孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロンドンオリンピック  国家・民族・宗教の影

2012-07-27 23:52:26 | 国際情勢

(コソボのマイリンダ・ケルメンディ選手の試合ですが、左右どちらが彼女だかよくわかりません。右の青色の方のような気がするのですが・・・ “flickr”より By Dominique Schreckling (tcom) http://www.flickr.com/photos/dschreckling/7027488231/

【「コソボの旗を表彰台で仰ぎ見たい」】
男女サッカーの健闘で、日本にとっては幸先がいいスタートとなったロンドンオリンピックですが、世界規模の国際大会である以上、スポーツの祭典であるオリンピックにも国際政治の影がさす面があるのは止むを得ないところです。

セルビアからの分離独立を宣言したコソボは、いまだ国連加盟には至らず、IOCもコソボ五輪委を承認していません。
そのためコソボの女子柔道選手は、不本意ながら、彼女が持つもうひとつの国籍である隣国アルバニア代表としてロンドン五輪に出場します。

****私はなぜ他国の代表なの コソボ〈五輪が映す世界****
トリポリから地中海を挟んで北へ1300キロ、欧州のコソボ。柔道女子52キロ級のマイリンダ・ケルメンディ(21)はこの夏、隣国のアルバニア代表としてロンドン五輪に出場する。

「私はコソボ人。なぜ他国の代表で出ることしか許されないの?」
彼女が幼かった1990年代、旧ユーゴスラビアの紛争が激化した。生まれ育ち、いまも「IPPON」という名の道場で鍛錬する西部の街ペヤには、空爆に遭った建物が残る。
混乱を経てコソボが独立を宣言したのは2008年。日米や欧州諸国はすぐに認めたが、自国内の独立の動きを刺激したくないロシアや中国が反対。コソボはいまだに国連に加盟出来ず、国際オリンピック委員会(IOC)もコソボ五輪委を承認しない。

コーチのドリトン・クカ(40)も、92年バルセロナ五輪の旧ユーゴ代表に内定しながら、激しさを増した民族対立のため代表権を奪われた。「20年経ってもスポーツは政治に勝てない」

マイリンダの実力ならメダルも狙える。だから国籍変更の誘いが相次いだ。旧ソ連のアゼルバイジャンからのオファーは年間12万ユーロ(約1200万円)。だが、「コソボの旗を表彰台で仰ぎ見たい」と断った。
師弟は今回、IOC理事らに手紙を書いた。「せめてIOC旗の下で出させてほしい」。開会式で一人、IOC旗を持って行進すれば世界は自分たちの境遇に気づいてくれるはず――。

5月24日、IOC理事会の出した結論は非情だった。アルバニアはコソボ独立前から持つ彼女のもう一つの国籍だ。
マイリンダ、あなたは何のために戦うの? 「自分やコーチ、応援してくれる家族のため。もちろん祖国のためにも」【6月29日 朝日】
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【“国家”をアピールする格好の場
パレスチナはコソボ同様に国連正式加盟は未だ実現していませんが、オリンピックの方はパレスチナとして参加しています。
ただ、これまでは“招待選手”としての参加でしたが、今回は実力での参加を決めた男子柔道選手がいて話題となっています。

****初の「実力」五輪選手=柔道73キロ級のアブルミラ-パレスチナ〔五輪・柔道****
パレスチナから初めて実力で五輪出場を決めた柔道男子73キロ級のマヘル・アブルミラ(28)。今年5月に、2010年の世界選手権(東京)で得たポイントで、「全く頭になかった」というアジア枠でのロンドン五輪出場が突然転がり込んできた。

パレスチナは今もイスラエルの占領下にあり悲願の独立は達成していないが、五輪には1996年のアトランタ大会から参加。ただし、これまで出場した10人はいずれも招待選手だった。

パレスチナの柔道人口は約1000人。アブルミラは、選手だった父の手ほどきで7歳から始めた。父が営むエルサレム旧市街のスカーフ店を手伝う合間に、東エルサレムの小さな町道場で白帯の子どもらに交じり、朝夕2時間ずつ汗を流す。(中略)

アブルミラは27日の開会式で旗手を務める予定。設備のより充実したイスラエルの道場にはあえて通わなかったといい、「パレスチナが五輪に実力で代表を送り込めるということを世界に示したい」と意気込んでいる。【7月11日 時事ドットコム】
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パレスチナにとっては、オリンピックは“国家”をアピールする格好の場ですが、アブルミラ選手の出身がイスラエルとの間で帰属がもめている東エルサレムであるため、“パレスチナ、出身:東エルサレム”というのは、また特別の意味があるようです。

南オセチアやアブハジアはロシア?】
一方、出身地の記載が問題となっているのは、グルジアからの独立を主張している南オセチアやアブハジア出身のロシア選手です。

****グルジア、五輪サイトに抗議 選手生誕地の表記巡り****
親欧米政権の旧ソ連グルジアの国家オリンピック委員会が、ロンドン五輪の公式サイトで紹介されているロシア選手の生誕地の表記の仕方が誤っているとして、ロンドン五輪組織委員会に抗議文を送った。グルジアが自国領だと主張する南オセチアやアブハジア自治共和国が「(ロシア)」と付記してあるためだ。

グルジアは2008年8月の北京五輪の開幕直前、かねて独立を宣言していた南オセチアを電撃攻撃し、ロシアの軍事介入を招いた。その後、ロシアは南オセチアとアブハジアのグルジアからの独立を承認したが、グルジアや欧米など多くの国は両地域の独立は認めていない。前回の五輪時に起きた紛争が、今も尾を引いている形だ。

公式サイトでは、レスリングに出場するクドゥホフ選手の生誕地を南オセチアのロシア語読みに従い「ユージュナヤ・オセチア」と英字で表記。同じレスリングのツァルグシ選手の生誕地はアブハジアの都市グダウタと書かれ、いずれも末尾に「(ロシア)」と付けられている。両地域の独立を認めているロシア側から見ても誤った表記だ。

インタファクス通信によると、グルジア側は両選手の生誕地に「グルジア」と明記すべきだとしている。【7月27日 朝日】
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どういう事情で“ロシア”と表記されたのかはわかりませんが、両地域をロシアに併合したいというのはプーチン大統領の本音ではあるでしょう。もっとも、独立を認めない欧米諸国との国際関係を考慮すれば、現段階ではさすがにそうしたことは口にしていません。

サウジ女子柔道選手のヒジャブは?】
宗教関係では、イスラム国の女子選手のヘジャブがまた問題となっています。
イラン女子サッカーチームがアジア予選段階で、ヒジャブ着用を理由に出場資格がないとされた問題は、6月27日ブログ「サウジアラビア  オリンピックへの初の女性選手参加 女子スポーツに関する国内・国外の障害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120627)で取り上げましたが、“2012年7月5日、スイス・チューリッヒにあるFIFA本部で開かれたIFAB特別会合で、イスラム教徒のヒジャブの使用が認められることになり、同年10月にスポーツに適したヒジャブのデザインを規定することになった”【ウィキペディア】とのことです。

今回問題となったのは、7月5日ブログでも取り上げたサウジアラビア女子選手です。
サウジアラビアは女子選手が参加しない国という汚名返上のため、ロンドン大会には女子選手出場をきめました。
その人選にはいろいろなトラブルもありましたが、結局、柔道と陸上の女子選手各1人を派遣することを7月12日に発表しています。

そのサウジアラビア女子柔道選手のヒジャブについて、国際柔道連盟(IJF)は認めない方針のようです。
確かに他の競技と異なり、絞め技などのときどうか・・・という問題はありそうです。

****ロンドン五輪:女子柔道、ヘジャブ着用不可 サウジ反発も****
国際柔道連盟(IJF)は26日、ロンドン五輪の女子柔道競技でイスラム諸国から要求のあったヘジャブ(イスラム女性が頭髪を隠すスカーフ)着用を認めないことを改めて確認した。サウジアラビアから初出場予定のウォジダン・シャハルハニ選手(78キロ超級)は頭髪を隠せないことになり、サウジ保守派から出場への反対が強まる可能性がある。

AP通信などによると、IJF広報担当は「柔道は寝技や絞め技があり、ヘジャブは危険になる可能性がある」と理由を説明した。IJFは従来から、女性のスカーフ着用を認めていないが、イランなど男性の前でスカーフ着用を義務付けているイスラム国はIJFに柔軟な対応を求めてきた。

サウジは今回初めて、五輪にシャハルハニ選手ら女性2選手を派遣することを決めた。これに際しサウジ五輪委員会は、イスラムの服装規定が尊重されることが出場の条件になるとの考えを強調していた。
サウジは最も保守的なイスラム国の一つ。しかも、イスラム社会は今、最も宗教心が高まる断食月(ラマダン)に入っており、イスラム女性が公然と頭髪を露出させた場合、宗教界を中心に強い反発が出るのは確実だ。
サッカーやテコンドーでは女性のヘジャブ着用が認められている。【7月27日 毎日】
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拒否された「欧州最後の独裁者」】
選手ではなく、観戦が拒否されたのがベラルーシのルカシェンコ大統領。「欧州最後の独裁者」という悪名高い人物です。

****大統領の五輪観戦拒否される=制裁下のベラルーシ****
野党弾圧を理由に「欧州最後の独裁者」と非難されるベラルーシのルカシェンコ大統領が、27日開幕のロンドン五輪の観戦を拒否されていることがロシア・オリンピック委員会幹部の話などで分かった。制裁として欧州連合(EU)入域拒否の「ブラックリスト」に掲載されているためだが、選手団は競技に参加するという。

ルカシェンコ氏は自国オリンピック委会長の立場にもかかわらず、インタファクス通信によると、今回の五輪を「汚れた政治」呼ばわりして批判していた。観戦できないことへの「恨み節」だった可能性がある。

一方、隣国ロシアのプーチン大統領は近くロンドンに飛び、自身が黒帯を持つ柔道を観戦する予定。開催国のキャメロン英首相は「プーチン氏と一緒に見る」と秋波を送り、内戦が激化するシリア問題などを「五輪外交」で協議したい考えだ。【7月27日 時事】
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「同性愛者になるくらいなら独裁者のほうがましだ」といった発言(同性愛者であることを公言ドイツ外相を揶揄した発言)などでEUとの関係が悪化しているベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、2014年アイスホッケー世界選手権を首都ミンスクで開催する予定だそうです。

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これまで欧米から度重なる制裁を受けてきたルカシェンコ大統領だが、今度は2014年アイスホッケー世界選手権のミンスクでの大会開催が危ぶまれている。熱烈なスポーツ愛好家の大統領にとって、これは深刻な問題だ。

既に新スポーツ施設を首都に建設済みのルカシェンコ大統領は、ミンスクでの開催に確信を持っていると語っている。「ベラルーシは、2014年世界大会をミンスクで開催する資格がある。非常に真剣に準備を進めている」と、ルカシェンコ氏は発言している。【3月7日 AFP】
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