(Nozeni Izatullah(18歳 北アフガニスタンのMaimana女性刑務所) 50日の間誘拐されて、強姦されたあと、Nozeni は「道徳的な罪(Moral Crimes)」で服役しているそうです。 “flickr”より By Christian Aid http://www.flickr.com/photos/christianaidimages/8314121349/in/photolist-aEA9o1-dEG3BP-aEA9o5-aUN1Gr-aXLiyK-8rVVWt-8rZ3hf-arvijt-hEXMWN-94HoAW-fDJuQk-bfTv8i-9HhKL2-9dTd52-dr6CPQ-bL7T1n/)
【悪化する治安状況】
14年末までの外国軍撤退に向けたアフガニスタンの動きは、これまでも再三取り上げてきましたが、治安状況は悪化の方向にあります。
特に、子供や女性の犠牲者が増加しています。
****アフガン:昨年の子供死傷者1756人****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は8日、昨年1年間でテロ攻撃や戦闘に巻き込まれて死傷したアフガニスタンの民間人についての報告書を発表した。
それによると、子供の死者は561人、負傷者は1195人。女性の死者は235人、負傷者は511人に上った。子供と女性の死傷者は前年比でそれぞれ34%増、36%増となり、2009年以降、最悪となった。
全体の民間人の死者は2959人、負傷者は5656人で、死傷者総数は前年比14%増。過去最悪だった11年(死者3021人、負傷者4507人)並みとなった。
01年のアフガン戦争開戦後、駐留してきた米軍など駐留外国軍は今年末までに任務を終了する予定。だが、旧支配勢力タリバンが依然、激しい攻撃を繰り返しており、UNAMAの報告書は、悪化する治安情勢を統計上からも裏付ける内容だ。
UNAMAによると、昨年の死傷者のうち、74%はタリバンなど武装勢力による爆弾などのテロ攻撃の被害者。タリバンは「民間人を標的にしていない」と繰り返し主張してきたが、UNAMAは「タリバンは無差別的な民間人への攻撃を激化させている」と非難した。
一方、アフガン軍・警察の攻撃に巻き込まれたのは8%、駐留外国軍の攻撃に巻き込まれた被害者は3%だった。09年から昨年までの死者総数は1万4064人。【2月9日 毎日】
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【“家庭内暴力の被害者は事実上黙殺されることになる”】
そうした一般情勢・治安状況とは別に、気になる報道がありました。
家庭内暴力を受ける女性にとって不利になるような法改正が行われようとしているという記事です。
ただ、下記記事以外に情報がないので、今回の改正(改悪?)の内容、その背景はよくわかりません。
****アフガン新法、女性にとって致命的****
ナショナル ジオグラフィックの写真家リンジー・アダリオ氏によれば、アフガニスタンの議会で可決された新法がハーミド・カルザイ大統領の署名によって成立すれば、家庭内暴力の被害者は事実上黙殺されることになるという。
アダリオ氏は14年前にタリバン支配下のアフガニスタンを初めて訪れ、以来毎年足を運んでいる。その間にアフガン女性の人権や保護は強化され、今では多くの女性が教育を受け、仕事に就けるようになった。
ところが昨年、国連の報告ではアフガニスタンでの女性に対する暴力の報告件数が28%増加したにもかかわらず、告訴はほとんど増加しなかった。
そして今、些細だが重大な変更が刑法に加えられようとしている。これが現実となれば、すでに家庭内暴力が蔓延したアフガニスタンでの告訴はほぼ不可能となる。2009年に可決された女性に対する暴力撤廃法(EVAW)は、未成年者の結婚や強姦、その他の女性に対する暴力行為を法的に罰する画期的な法律だ。しかし、法律は執行されない限り効力を持たない。
自身が数年にわたって記録してきた数々の得難い進歩を今回の法案がいかに後退させることになるのか、アダリオ氏に話を聞いた。
◆アフガニスタンの議会が可決した新法について教えてください。
簡単に言ってしまえば、女性が暴行を受けたり強姦されたりした場合に親戚が証言することを禁じる法律です。実質的には、誰も証言することができなくなります。
なぜなら、女性が会うのは親戚だけであり、女性は親戚の目にしか触れないからです。加害者は多くの場合が家族であり、目撃者も親戚に限定されます。女性が暴行を受けている間やその後の内情に通じているのは、彼らだけなのです。
この新法は、家庭内の女性に何をしてもよいと非直接的に認めるものです。告訴される心配がなくなりますから、加害者は野放し状態になります。
◆あなたがこれまでにアフガニスタンで目にしたことを踏まえると、この法律は女性にとって何を意味すると思いますか?
アフガニスタンでは至る所で暴力行為が起きています。2年以上にわたるナショナル ジオグラフィックの取材で約300人の女性にインタビューをしましたが、彼女たちは極めて高い割合で繰り返し殴られたり、何らかの虐待を受けたりしていました。
殴る行為はかなり蔓延しているようでしたが、理解しがたい現象です。男性の通訳者に聞くと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や戦争、あるいは文化的要因によるものかもしれないとのことでした。
今回の新法が成立すれば、こういったことが行われても加害者には何の影響も及ばなくなります。
◆2009年に女性に対する暴力撤廃法が制定されたにもかかわらず、なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?
戦争とタリバン支配の終了に象徴される2000年か2001年までさかのぼる必要があると思います。女性の人権擁護に関する前進は見られたものの、実際には実施されていないものが多くを占めています。
暴力を受けた女性たちには行く場所もありません。アフガン女性を救う女性たちの会などが運営するシェルターもありますが、アフガニスタンの中で広く受け入れられているものではありませんし、常に攻撃や閉鎖の危険にさらされています。
夫から日常的に暴力を受けていたとしても、女性が離婚を求めるのは容易なことではありません。離婚は社会の中で受け入れられていないのです。
もし離婚を求めたとしたら、たいていは恥をかかせたとして家族に殺されるか、刑務所に入れられます。
今後、国際社会はアフガニスタンから撤退しますから、国民は自分たちで決断する必要に迫られます。これが彼らの決断なのだとしたら、非常に恐ろしいことです。アフガニスタンの女性にとってゾッとするような未来になるでしょう。
◆法律は成立すると思いますか?
それはわかりません。人権保護団体がカルザイ大統領に対して反対を主張し、署名しないよう求めています。
しかし彼はこのところずいぶん傲慢ですから、何とも言えません。
◆女性のシェルターでは極端な暴力を目にしましたか?
はい。信じがたい、行き過ぎた暴力です。熱した金属で焼かれた女性。集団で強姦された女性。鼻を削ぎ落とされた女性。何でもありです。本当に何でもありです。
人間が別の人間、まして女性に対してこんなことができるとは想像もしませんでした。何年にもわたりシェルターを定期的に訪れましたが、その度に涙が流れましたし、悲しみで何もできなくなりました。
一歩進むごとに十歩後退しているという現状です。彼らはどこかの時点で、前に進むことを自ら選ばなければなりません。【2月10日 ナショナルジオグラフィック】
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【「道徳的な罪(Moral Crimes)」】
未成年者の結婚や強姦、その他の女性に対する暴力行為を法的に罰する2009年に可決された女性に対する暴力撤廃法(EVAW)にもかかわらず、アフガニスタンでは法的にも女性の権利が守られているとは言えない状況にあることは、かねてより指摘されています。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「Afghanistan: Hundreds of Women, Girls Jailed for ‘Moral Crimes’ 」(英文)(http://www.hrw.org/news/2012/03/28/afghanistan-hundreds-women-girls-jailed-moral-crimes)でアフガニスタンの現状を批判しています。
“2009年に制定された女性に対する暴力の撤廃に関する法律では、女性に対する暴力は犯罪であるはずなのに、現実には強制結婚や家庭内暴力から逃げ出した多くの女性が「道徳的な罪(Moral Crimes)」で逮捕拘束されている。
未成年者収容施設の少女の殆ど、刑務所の女性の半数が、この「道徳的な罪(Moral Crimes)」による拘束者である。
強姦されるか、売春を強いられた後に 、「zina (結婚の外のセックス )」の有罪判決を受けて逮捕された女性もいる。
力をふるった男性側は野放しになっている。
「道徳的な罪」で女性を有罪にしようとする警察、検察官、裁判官は虐待の証拠を無視する・・・・”といった内容です。
【女性への暴力事件が増え続けている一方で、国際治安支援部隊は撤退の途にある】
国連の女性のための機関「UN Women」も、以下のようにアフガニスタン女性のおかれた現状を批判しています。
****ミチェル・バチェレの声明: アフガニスタン女性に対する暴力を非難****
「UN Womenはアフガニスタン女性に対する暴力を非難し、法的正義をもとめる」
UN Women事務局長、国連事務次長 ミチェル・バチェレの声明
アフガニスタン国内では、ここ数週間のあいだに、女性に対する命にかかわる虐待や残虐な暴挙が何件も起こっています。アフガン地方警察(ALP)による若い女性ラル・ビビの拷問と強姦、同じく歳若い女性ナジバの公開処刑などは、国内外に激しい憤りをもたらしました。
世界がアフガニスタンにおける役割を定義しなおし、アフガニスタンの政府が移行段階を進んでいる時に、これらの事件は、女性や女児の権利を保護する事の継続的かつ緊急の必要性について、今一度注意を喚起するものです。
このような残虐な行為は到底容認出来るものではありません。UN Womenは、これらの犯罪に対するアフガン政府が緊急に対処する事を求めます。
そして、犯罪者を法に基づいて裁き、女性や女児に対する暴力や差別について「何の責任も問われない免責」の文化を終わらせ、「如何なる暴力も許さないゼロ容認」の文化を作り出すことを要請します。
アフガニスタンの独立した「人権委員会」によって報告される、女性への暴力事件が増え続けている一方で、国際治安支援部隊は撤退の途にあります。
こうした中、過去十年の間に女性の為に、また女性と共に作り上げてきた進歩を維持し、更に前進させること、そしてアフガニスタンの将来の進路を決める作業に女性の関与を充分に確保することが、不可欠なのです。
自国に大きく影響を及ぼす重要な意思決定のプロセスにおいて、アフガン女性や女児が無視される状態が続いていては、「より安全で繁栄し安定したアフガニスタン」というビジョンは達成されません。
先週土曜日、国際社会は東京で開かれた援助国会議において、アフガニスタンに160億ドルの拠出を決めました。この拠出金の中のかなりの部分を、アフガン女性と女児のための司法制度や、全面的な参加の確保に充てることにより、アフガニスタンは平和と民主主義を達成する足場をより確たるものにすることでしょう。
アフガニスタン政府と国際社会が、東京で誓約したコミットメントを、なんとしても守ることが絶対必要です。
このコミットメントには、憲法その他の基本的な法律が「迅速に、公正に、透明性を持って遵守される」ことによって、すべての人々、とくに女性の司法制度へのアクセスを改善することが含まれています。
また、法の遵守だけではなく、被害者への対応も含めた「女性に対する暴力を撤廃する法」の実施を確実にする、というコミットメントも含まれます。
アフガニスタンの進展を確実にするには、女性の権利・平等・説明責任を優先すること、そして女性と女児に対する暴力の免責を終わらせることを目指し、我々が連帯して行動しなければなりません。
UN Womenは、女性のエンパワメントとジェンダー平等のために、アフガニスタンの政府や国民とともに、今後も努力を続けて参ります。【2012年7月18日】
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14年末までの外国軍撤退を控えて、カルザイ政権はアメリカとの関係が悪化していることは、これまでも取り上げたところですが、カルザイ政権はタリバンとの政治和解を求めています。
政治和解自体は望ましい方向ではありますが、その流れのなかでは、欧米的価値観からすれば女性に対する権利保護が図られていないと思われるようなイスラム的価値観や部族的・伝統的な慣習が、これまで以上に前面に出てくることも懸念されます。