孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  外資系企業に「現地化」政策を通告 経済失速の気配も

2012-07-05 22:25:24 | アフリカ

(今年6月14日、「第2次科学・技術・イノベーション政策」とやらのプロジェクト文書を掲げるムガベ大統領 88歳になるはずですが・・・・。 大統領周辺の既得権益層にとっては、大統領にいつまでも頑張ってもらわねばなりません。“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/7188879055/

一応の区切りをつけたハイパーインフレーションと独裁体制ですが・・・・
アフリカ南部ジンバブエ(かつての白人中心の人種差別国家ローデシア)については、これまで何度かとりあげたように、ムガベ大統領の強引な経済政策(白人農場主の農園を接収し黒人に分配するなどの「現地化」政策)の失敗により経済が崩壊、歴史的なハイパーインフレーションが起こりました。

国土の90%以上を所有していた白人農場主には欧米の本国に住みながらの不在地主も多く、多くの黒人が貧困にあえいでいたということで、「現地化」政策の意図はわかりますが、強引な、時に暴力的な収用などでノウハウを持つ白人農家の消滅や大規模商業農業システムの崩壊を招き、結果的に経済は破綻しました。

2009年1月時点のインフレ率は年率で2億3100万%という数字が公表されていますが、米シンクタンクの試算では、年率897垓(がい)%に上るという数字も出ていました。“垓(がい)”は10の20乗で、897の後ろに0が20個つきます。
“年率897垓(がい)%”と言われても訳がわかりませんが、1日に3回食料価格が値上がりするとか、通貨の額面ではなく重量で取引をする・・・といった状態だったようです。

そのハイパーインフレーションも、2009年1月、政府が信用を失ったジンバブエ・ドルに代えてアメリカ合衆国ドルと南アフリカランドの国内流通を公式に認めたことを契機に劇的な終息を見せました。
このあたりの事情は、10年4月4日ブログ「ジンバブエ  歴史的ハイパーインフレは終息、今も続く政治的緊張・暴力への不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100404)でも取り上げました。
なお、ジンバブエ政府による公表数字では、2010年の経済成長率は8.1%、物価上昇率は4.8%とのことです。

ジンバブエは、経済的問題だけでなく、政治的にも大きな問題を経験しています。
2008年3月の大統領選挙で、野党のツァンギライ氏が強権支配を続けるムガベ大統領を上回る得票を示しましたが、暴力的な脅迫で決選投票への出馬辞退に追い込まれ、ムガベ大統領が権力の座にいすわり続けています。

国際的批判もあって、2009年2月、ツァンギライ氏を首相とする形で連立政権が成立。一応、独裁体制に区切りをつけたことにはなっています。
しかし、その後もムガベ大統領側の対応には大きな変化はなく、新憲法制定プロセスも遅れています。

ムガベ大統領の「現地化」政策のため、投資資金を失うリスクを負うことを望む人はほとんどいない
最近のジンバブエ事情については、自転車での世界一周取材を行っている周藤卓也氏のレポート「アフリカ諸国との格の違いを見せつけられたジンバブエの現状」(3月10日http://gigazine.net/news/20120310-zimbabwe-us-dollar/)があります。
もちろん一個人が短期間に見聞きできる範囲は限定されていますが、思いのほかジンバブエの経済基盤は底堅いものがあるようにも見えます。経済破綻するまでの蓄積が、他のアフリカ諸国とは違うレベルにあったようです。
“スーパーマーケットでは小銭の換わりにレシートや10セントと書かれてある券をくれます。これを次回の会計で出すと値引きされるのです。”といったあたりに、自国独自通貨を放棄した経済の実態も窺えます。

もっとも、ムガベ大統領は、「現地化」政策を放棄した訳ではないようで、下記のような記事が報じられています。

****1年以内に株式の過半数を黒人に譲渡せよ」、ジンバブエ政府が外資系企業に通告****
アフリカ南部ジンバブエの政府は、外資系の銀行や企業に対し、1年以内に株式の過半数をジンバブエの黒人に譲渡するよう通告した。3日の官報に6月29日付で掲載された。

ジンバブエは2007年、黒人の権利拡大法のひとつとして、全ての外資系企業に株式の51%をジンバブエの黒人に譲渡することを義務付ける法律を制定している。この法律の下でジンバブエ政府は、国内で事業を継続するには1年以内に「最低限の現地化と黒人の権利拡大策のための割り当て」を満たすよう通告した。
今回の通告は銀行、ホテル、教育機関、通信、鉱業も対象にしており、これらの業種の外資系企業は株式譲渡計画を提出しなければならない。

旧宗主国である英国のスタンダードチャータード銀行、バークレイズなどの大手金融機関や、南アフリカの鉱山大手インパラ・プラチナムのジンバブエ現地法人で、同国最大のプラチナ鉱山を操業するジンプラッツも対象になる。【7月5日 AFP】
**********************

どこまでやる気かはわかりませんが、白人農場主農園強制収用から経済破綻したことが繰り返されるのでは・・・という懸念もあります。
ジンバブエの失業率は、日本外務省ホームページでは“約80%(2007年:政府発表)(実体は不明)”となっていますが、現在でも生産年齢人口のうち90%が失業していると見られています。
(失業率90%でどうして生活ができるのか不思議ですが・・・)

金融システムの機能不全によって、一旦回復した経済成長にも陰りが出ているようで、「現地化」政策による海外投資の減少はジンバブエ経済にリスクをもたらしそうです。

****枕がわたしの銀行よ」-ドルに頼るジンバブエ****
ジンバブエの行商人イボンヌ・チコッサさん(33)が最後に銀行を訪れたのは2008年、つまり同国のハイパーインフレの最悪期に近い時期のことだ。チコッサさんは当時、毎日夜明けに起きて長い列に並び、1兆ジンバブエ・ドル以上を引き出していた。1兆ジンバブエ・ドルは当時、パン1斤の価格だった。

チコッサさんは首都ハラレの貧困地域ンバレの市場で中古の衣料品を販売している。彼女は「銀行に対してはいまだに強い恐怖がある」と話した。チコッサさんはジンバブエ準備銀行がインフレの助長を容認し、彼女の少ない収入の価値を崩壊させたと考えている。チコッサさんは「今は自分の枕がわたしの銀行よ」と語った。

ジンバブエの経済は成長している。その一因は政府が09年に自国通貨を捨て、米ドルを採用したことにある。この動きによりインフレは抑えられ、投資家が資金を引き揚げるスピードが遅くなった。
しかし、一般市民の間では政府の貨幣問題の対処への不信が根強く、急速な経済成長のために必要な預金が銀行から流出している。

この不透明感がジンバブエをホーダー(現金貯め込み)国家に変えた。ジンバブエの街中に流通する、汚れて灰色になった米ドル札は、多くの2ドル札を含め、堅調な現金経済を裏付けるもので、おおむね銀行を経由していない。2ドル札は米財務省が2006年に最後に印刷したものだ。

ジンバブエの銀行の預金高は「ドル化」以降、10年初めの12億5000万ドルから33億ドル(約2700億円)程度にまで回復した。しかし、ジンバブエ銀行協会によると、国民はこのほか銀行の外で約35億ドル保有しており、銀行の預金高を上回っている。

現金に飢えたジンバブエの銀行と通貨の統制を失ったジンバブエ中央銀行の困難は、ギリシャ、マラウィ、それにスワジランドといったその他の国々の直面する困難と似ている。しかしジンバブエ中銀が抱える問題は、機能不全というさらに別の水準に達している。

ジンバブエ準備銀行は過去10年間、ムガベ政権の長年お気に入りの事業計画に15億ドルを貸し出した。同行は現在、アフリカの地域開発銀行や各国中銀に11億ドルの借金をしている。同行によれば、政府がカネを返さないため、返済できないという。

また03年から同行を率いているギデオン・ゴノ総裁には、私用のために同行の資金を着服した疑惑がかけられている。ゴノ氏はこの疑惑に公式に対応しておらず、ウォール・ストリート・ジャーナルの電子メールへの返信では、詳細に関するコメントを拒否した。同氏は「適切な時期」に疑惑に関する「圧力に対応する」とした。

一方、同行は中銀としてジンバブエの最後の貸し手としての機能でさえも果たせない状況だ。同国政府は最後の貸し手としての業務を再開するための1億ドルのプログラム創設のため、アフリカ輸出入銀行と交渉している。
そのプログラムが創設できず、もし同行が銀行の融資保証に乗り出すことができなければ、流動性は枯渇する。そういった事態は実際に既に起こっている。

一連の問題により、ジンバブエの金融システムはあえぎ、失業率が異常に高い中で、企業から資本が失われている。ジンバブエ当局者は同国の生産年齢人口のうち90%が失業していると推測している。
ジンバブエが自国通貨を捨てて米ドルを採用して以降、同国の経済成長率は09年が6%、10年が9%にまで伸びた。しかし、昨年は6%にまで後退し、今年は3.1%にまで落ち込むと国際通貨基金(IMF)は予想している。

ルネッサンス・キャピタルのサハラ砂漠以南地域担当エコノミスト、イボンヌ・マンゴ氏は銀行セクターの崩壊が成長率の低下につながっていると指摘している。
マンゴ氏は「基本的に通貨政策がない。アイデアが尽きてしまっているのだと思う」と述べた。

銀行セクターの問題は既に暗くなっている投資環境をさらに悪化させている。
同国の手つかずのプラチナ埋蔵量は多く、肥沃(ひよく)な農地もある。しかし、ムガベ大統領の「現地化」政策のため、投資資金を失うリスクを負うことを望む人はほとんどいない。現地化政策とは、農地、ビジネス、それに鉱山の権利を黒人に移管することを目的とした政策だ。【3月27日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
***********************

経済状態が悪化すると、その責任を糊塗するために、白人を標的にした民族主義が扇動される事態もありえます。

【「次の選挙時に、ダイヤ収入が(与党の弾圧による)流血の惨事に使われかねない」】
地下資源にも恵まれたジンバブエですが、強権支配政権のもとでよく見られる腐敗の構造もあるようです。

****ジンバブエ:ダイヤ国庫収入で波紋 目標額の4分の1に****
世界有数のダイヤモンド鉱山を有するアフリカ南部ジンバブエで、今年第1四半期のダイヤからの国庫収入が目標額の4分の1にとどまったことが判明し、波紋を呼んでいる。
ビティ財務相は「収入が別の政府に流れているかのようだ」と述べ、組織的流用の可能性を示唆。ムガベ大統領率いる与党「ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線」の関与を疑う声が出ている。

ビティ氏が所属する旧最大野党で、現在は愛国戦線と連立政権を構成する「民主変革運動」によると、ビティ氏は5月17日、今年1〜3月末のダイヤ収入が、目標額1億2250万ドル(約96億円)の約25%の3050万ドル(約24億円)だったと明かした。
一方、同期間の輸出総額は2億1400万ドル(約167億円)。

ビティ氏は、「不透明さと説明責任の欠如がダイヤモンドを覆っている」と指摘。特に、ジンバブエ政府と合弁でダイヤ採鉱を行う中国系企業を「一セントも支払いがない」と批判した。
これに対し、ムポフ鉱山・鉱業開発相(愛国戦線)は地元紙とのインタビューで「(ダイヤ収入の)目標を上回りたいが、(欧米による)経済制裁が達成を困難にしている」などと述べ、愛国戦線の組織的流用を否定している。

連立政権内で、ダイヤ採鉱を担当する鉱山・鉱業開発省は愛国戦線が押さえている。国際NGO「グローバル・ウィットネス」(本部・ロンドン)は、同党関係者が流用している可能性を指摘、「次の選挙時に、ダイヤ収入が(与党の弾圧による)流血の惨事に使われかねない」と警告した。

ジンバブエでは東部マランゲ鉱山で06年、世界有数の鉱脈が発見されたが、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)によると、同鉱山を国家管理下に置くため国軍が違法鉱山労働者ら約200人を殺害、子供の強制労働も行った。
人権侵害を重く見たダイヤ国際認証制度「キンバリー・プロセス」は09年に同鉱山産ダイヤの輸出を禁じたが、調査のうえ、昨年11月に輸出を解禁した。【6月3日 毎日】
**********************

連立政権とは言いながらも、ムガベ大統領の愛国戦線が重要ポストは押さえています。ダイヤモンド収益の組織的流用も「多分そんなところだろうな・・・」と思われます。

ところで、内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電で、ムガベ大統領が2008年に前立腺がんで余命5年以下と宣告されていたことが、明らかになっていますが、未だお元気なようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする