する目も厳しくなり、国王は昨年、自身の年収を初めて公表した。【7月18日 読売】
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石炭産業が今、消滅の危機
しかし、大幅な補助金削減で“瀬戸際”に追い込まれている炭鉱労働者の抗議が続いています。
スペイン北部では14人の炭鉱労働者が5月末から、地下900メートルの暗闇で「地下スト」を行っています。

****スペイン緊縮財政でゲリラ化する炭鉱デモ隊****
スペインで1万人以上の労働者が従事する石炭産業が今、消滅の危機にある。
ラホイ首相が率いる国民党政権は4月、石炭産業への補助金を大幅に削減すると発表した。スペインの銀行救済に合意したEUが求める緊縮策の一環で、削減率は63%。炭鉱産業の削減率はほかのどの産業よりも大規模だ。

もともと採算の取れないスペインの石炭産業は1世紀以上、補助金で成り立ってきた。エネルギーの約80%を国外に依存するスペインでは、唯一の資源である石炭が伝統的に戦略的産業と位置付けられてきた。

公的支援なしではスペインの石炭産業の存続は難しい。石炭産業は5月からゼネストに突入。炭鉱業が盛んな北西部などでは、森に隠れた炭鉱労働者たちが「ゲリラ化」し、ゴルフボールや爆竹を投げ付け治安部隊を攻撃する方法で抗議を続けている。

そして先週、抗議活動は首都マドリードにも拡大。全国から集まった数千人の炭鉱労働者に、緊縮に反対する市民が加わり、デモは数万人に膨れ上がった。
補助金の大幅削減は石炭産業への死刑宣告。労働者たちは一歩も引くっもりがないようだ。【7月25日号 Newsweek日本版】
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“ゴルフボールや爆竹”だけでなく、手製のロケット弾(ロケット花火?)なども使われ話題となっています。

国際競争力がなく、補助金をつぎ込まなければ存続できない産業というのは、やはり無理があります。
日本でも、石油中心のエネルギーへ社会が転換するなかで、戦後日本を支えた多くの炭鉱が消えていきました。
その過程で起きた三井三池炭鉱の労働争議は「総資本対総労働の対決」とも呼ばれる激しいものでしたが、労組側の敗北に終わり、組合運動や争議を支援した社会党などの転換点ともなりました。

日本の場合、炭鉱は“過去の話”ですが、将来の話としては“コメ”“農業”の問題があります。
個人的には“日本の農業を守れ”教信者ではありませんし、バカ高い有機農法作物などにも興味ありません。
食糧安保の話も、エネルギーの殆んどを海外に頼り、輸出・輸入の貿易で生活している日本にあって、コメの自給にこだわるのがどんな意味があるのか・・・という感があります。

【「農産物の平均価格は今後10年間高止まる」】
アメリカでは中部の穀倉地帯が大規模な干ばつに襲われ、農作物の被害規模は25年来で最悪だと言われています。
“米国は世界最大のトウモロコシと大豆の産出地だが、ビルサック長官の記者会見によると既にトウモロコシは78%、大豆は11%が被害を受けている。トウモロコシ価格は6月1日比で38%、大豆価格は24%上昇しており、今後も食糧価格の高騰が懸念されるという。”【7月19日 AFP】

****干上がる世界の穀倉地帯 米で穀物価格が歴史的高騰****
世界の主要な穀倉地帯で深刻な干魃(かんばつ)被害が広がっている。記録的熱波に見舞われた米国では、大豆やトウモロコシなどの穀物価格が歴史的水準まで急騰。日本を含む消費国への打撃が懸念されている。また途上国では農産物への需要が急増しており、政治的混乱を生み出す懸念も出ている。

カラカラに乾ききった大地に、しおれた作物が今にも倒れそうだ。10日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、インディアナ州のトウモロコシ畑の惨状とともに「全米が干上がっている」と伝えた。

米国は大豆やトウモロコシの生産で世界の約4割を占める世界最大の穀物輸出国だが、今年は大凶作で穀物相場も天井知らずだ。大豆の先物価格は10日に最高値を更新し、トウモロコシや小麦も値を上げた。イリノイ大の農業エコノミスト、ダレル・グッド氏は「消費の増大と収穫量への懸念から、相場が跳ね上がっている」と指摘する。

凶作の原因は今年の異常な熱波。7月の最高気温は米本土の東寄り3分の2の地域の約3400カ所で過去最高と同水準かそれを上回り、数十人が死亡した。

干魃に苦しむのは米国だけではない。生産量で米国を上回るロシアとその周辺国、中国やインドでも高温小雨で作柄が悪化。小麦の生産量の多い黒海沿岸の干魃が深刻なほか、世界的な大豆の生産地である中国東北部や南米も深刻な降水不足や凶作に直面している。

穀物価格の高騰は日本など各国で食品や飼料の価格に跳ね返る恐れが強い。国連食糧農業機関(FAO)は11日、「農産物の平均価格は今後10年間高止まる」と予測し、途上国の需要増に対応するため、2050年までに世界全体の農産物を05~07年比で60%増産する必要があると公表した。

凶作と穀物価格高騰は、10~11年の「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカの民主化運動の一因となった。今年の凶作はさらに深刻で、「世界の指導者は食糧安全保障に一層気を使う」(ロイター通信)ことにもなりそうだ。【7月14日 産経】
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こういう話を聞くと不安にはなりますが、日本など購買力のある国は、高値にはなっても調達することはできるでしょう。問題は購買力のない途上国で、社会不安が引き起こされます。

食糧の話では、生産の問題以外に、大量の食品を“期限切れ”などで廃棄している消費面にも問題があるように思えますが、話がそれますので、また別の機会に。
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