孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  武器貿易条約不同意で「時間切れ」 コロラド州映画館銃乱射事件でも高まらない銃規制論議

2012-07-29 22:22:23 | アメリカ

(コロラド州オーロラの銃乱射事件現場近くに設けられた、12人の犠牲者を悼む十字架 “flickr”より By kimindergand http://www.flickr.com/photos/kimberlyindergand/7633342122/

【「問題解決には時間が必要」と幕引き
7月25日ブログ「難航する武器貿易条約(ATT)国連会議  武器貿易における初の国際ルール作り」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120725)で取り上げた、戦車や小型兵器など通常兵器全般の輸出入規制を目指した武器貿易条約(ATT)国連会議は、やはり「時間切れ」に終わり、初の国際ルールの合意は得られませんでした。
もとより難航必至の交渉でしたが、アメリカの消極姿勢が決裂への流れをつくりました。

****武器貿易条約:推進派分裂「時間切れ」 国連会議採択断念****
戦車や小型兵器など通常兵器全般の輸出入規制を目指した武器貿易条約(ATT)国連会議は最終日の27日、合意に至らず条約採択を断念し、交渉は決裂した。

国連で議論が始まって6年。地域紛争の激化やテロリストへの兵器流出の阻止を狙う取り組みだが、武器輸出国と輸入国の利害が複雑に絡み合い、打開策には至らなかった。今後の対応は今秋の国連総会に持ち越されたが、合意への道のりは険しそうだ。

モリタン議長は27日条約案採択断念を表明、約1カ月の交渉の打ち切りを告げた。採択は参加193カ国の同意が原則。26日に配布された修正草案では推進派から「合意は近い」との声も聞かれただけに落胆が広がった。

交渉は27日ギリギリまでもつれた。欧州連合(EU)の武器禁輸措置の対象となっている中国は条約対象からEUを外すよう画策。推進派のEUは猛反発したが、中国は「禁輸を解除したら考え直す」と取引材料にした。
世界最大の武器輸入国であるインドは「防衛協力合意に基づく契約上の義務は条約によって無効にならない」との条文明記を主張。「抜け穴になる」との指摘にも「合法な貿易は関係ない」と取り合わなかった。

最大輸出国の米国は条約制定は支持したが、「弾薬は移転の管理が困難」として明記見送りを主張。「弾薬を含めないと意味がない」との批判を浴びたが、「問題解決には時間が必要」といったん打ち切りを求める意見をロシアが支持。条約そのものに消極的な武器輸入諸国も同調し、最終的に「時間切れ」で幕引きとなった。

決裂の伏線には、推進派の温度差もあった。ノルウェーやメキシコなど74カ国は20日、交渉の主導権を得ようと「強い条約」を求める声明を発表したが、英国や日本などは条約案のとりまとめを優先する「モリタン議長の立場に配慮」(政府筋)し、声明に参加しなかった。推進派の分裂で、消極派が勢い付いた可能性もある。

交渉決裂後、日本など約90カ国は今回の条約草案を「我々の取り組みを進めるための基礎」と位置付ける声明を発表した。条約草案がなんとか提示されたことを「成果」と位置付け、新たな交渉の枠組みを含めた今秋以降の議論につなげたい考えだ。ただ、推進派が結束できず、消極派の抵抗も強い現状では難航は必至だ。

◇条約草案の骨子◇
・対象は戦車や戦闘機など大型兵器7種類と小型兵器。弾薬も規制
・大量虐殺や戦争犯罪を助長する場合は移転禁止
・国際人権法や国際人道法違反の恐れがある場合は条件付きで禁輸
【7月28日 毎日】
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上記“条約草案の骨子”に“弾薬も規制”とありますが、弾薬や武器の部品は規制対象には明示されておらず、各国の裁量となっています。

大統領選を控える米オバマ政権が国内の銃規制反対論に抗しきれなかったため
幕引きを図ったアメリカの対応には、合意を求めていたNGOなどから厳しいオバマ政権批判が上がっていますが、国内に強く存在する銃規制反対論との関連も指摘されています。

****国連の武器貿易交渉、銃規制恐れる米国が拒否*****
通常兵器の国際取引を初めて国際法上の規制にかける「武器貿易条約」の国連交渉会議は最終日の27日、最大の武器輸出国である米国が議長案の受け入れを拒み、決裂した。
大統領選を控える米オバマ政権が国内の銃規制反対論に抗しきれなかったためだ。今後も交渉は続けられるが、難航は必至だ。

議長案は、弾薬を規制品目から外し、国際人権法など取引の許可基準運用を各国の判断に委ねる方針を強調するなど、米国の主張にほぼ沿った内容だった。
ところが、米国は27日午前の会議で突然、「(同意に必要な)時間が足りない」と議長案への不同意を表明。第2の武器輸出大国・ロシアも採択の先送りを主張し、条約反対派で反米の北朝鮮やキューバまでが相次いで同調した。同会議は全会一致が原則で、ロベルト・モリタン議長(アルゼンチン)は調整を断念した。【7月28日 読売】
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アメリカ国内の銃規制反対論と「武器貿易条約」反対論がどのようにリンクするのか定かではありませんが、国内で個人が銃によって自衛する権利がるように、各国は武器で自衛する権利がある、それを“大量虐殺や戦争犯罪を助長する場合”とか“国際人権法や国際人道法違反の恐れがある場合”といった条件付けで規制するのは国内銃規制強化にもつながり容認できない・・・という発想でしょうか。
各自が“銃・武器・力”を保持することによって秩序が保たれるという考え方であり、管理されない銃・武器の広範な存在が治安悪化・紛争を助長するという考え方とは基本姿勢が異なります。

政治的“タブー”と化す銃規制論議
7月20日におきたコロラドの映画館で起きた銃乱射事件が、アメリカ国内での銃規制強化を求める動きにつながらないということは各紙が報じているところです。
むしろ、事件後、コロラド州では銃の売り上げが急増しているそうです。
「あのとき銃を持っていれば、身を守れたのに」というのがアメリカ国民の反応のようです。

オバマ大統領も、「このような暴力と悪は、無意味だ。政治を語るのはほかの日にして、今日は祈りと黙考の日にしよう」と追悼の言葉は述べても、銃規制はおろか「銃(gun)」という言葉すら口にはしません。
もちろんロムニー候補も同様です。

アメリカの有力政治家で銃規制に言及したのは、銃規制推進派であるニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏だけというのがアメリカ政治の実情であり、銃規制はもはや“タブー”と化してしるように見えます。

こうした背景には“有権者の銃に対する動向を探ると、なんと45%の人が自宅に銃を保有している(2011年10月ギャロップ社調査)。さらに、銃器の販売をもっと厳しくするべきかどうか、という問いに対し、「厳しくするべき」と答えた人は43%なのに対し、「緩和するべき、あるいは現状維持」と答えた人が55%と上回った。
さらに、会員400万人という強力な銃保有の支持団体「全米ライフル教会(NRA)」がある。人口で単純に割れば、100人に1人がNRC会員だが、有権者に占める割合は当然もっと高い。
これに対し、銃規制を訴える団体は多くあるものの、NRAに匹敵する政治力、資金力があるものはない。ブルームバーグ市長が06年に設立した「メイヤーズ・アゲンスト・イリーガル・ガン(MAIG)」の会員は600人だ。”【7月27日 ウォール・ストリート・ジャーナル】という現実があります。

凶悪事件を見聞きして各自が銃による自己防衛を図るというのは、一見“もっともな行動”のようにも思えますが、不況下の家計が節約に努めると結果的に社会全体の景気を更に悪化させるように、自衛のための銃保持の拡大は結果的には治安の悪化を招き、自身の危険を増大させます。

【「同情など求めていない。われわれが求めているのは行動だ」】
アメリカでも20年前までは、こうした事件が起きると銃規制論議が高まり、何らかの規制が強化されており、昔から銃規制がタブー視されていた訳ではないようです。

****それでも銃規制は進まない****
アメリカ コロラドの映画館で起きた銃乱射事件で10人以上が死亡 連邦レベルの銃規制が求められる一方で、なぜ推進運動は低調なのか

(中略)銃規制を求める民間団体ブレイディ銃暴力防止センターは直ちに、銃犯罪の犠牲者は「同情など求めていない。われわれが求めているのは行動だ」とする声明を発表した。だが過去20年間がそうであったように、アメリカではどんなに痛ましい事件が起きても、それが単なる同情を超えて銃規制改革に結び付くことはなさそうだ。

コロラド州では13年前にも、コロンバイン高校銃乱射事件という悲劇が起きている。高校3年生のエリック・ハリスとディラン・クリーボールドは、教師1人と生徒12人を射殺(犯人2人も自殺)。アメリカの高校史上最悪の銃乱射事件となったが、それが銃規制法の改正につながることはなかった。 

アリゾナ州トゥーソンでは昨年、同州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員のイベントで銃乱射事件が発生。ギフォーズは頭に銃弾を受けながらも一命を取り留めたが、連邦地裁判事やギフォーズの支持者計6入が死亡した。
近年ではほかにもカリフォルニア州シールビーチの美容院(死者8人)、テキサス州のフォートフッド陸軍基地(同13人)、ニューヨーク州ビンガムトンの移民支援センター(同13人)で銃乱射事件が起きた。だがそのどれとして銃規制の強化につながらなかった。

ブレイディ法以降は停滞
唯一の例外は、07年にバージニアエ科大学で起きた銃乱射事件(死者32入)だ。もともと連邦法では、裁判所によって精神障害者と認定された人物を州政府がFBI(米連邦捜査局)に報告し、こうした人物への銃販売を防止することになっていた。
ところがバージニア工科大学事件で、州が予算不足からこの報告を怠っていた実態が明らかになり、連邦政府がこの分野で州政府への補助金を拡大する法案が採択された。とはいえ、この法律も銃規制そのものに大きな変化をもたらすものではなかった。

昔はこうではなかった。世間を大きく騒がせる銃関連事件が起きると、規制強化を求める声が強まったものだ。アメリカ初の本格的銃規制である連邦銃器法(NFA)も、1929年の「血のバレンタインデー事件(ギャングのアル・カポネの一味が、敵対組織の6人と通行人1人を機関銃で虐殺)」がきっかけだった。
壁に残る無数の弾痕と、折り重なって倒れる遺体の写真が全米の新聞の一面を飾ると、銃規制を求める声が一気に高まった。その先頭に立ったのはフランクリン・ルーズペルト大統領自身だ。こうして34年に採択されたNFAは、機関銃などギャングが好む銃火器の入手資格を厳格化した。

68年にマーチン・ルーサー・キング牧師とロバート・ケネディー司法長官が相次いで暗殺されたときは、68年銃規制法(GCA)が採択された。同法は製造・輸入・販売業者に連邦政府の免許制を導入。購入できる年齢を制限し、犯罪歴のある人物に対する銃の販売が禁止された。

93年にはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけにブレイディ法が生まれた(その名は事件で重傷を負ったジェームズ・ブレイディ大統領報道官に由来する)。同法により銃販売店は、購入希望者の犯罪歴を警察に照会することが義務付けられた。

だがブレイディ法以降は、大規模な統犯罪が起きても規制強化が図られることはなくなった。
なぜか。
最大の原因は、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力が高まったことと、統規制運動が下火になったことだろう。

NRAは南北戦争後の1870年代から存在するが、その活動が先鋭化したのは1970年代半ばに強硬な統規制反対派が幹部になってからのことだ。新生NRAが統規制撤廃を活動目標に掲げる一方で、伝統的に統規制に前向きだった民主党は94年に連邦下院で過半数割れを喫して以来、統規制問題を避けるようになった(ビル・
クリントン大統領ら民主党はブレイディ法案を採択したことが過半数割れの原因だと考えていた)。

新たな統規制法が実現する可能性が乏しくなると、統規制運動自体が下火になった。現在、主だった統規制推進団体は資金不足で存亡の危機に立たされている。

今回も規制強化は無理?
統規制が進まないもう1つの理由は、乱射事件を防止する効果的な方法が見当たらないことだ。コロンバイン高校の2人は年齢制限によって自分では統を購入できなかったが、(違法行為だが)自分たちの代わりに統を購入してくれる年上の友人を容易に見つけた。

ギフォーズの統乱射事件後は、10発以上装填できる銃の販売禁止を求める声が高まった。だがそうした銃は既に大量に流通しているし、今回のオーロラ市での銃乱射事件のように、犯人が複数の銃を使っていたら、1丁に装填できる銃弾の数を制限しても意味がない。

悲惨な銃乱射事件が起きると、普段は銃規制の必要性を考えなかった人も、危機感を募らせて規制に賛成しやすくなる。銃規制推進派が、こうした世論を追い風に、新たな規制を実現する力を失ってしまったのは残念なことだ。

その一方で、アメリカが必要としているのは新たな細かい規制ではない。必要なのはすべての州で拘束力を持つ連邦法によって銃の販売や購入を規制することだ。
現在のアメリカの銃規制は、50の州と連邦政府の法律のパッチワーク状態だ。だが州を越えて銃を輸送するのは簡単だから、法の目をかいくぐるのも簡単だ。アメリカは今、国として銃規制をもっと包括的かつ徹底的に考えてくれる指導者を必要としている。

だがコロラド州の映画館で起きた事件は、コロンバイン高校やトゥーソンやフォートフッド基地で起きた過去の悲劇と同じように全米の同情を集めるだけで終わりそうだ。実際には、銃規制に本当に必要な政治的アクションにはつながりそうにない。【8月1日号 Newsweek日本版】
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